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㈱ムラクモエージェンシーの社畜ども   作者: ケムリネコ
『傀儡士』 四季守ミサオ 編
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9/30

〜即席魔導人形(インスタントゴーレム)⑨〜





その後、ヤマさんとムラクモの情報共有をし。




改めて簡単な算段をうち。




「じゃあな、別件も色々抱えてるんでな、こっちは」


ヤマさんは店を出ていった。







「ほんとにいいんですかね?」


冷たく汗をかく、コリンズグラスに注がれたアイスカフェオレをストローで、口を潤す。

カゲ先輩の前には、チェリーを浮かべた毒々しい緑色のクリームソーダ。

ふふっ、子供みたい。

そのてっぺんの小さなアイスクリームを崩しながら、


「お墨付き、とはいえねーが、まぁいいだろ」


と長いスプーンで口に運んでる。


「分身…できないんですね」


「わりーかよ。何でもかんでもできるわけじゃねーんだよ、俺も。…だから本家追い出されてんだから」


そうなのか。

余り触れちゃいけなかったかな。


「『分身』にも種類があるが…できるのは現当主と、2人だけだ。俺の姉と弟…つまり桐生家だけだな。で、その中で俺だけできねー、と」


「確かに、先輩だと悪用しそうですもんね。万引きとか、女風呂覗くとか」


「ばーか、それこそ漫画かよ。お前、俺の事何だと思ってんの?」


私も口悪いというか、素直に言えないなぁ。

ここでもう少し、気の利いた事が言えたら…もう少しお近づきになれたりするのかな。





『忌流』は、忍の名家らしい。

それは何となく入社してから知ったし、実際先輩にも聞かされた。

やはり本家は別格なのかな。

で、その血筋でカゲ先輩だけできない…

そりゃ本家も困るんだろうな。

だから先輩ひねくれてるのか。

きっとコンプレックス抱いてるんだろうな。


夕日が照らす先輩の横顔は、少し憂いを帯びてる。

…何だよ、可愛いじゃん。


「もしかしてヘコんでます?」


「あーもううるさいなぁ。俺だって色々あるんだよ」


…ごめんなさい。

私は気の利いた事も言えない女です。


「あの…先輩…」


「なんだよ」


「ついでに、色々吐き出しときます…?話、私で良ければ聞きますよ?」


「………いや」


あぁ、先輩の心の扉が閉じちゃうな。

何となく空気で分かる。


「いいよ。誰かに話したところでどうにかなるわけじゃねーし、俺の個人的実力の問題だ」


ほら。

…せっかく2人なのにな、今。

どうにかして、先輩を知りたい。

何せ最推しなんだもん。


…あ、そうだ。



「先輩、彼女とかいないんですか?いたら、こういう時に相談したりして、少しは楽になるかも知れないじゃないですか」


私、グッジョブ。

自然に先輩のプライベートに話題を持っていけそう。


…いや、待った。

これ、もし先輩が「いるよ」って言ったらどうしよう。

嫌でも現実を突きつけられちゃうじゃないか。

何という話題を振ってしまったんだ、私は。


そんな事は顔にも出さず(多分)、私は努めて冷静に、カフェオレに浮かぶ氷をつつく。


「いたら、んで話したら楽になるのか?俺は話して楽になるタイプじゃねーよ、多分」



……えっ、…どっち!?



彼女いるの?いないの?分かりにくいよその回答!





「それに、俺と付き合う事になると大変だぞ。本家からの監視が付いてるからな、俺」





「そ、そうなんですか?」


やば、声がうわずっちゃった。

監視?本家の?先輩常に見張られてるの?


「あぁ。一応本家筋の人間だからな。俺の会社での行動や、事案発生時の戦闘データやら、常に監視されてる。四六時中、ってわけじゃないが。今だって本家配下の奴が俺らを見てるぞ。」


知らなかった…。さすが忍の一族。

私と一緒にいるところ…どころか、今のこの会話すらも聞かれてるってこと!?


「それ、プライベートの侵害じゃないですか!それに一緒にいる人のプライベートも侵害してます!ダメですよそれ!」


思わず声が大きくなってしまった。

は、恥ずかしい。


「まあな。それに忌流も名家とはいえ、忍そのものが廃れてきていて人材不足だ。だから四六時中じゃねーって。オフィス内にまでは入ってこねーし、奴らもある程度は『迷惑かけないように』心得てる。あと、監視してる奴も腕は落ちてきてるからな。まくのは簡単だよ」


特に慌てる様子もなく、カゲ先輩はクリームソーダを飲む。

メンタル強い…というか、慣れてるのか。

慣れって怖いなぁ。


「だいたいこの話すると、女は逃げてくよ。こないだもそれでフェードアウトしてった子がいたな」


「えっ、いたんですか!?」


待て待て、新情報が、情報量が多過ぎるって!


「付き合いたい、って言われたから、この話したよ。したら、急によそよそしくなってさ、多分もう諦めたんだろ。お前誰にも言うなよ?…4課の実山だよ」 



…は!?待って、ウチの社員なの!?



ヤバい、頭くらくらしてきた。ほんと情報量多過ぎる……。



さ、実山…実山…。


あ。


実山ヒナ!4課の修復士補助の実山ヒナか!

正規の修復士になれるまでの力は持ってなくて、補助って形で入社した、若い子だ。

どんな見た目だったっけな…4課はみんな特徴薄いから…確か…

ショートカットの、言い方悪いけど地味で目立たない感じだったはず。メイクもベースだけみたいな、純朴そうな子。

4課はみんな地味なんだけどね、ここだけの話。

だからこそ、さっきの黒ギャルちゃんが入ってきたら荒れそうだなぁって。


…その割には、ぐいぐいいってたわけか。

チッ。

お、面白くない。面白くないなあ。


「そそそそうなんですね、はい、黙っときます、はい」


「どうした急に吃って」


「べべ別に、アイスカフェオレ、ホットにしとけば良かったかなぁ、あはは」


「何だよ寒いのか、女って寒がりだよな」


そう言いながら手を挙げて、店員さんを呼ぶカゲ先輩。


「あー、ココア、ホットで、あっちに」


と私を手のひらで示す。

…ほう、私がココア好きだと知ってるんですね先輩。これはポイント高いですよ。

もうとっくに振り切ってますけど。


「あ、あの、ありがとうございます。よく分かりましたね、私がココア好きって」


「正解だろ?」


ニッ、と笑う先輩。これは私じゃなくてもきゅーんってするだろー。


「どんだけ一緒に行動してると思ってんだよ。だいたいは把握してるよ、ミサの好みは」


「へへ、ありがとうございます」


変な笑い声が出ちゃった。

もちろん寒かったとかではなく、単純に焦って吃ってしまっただけだけど、結果オーライとします。


興味なかったら、把握なんてしないよね?

それとも、同僚としてのコミュケーション?

いまいち分からないな、このヤンキー先輩は。

女心も理解してるのかよく分からないし。



ココアを待ってる間、特に会話もなく、私も先輩も窓から景色を見る。

沈黙って気まずいものらしいけど、私は割と平気だ。

先輩はどうなのかな。



ふと。

ちらほら行き交う人の中、ヘソ出ししたジャケットルックのギャルが通りがかる。

セクシーだなー…って、さっきの回復士、湯川ユウカか。

インターンだもんな、退勤時間も早くて当たり前か。

その黒ギャルがこっちをチラ見して、私と目が合う。

そして、その足を止めた。




あ。




普通、喫茶店ってどう座る?

普通なら対面だよね。向かい合って座るのが普通だ。

私達は、4人掛けのテーブルに座ってる。


…隣同士で。


そう、さっきまで向かいにはヤマさんが座ってたからだ。

わざわざ4人掛けのテーブルに私達は今、隣合って座ってるんだ。



お分かり頂けただろうか。



そう、やたらいちゃついてるカップルがよくやる場所取りの仕方をしてるのだ、私達は。



黒ギャルは、にまぁぁっと悪戯っぽい笑みを顔一面に、両手をピストルの形にして、窓ガラス越しにこちらへと向けた。

ばぁんっ。

いや、『ばぁんっ』じゃないから!


「いや、あの違います!」


私は思わず立ち上がっていた。


「なんだなんだ急に!?」


寝ている所を叩き起こされた人のように、ビクッとカゲ先輩が私を見て、すぐさま目線を追う。

湯川ユウカを見つけた先輩は、彼女が向けた両人差し指に別に焦るでもなく、軽く手を敬礼のようにおでこ付近に持っていった。最初に彼女がやってた感じに。


「さっきの回復士じゃん。ミサも会釈くらいしとけよ」


「あ、いや、そうじゃなくて…」


私達が言い合っているうちに、ニマニマした顔のまま、湯川ユウカは雑踏の中へ消えていってしまった。


「行っちゃったじゃないですか。私達誤解されちゃいますよ?」


「何がだよ?」


「この、座り方、隣同士の!」


「…それが?」


「だから、これカップル座りじゃないですか。彼女、さっきまでヤマさんがいた事なんて知らないんですよ?」


「…あー。まぁ、いいんじゃねーの?ミサ、いい大人なんだから、そんなんで狼狽えるなよ」


本当に気にしてないんだろうか。私の抗議など意に介す様子もなく、先輩は赤いチェリーをぱくっ。


「先輩はいいんですか?私と付き合ってるとかめんどくさい噂とか流れても」


「んー、まぁそう思いたい奴には思わせとけば?こういう時は変に慌てる方が不自然だぜ」


時折口をむぐむぐさせながら、カゲ先輩はなおも続ける。


「俺は好都合だけどな。中途半端に親しくなろうとしてくる奴が減って。ミサみたいに、ほんとに親しい奴はたくさんはいないし、できないし、要らないだろ」


…ん?今なんて言った?


親しいって?先輩が、私の事を?


待って、ヤバい。


顔が、かあっと熱くなってきてるのが分かる。

とりあえず、『只の同僚』という認識よりは上の場所にいるって取っていいんだよね?

良かったぁ。

短時間で感情がジェットコースターし過ぎて、緊迫感がどこかへ飛んでいってしまった。

今はとりあえず、顔の火照りを何とかしたい。


私はコリンズグラスを手に取ると、ありったけの肺活量でストローを吸った。


「お前、寒いのか暑いのかどっちなんだよ。顔赤いぞ」


けたけた笑いながら、先輩は舌を『んべっ』とこちらに見せた。

そこには、結ばれたチェリーのヘタが。




…しかも蝶結び!!




え、先輩もしかして、めっちゃ上手いって事…?

あの、その……アレが。



い、いかんいかん、火照りが止まらないぞ、これじゃ。



「蝶結び……すご……無駄技術…」


「無駄って言うな。まぁ何の役にも立たないけどな。宴会芸だな」


ダメだ。振り回されっぱなしだ。

もしかして、私踊らされてる?先輩の手のひらで。

ほんとにこの人、掴みどころがない。どこまで本気なのか分からない。


あー、もうダメだ今日は。リセットしなきゃリセット。

真剣味も抜けちゃったから、気分変えないと締まらないぞコレは。

そうだ、フィットネス行こう。汗かいてヒップアップして、自己肯定感上げて気分転換だ。

それで、『来たるべき時』に備える。


いつもの冷静な自分を、取り戻さなきゃ。


「おいココア来たぞ」


今更来た、あったかいホットココア。

先輩の、優しさと気遣いのカタチ。

これは無下にはできないよね。


湯気を上げるココアを見つめて、私は幾分不安を抱えたまま、愛想笑いを浮かべた。




…大丈夫かなあ、この先…。




































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