5-12
千夜が出ていった後の部屋で、
しばらくぼんやりしていると。
ドアが遠慮がちにノックされ、小さなメイドの声がした。
「羊一さま、ベルですわ。『お手紙』をお持ちしましたの……」
普段より少しトーンの低い、心配そうな声色だった。
「コーヒーも、淹れてきました……」
「すまねぇな、気ぃ遣わせて」
おれの心がささくれてるのをベルもベルなりに気にしてるのか、最近はあまりはしゃぎ回ったり甘えた様子を見せなくなった。
むしろなるだけ邪魔にならないようにコソコソ振る舞いながら、一生懸命、家事をしている。そんな姿はいじらしく、おれはたまらない気分になった。
「ベル。ちょっとそばにきてくれ。そう、それは置いといて……」
おれはベッドに腰掛けたまま、ベルの体をそっと抱きよせ、小さなお腹に顔を埋めた。
「わっ! わわわっ! 羊一さま!?」
まっ赤になってあたふたしているベルには申し訳ないが、おれの気持ちは限界だった。
「なぁ、ベル。ごめん、ごめんな……」
——おれ、もうダメかもしれない……。
弱音を吐いて、謝ると。
ベルは自分の役目を知って、不思議と落ち着きを取り戻し。
おれの頭をやさしくなでた。
「……羊一さまはダメじゃないですわ。ベルのステキな王子さま、世界一かっこいいですわ」
ぽん、ぽん、と手のひらで。
まるで赤ん坊をあやすように。
売れ残りの型落ちロボットは、ダメな男を慰めた。
「ヒーローでも、ヒーローでなくても。ベルは羊一さまが大好き。自信を持ってくださいな……」
(今となっては不思議なもんだ……)
ベルと初めて会った頃。
まさか将来、こんな形で慰められることになるとは、さすがに想像していなかった。
——おしゃべり時計「プリティ・ベル」(定価320円)。
(『めざまし』なんていらねぇな……)
特売ワゴンの前を一度はあっさり通り過ぎたくせして、結局、後から買いに戻った。
あの時、数あるジャンクの中からどうして「ベル」を選んだのか、今となってはわからないけど。
たぶん、運命だったのだろう。




