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言われて知世は困惑すると同時に、その身がすくむように感じた。男の視線には、確信を思わせる一本の固い芯が通っているように思えた。
「私にはデザイナーを気取るつもりはありません。まして、美術の心得があるなどと、口が裂けても言うことはいたしません。ただ、物作りに携わる者の勘とでも言いましょうか、どうも鎧塚氏の作品には、ちぐはぐな点があるように思えてならないのです」
男の顔をじっと見続ける成沢の目が、その話の先を無音のうちに要求していた。それを見て知世も、「どういうところが」と単刀直入に訊くのが無粋に思い始めた。男が続ける。
「あくまで個人的に思うことです。厚かましい物言いであるのは重々承知の上、申し上げることにいたします。一般的に作品の各箇所にはそれぞれ、ふさわしい色が配置されるはずです。仮に絵筆による物だとすれば、それこそ常人の理解を超えた精緻な技術によって、きめ細かい部分にまで配色がなされるでしょう。それがまさに『繊細さ』というものなのです。お二方も、貨幣やコインがテーマとなった、あの第三の部屋を見物されたでしょう。第一、第二の部屋は創造の観点から申しますと、納得のゆく作品ばかりと言えます。最初の部屋では初々しく希望に満ち溢れ、時には微笑ましくも思える作品が多く見られます。次の部屋は一転して邪悪な印象ばかりが強調されますが、先ほど申し上げた氏の辛い過去を鑑みることで、共感を呼びうると言えないこともありません。しかしですよ」
回転数を増していく男の舌を前に、二人は完全に沈黙した。このとき知世は、珍しく相手の勢いに押されかける警部の様子を、二の腕付近の肌で感じ取っていた。




