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㈱ムラクモエージェンシーの社畜ども   作者: ケムリネコ
『剣士』 近衛キヨマル 編
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28/30

〜彷徨い人と、迷い猫 6 〜





テロリストによる、『人魔召喚』未遂事件。

それを、警察の立ち会いの元、協力企業であるムラクモの魔象3課が事態解決に出動した。


途中、非合法魔象使いである、自称『エマキャット』による妨害行為があった。


エマキャットの捕獲、逮捕には至らなかったものの、妨害行為による被害は最小限に抑えられ、人魔召喚は結果として未遂に終わり、無事解決された。


今後はテロリストグループの身元と、犯行動機等の究明、加えて今後の動向監視を続ける。









報告書としてまとめるなら、きっとこんな所だろう。


文面だけ見れば、大した事はない、いつもの3課の治安維持活動の一つだ。

しかも、どちらかというと無事に解決したんだからムラクモの、3課の手柄として見られたっていいくらいなんだよな。


…けど、事態はそうはならなかった。







「…うーん…近衛くんは上手く立ち回ったと思うんだけどな。私はそう考えているし、報告会議でもそう進言したよ」


「ありがとうございます…僕もそのつもりだったんですけどね」


翌日。


御手洗課長のデスクの前で、僕は多少しょんぼりと頭を掻いた。


上手くやったつもり…だったのだが、どうやら僕は世間的に悪役になってしまったらしい。


「エマキャットか…ほんとにめんどくせぇ奴だな。やっぱ本格的に捕まえるべきだぜ。迷惑この上ねぇ」


本当は出張で今日から居ないはずのカゲが、自分のデスクで苛立った顔で椅子をくるくる回している。


「ごめん、出張ふいにしちゃって」


「気にすんなよ。さすがにキヨが外れたら前衛が手薄になるからな。そっちの方が問題だぜ」


朝礼が終わって、みんな少し朝の業務前にのんびりしてる時間帯。

僕はもう一度、カゲに軽く頭を下げる。


「気を落とさないで。キヨ先輩は何も悪くなんてないんですから」


ヒトミちゃんが、今日は遠慮がちに僕の前にコーヒーを置いてくれる。

口に含んだコーヒーは、今日は一段と苦く感じた。






『エマキャットを妨害した、国の犬』


『政府と癒着してる悪徳企業が、正義のヒロインを妨害した』


『エマに恥をかかせるな、ムラクモ魔象3課のクズ』


『ラッキースケベ、ごちです』


『エマ、やっぱすげぇカラダしてる』


『エマは俺達のスター、ムラクモはゴミ』


散々な言われようだ。

今のはネットの掲示板に書かれていた昨日の事件へのコメントの一部だ。


ネットだけじゃない。

朝から管理部は苦情の電話対応にてんやわんやの騒ぎになっている。

通常の業務に支障をきたすレベルだ。


「しっかし、エマ様はホント、素晴らしい恵体ですなぁ。僕もぜひとも生でお目にかかりたかったですぞデュフフ」


1人デスクで激しくキーボードを叩きまくりながら、3(ウチ)のエマキャット信者がニマニマして言う。

お世辞にもスマートとはいえない、肥満体型と言い切っていい体格に、指紋で汚れた眼鏡。口元には何とも言えない、ちょっとネガティブな意見しか言えない表情(つまり、ちょっとキモい)を浮かべながら、高速でキーボードを叩き続ける3課のネット担当にして魔象使い社員、『佐伯 タイチ』だ。


「珍しい、タイチが出社してる」


「あー、ネットのムラクモ批判の消し込み要員だよ。朝からずっとあんな感じ」


カゲの言葉に、タイチは得意気にこちらを向いて一段とニヤつきを強くして見せる。


「ムラクモの管理部なんてアテにならんですからな。僕の実力を持って会社に貢献している真っ最中ですぞ」


タイチのデスクのPCは、彼の魔象が籠もった手製のノートパッドがケーブルで繋がれ、怪しく光を放っている。


彼の武器ともいえるそのハンドメイドのノートパッドこそ、タイチが魔象使い社員である証だ。

詳しい所は知らないけど、アレは普通のノートパッドとは能力が異なるらしく、前衛でも後方支援でもない彼を3課社員たらしめている。

でも、こないだミサちゃんとメルクリウス絡みの事件で後方支援で同行してたから、役割としては支援役(サポーター)になるのかな。


「いやはや、凄い書き込みの量で、朝からてんてこ舞いなんですがね、久々に燃えてますぞ僕はぁ!」


カタカタ、ッターン!


…オフィスに響く、一際強い決定キーを叩く音。

ほんとにやるんだ、ああいう動作。漫画とかのネタでしか見た事なかったよ。


「僕は個人的には近衛先輩には感謝してますぞ。おかげでエマ様のおっ…バストが見られた訳ですからね、眼福眼福ぅ!…それどころかお美しい乳首まで…」


「それ以上は言うな、キモい」


ぴしゃりとミサちゃんのキツいトーン。

一瞬でタイチは喋るのをやめ、


「…うぃ」


と固い表情でPC画面と向き合う。


「…まったく。ほんと馬鹿みたい。非合法魔象使いが、アイドルみたいに持て囃されて」


眉間に多少皺を寄せ、ミサちゃんは書類作成業務に勤しんでいる。


「でも、困りましたね。キヨ先輩が前衛を離れるとなると、3課のトータル戦力が明らかに落ちます」


「ごめん…」


「キヨ先輩のせいじゃないですよ、悪いのはエマ自身です。なのに世間はエマ様、エマ様って。ホント気分悪い」


ずっと不機嫌だな、ミサちゃん。

そうは言ってくれても、やっぱ申し分ないよ。







エマキャットの影響力はやはり大きかった。

世間の声を考慮して、朝イチで僕は3課の前衛を外された。


会社としては、近衛キヨマル個人に大きな落ち度があったわけではなく、上層部としても僕の評価を下げたわけではないらしい。

けど、かといって僕が通常通り前衛業務にあたるのはマズいという判断に至った。

上層部が良いと判断するまでは、僕は現場業務を控え、後方支援とデスクワークに徹しろとのお達しだ。

おかげでカゲは出張を中止し本社に残る事になり、森羅主任は1人で出張という形になった。

主任にも申し分ない事しちゃったな。


会社命令だから、逆らう事はできない。

それに、僕も納得はしていないけど、その決定に逆らうつもりはない。


…僕は間違ってたんだろうか。


心に迷いが出ているからか、僕自身も、宗茂もずっとざわついている。

落ち着かないというか、何か良くない感じの種火が、心の奥で燻っている。

どのみち、こんな状態で現場に出ても上手くはやれないんだから、自分の為にもやっぱりここは控えるべきなんだ。

そう自分に言い聞かせている。


「あ、そういえば近衛くん。昨日の話なんだけど…」


「…あぁ、そういえば何かお話があるって言ってましたよね、課長」


「うん。前衛を外れるなら、皮肉だけどちょうどいいかも知れない。ムラクモの大事なスポンサーからの依頼があるんだ」


「へぇ」


「なんだかんだ、3課で一番物腰が穏やかなのは近衛くんだからね、適任だと思うよ。下手に相手さんの機嫌を損ねると、それこそこっちの方が評価に響くかも知れないから」


「じゃあカゲ先輩とかには無理ですね。口悪いし。佐伯くんは見た目が小汚いし」


「なんだと?」


「なぬ?聞き捨てならん」


ミサちゃんの茶化しに、2人が即座に反応する。


「言っとくけどなミサ、お前だって適任じゃねーんだからな。3課の暴れん坊将軍がよ」


「…どういう意味ですか?」


「まんまだよ。お前結構エキセントリックなとこあるからな。依頼内容は知らねぇけど、お前も呼ばれてないんだから適任じゃねーって事だろ」


「そうですぞ!こないだの一件だって、四季守くんが一番派手に暴れてたくせにぃ」


2人に畳み掛けられ、ミサちゃんが押し黙る。


「…くっ」


「まあまあ、ミサちゃんは大事な前衛で盾役なんだよ?そもそも現場に一番必要な存在になってるんだからさ」


「…そうですよ。私がいないと現場も報告処理も回りませんから」


実際それは確かで、ミサちゃんは『会社員』として見たら3課で一番の働き者なのだ。


「…良かったな、ありがたいイケメン様の援護射撃だ」


「ちょっと先輩、私だって頑張ってますよ?褒めて下さいよぉ」


「うん、ヒトミちゃんも昨日はありがとね。後方支援のエースだよヒトミちゃんは」


「…えへへ」


…まぁ、これがいつもの3課です。

前衛を離れるのは仕方ないけど、頼れる仲間はたくさんいるから、きっと大丈夫だろう。



…その時だ。



ぴりりりりり。



僕の『携帯(ツール)』の呼び出し音。

発信先は……珍しい、実家からだ。


「あ、すいません、ちょっと失礼します」


私用通話はほんとは控えなければいけないんだけど、3課はその辺グダグダだから問題ない。

とはいうものの、僕はとりあえず建前上、一旦席を外して廊下に出る。


「はい」


「お、出た出た。キヨマル、元気ぃ?」


通話先から、少し声のボリュームの大きな女性の声。思わず少し携帯を耳から離す。


「チヅルさん、お久しぶりです」


「あのさぁ、もういい加減『お母さん』とは呼んでくれないの?」


「すみません、何となくクセで」


「まぁいいわ。何かアンタやらかしたらしいわね。大丈夫なの?」


「あ、ええ、近衛の名には多分傷は付かないですよ。僕個人の責なので」


「そうじゃなくて!アンタは大丈夫なのかって」


「…ありがとう、大丈夫です」


通話口からの優しい言葉に、少し心が緩む。

こういう所はちゃんと『お母さん』なの、実は嬉しいんだよ。


そう、通話口の相手は、僕の『お母さん』だ。






…血は繋がってないんだけどね。






「そう、ならいいんだけどさ」


「でも、前衛外されてしまいました」


「あら、じゃあちょうどいいじゃん。アンタ1回実家に帰ってきなさいよ。話したい事もあるし」


「…そうですね、前衛外されたから時間はあるかも」


「じゃあ決まりね!また帰って来る時連絡して。アンタの好きな唐揚げ用意しとくからさ」


「はい、ありがとうございます」


チヅルさんは僕の養母にあたる人だ。聞いての通り、いつもハツラツとしてて元気が凄い。

そう、血のつながりはない。






僕は、『孤児(みなしご)』だから。




















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