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顔の細部を描く段には、いよいよ彼は立ち上がり、両手をわたしの頬に当てた。
(ああ、近い……顔が近い……!!)
鼻の高さや眼窩の窪み、瞼やまつ毛、眉毛の位置を。
指の腹で巧みに読み取って、さらさらとキャンバスに描いていく。
(上手いものだな、よく似てる……)
見えない目をうっすら開けながら、淀みなく手を動かす様は、尊く神秘的でさえあった。
10分余りで顔を描き上げ、「話していい」と言われた頃には、
わたしはやっと冷静に——自分がここに来た意味について考えられるようになっていた。
「シープマン、テレビに出よう。キミの活躍を世に広めよう」
会えなかった、この期間。
わたしはずっと考えていた。
どうすれば彼は報われるのか。
正義の価値を取り戻せるか。
「……大八木指令が何と言おうと、キミはちゃんと評価されるべきだ」
だが彼は、筆を置き。
淡々とした声で答えた。
「……顔が売れちゃあ、いけねぇんだよ」
——もしも、おれが有名になったら。
「千夜のことが、世間にバレる。NOVAをめぐって騒ぎになるぞ」
……あいつの居場所は奪わせねぇよ。
彼がこんなに真面目な顔で、物を言うのはめずらしかった。
わたしの胸はちくりと痛んだ。




