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ここまで話が進んだところで、成沢はカップを取り、コーヒーを一口すすった。すると山喜も、すっかり冷めていそうな紅茶をゆっくりと口に運んだ。知世も砂糖とミルクを入れると、つかの間の休息に身を浸した。
「すると、山喜さんが」成沢の声は、発せられるごとに柔らかくなっていく。「鎧塚さんを訪ねようとした理由は、ご自身で制作された『五百円硬貨』についてうかがうためだった、と」
「そういうことです」山喜の口調にも、立場を理解してもらえた安堵が含まれていた。「『五百円玉』制作に関する交渉の最中、硬貨の色、そして翼のマークの意味について鎧塚氏に尋ねたことがありました。すると、氏は『天国へ贈るコイン』なのだ、とおっしゃっていました」
「天国へ贈るコイン」成沢と声が揃ったことで、知世は笑みを漏らしそうになった。しかし、作り上げた空気を壊してはならないとも思い、静かに鋳造士の言葉に耳を傾けた。
「そうです。それまで私は、鎧塚氏という芸術家の存在をはっきりとは知りませんでした。仕事依頼を受け、これまで申し上げたようなやり取りをするうちに、インターネットで氏の活動や人柄を出来る範囲で調べるようになりました。すると、氏が若い頃、息子さんを亡くされたことを知ったのです」
「流産だったそうですね。非常にお気の毒です」成沢が物憂げに言う。
「はい。その悲しみはとても深く、以降出産されることもなかったようです」
「では」思い浮かんだことがあり、木崎の口が自然に動いた。「あの純金色の五百円硬貨は、天国にいる息子さんへ贈るために作られた、ということでしょうか」
「冥銭のようなものか」成沢もそれまでと同じ口調で同意する。すると、鋳造士が「しかし」と、語気をわずかに強めた。
「今回の個展で、私が作ったあの五百円玉は一つも確認出来ませんでした」
「山喜さんも当然、館内の作品を観覧されたんでしょうね」と成沢。
「むろん観覧いたしました。二度もチケット代を払い、館内を隅々まで見て回りました。ですが、ついに私の制作物を見つけることはありませんでした」
知世が「あの大きくて綺麗な、『一瞬でも居てくれた君へ』でしたか。あれにも」と言い出すと、初めて山喜が両目を真っすぐに向けてきた。
「あれが本当に綺麗だとお思いですか」




