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㈱ムラクモエージェンシーの社畜ども   作者: ケムリネコ
『傀儡士』 四季守ミサオ 編
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21/31

〜即席魔導人形(インスタントゴーレム)エピローグ②〜





よく考えてみたら、あの時と同じだ。


女子高生の通う高校の正門前まで来て、私は気がついた。


あの時、窮屈に押し込められた、私がいた。

社会に、高校生活に、集団に。

それは私が魔象使いとして覚醒していなくても、きっと感じていただろう。

普通の女子高生として生活していても、きっと私は抑圧感を感じて生きていた事だろう。

そこへ現れた、西園寺という今への『きっかけ』。

その役を、今私がもらい舞台へ立とうとしている。


私は、着実に成長できている。

そう感じられる一方で、被害者の女子高生が何となく自分とダブる。

だとしたら、もしかしてあの女子高生は『覚醒』してしまうのだろうか。


何となくそんな予感をさせながら、私はカゲ先輩と正門を通り抜ける。


時間的に、下校時間なのかな。

何人もの制服姿が、私達とすれ違う。

カゲ先輩が、猫背に両手をポケットという姿で歩いていくのを、何人もの生徒が振り返って見てる。

威圧感あるのかな。それとも、先輩スラッとしてるから、カッコ良いからかな。

以前はやれやれくらいに思えたのが、今は少し焦りに似た気持ちだ。

そうだよな、先輩、キヨ先輩の影に隠れてるから忘れがちなんだけど、なんだかんだで見た目もカッコ良いからなぁ。

凄いイケメンがいない、先輩単品だと、そりゃあ一番カッコ良いよ。

そう思うのは、私の贔屓目なのかな。




目的の女子高生が、校舎玄関にいるのが見える。

靴を履き替えている姿に、やっぱり西園寺と出会った時の自分がダブる。

そういえば、あの子もいじめられていたんだっけ。

そもそものきっかけはそれで、だからあの『刻印』入りアプリを動かされたんだった。


案の定、数人の女子生徒が彼女を囲みだした。

結局、状況は余り変わっていなさそうだ。

あの時と同じだ。

私なら…どう判断したかな。

今の私なら、どうするかな。


「…ちっ」


止めようとしたのだろうか、先輩が一際強めに歩き出そうとする。

その一歩目を、私は先輩の袖を引いて止めた。


「…おいミサ」


「待って。私達が介入しても、あれは彼女個人の問題です。中途半端に私達が絡むのは良くないと思います」


心からそう思っているのか聞かれたら、はいとは言えない。

私だって、止めたい気持ちはある。

けど、一時的な気休めにしかならない。

私達は、いつまでもあの子に関われる訳では無いんだ。


…もしかしたら、西園寺も?


…だから、止めなかったのかな。


何やらやり取りの後、女子高生は肩を突き飛ばされたりしていた。

…はぁ、ホントにあの頃みたいだ。

私も、ああやって突き飛ばされたりしていたな。


…やっぱり止めた方がいいか。


迷った末、今度は私がそこへ踏み込もうとしてしまう。

その一歩目を、今度は彼女の言葉が止めさせた。


「いいの?そんな事して」


はっきりした否定の声は、こちらまでちゃんと届く音量。

私は思わず足を止めた。


「あのさ、あの一件から私、『覚醒』したかも知れないんだよね。何か不思議な事が何回かあってさ。だから…」


そう言って彼女は手を、突き飛ばした相手生徒へ向ける。


「ちょ、待って。やめてよ」


「どうしようかなぁ」


意地悪な笑みを浮かべた彼女と、目が合った。

彼女は顎で私達を指すと、


「ほらね、だからお話があるってムラクモの人が来てるんだよねぇ」


と畳み掛ける。


「ちょっと、マジなの?ヤバっ」


「もうやめとこ、行こうよ」


明らかに狼狽えた女子集団はざわつき出し、その子を置いてそそくさとその場を離れる。

小走りですれ違ったその集団は、完全にビビっている雰囲気だった。


そうか、やっぱり『覚醒』しちゃったのか。

私はカゲ先輩と顔を見合わせた。

カゲ先輩は、「そうか?」と言わんばかりに訝しんだ表情を女子高生に向ける。

そうしているうちに、その子はこちらへと走ってきた。


「こんにちは。ご無沙汰してます。その節はお世話になりました」


丁寧な挨拶。きちんと育てられているのが分かる。

制服も着崩しているなんて事もなく、おそらく校則通りの、おとなしい出で立ち。

お辞儀の角度も深々としていて、さっきまでの空気とは大違いだ。

真面目なんだろうな、この子。

いつもそうだ。真面目に生きている人間ほど、変な奴にちょっかいをかけられ、イジられる。

真面目に生きているだけなのに。


「えっと…お名前は確か」


「深田です。深田ミワです」


そうだった、ミワちゃんだ。すっかり忘れてた。

名前忘れてた事、悟られちゃったかな。

だって1週間、会社の事は何もタッチできなかったんだよ、許して下さい。

最初の被害者だから、提出書類に名前があっても忘れちゃうよ。


…という心の中の言い訳はともかく。

私が次に何か言うより早く、カゲ先輩が口を開いた。


「…なぁ、ホントに覚醒したのか?」


ミワちゃんは、清々しい程の笑顔で首を横に振った。

…え、してないの?

ここは完全に覚醒してる流れじゃないの?


「そんな訳ないですよ。してたらまず連絡してますし、親に相談してます」


そ、そうだよね。そりゃそうだ。至極真っ当な判断だ。やっぱり真面目だ、この子。


「ああいう風にでも言わないと、あの人達にまたやられちゃうでしょうから。ハッタリカマしてやりました」


そう言って彼女は笑い飛ばす。

…凄い。あの頃の私とは大違いだ。


そうか。

全ての人間が、私みたいな訳ではないんだ。

私は誤解していたのかも知れない。

世の中の人間が、自分と同じな訳ないし、自分の想定通りに動くとは限らない。

虐めを受けている全ての人間の適解が、私の行動と同じなんて訳ないんだ。

だから、社会は難しいし、生きていくのは難しいし、でも面白いんだ。


私と同じ事が、いつも何処かで繰り返されているなんて事はないんだ。


彼女の笑顔に、つられて私も少し笑った。


「強いな。同じ事が繰り返されないように、ちゃんと考えてるんだな」


「この先どうなるかは分かりませんけどね。でも、私も今回はいいきっかけになりました。もっと強く『自分』を持たなきゃな、って」


少し、彼女が羨ましくなった。

私も、あの時もう少し自分を強く、周りに出していたら何か変わっていただろうか。

少なくとも、ミワちゃんは私と同じにはならないだろう。

例え覚醒していなくても、彼女の中に『強さ』はある。

ちゃんとあるんだ。


「いい心掛けだよ。んじゃ、一応形式だけだけど、検知器(チェッカー)通させてもらうな」


カゲ先輩は、手に持っていたツールケースから検知器を取り出し、彼女に向ける。

携帯より少し大きく、厚いプラスチック製のケースに覆われたそれは、魔象に反応すると中の計器の針が動く仕組みになっている。

彼女の申告通り、その針が動く事は…なかった。

ぴくりとも動かない。

…ホントにハッタリなんだ。

見た目に寄らず、この子、度胸あるな。


「ホントに出ないですね。凄い…私ならあんなハッタリできない」


心底感心して、思わず言葉に出す。


「私、正直言うとあなたと似たような状況だった事があったの。だから、少し心配してた」


「私も怖いですよ。もしかしたら、ハッタリがバレて、より一層キツい目に合うかも知れないって。でも、変わらないといけないなって思ったんです。ムラクモの皆さんもですけど、私のせいで大人に迷惑かけたくないなって。何より、自分で何とかしなきゃなって」


強いなぁ。こんな若い子でも、ちゃんと色々考えて生きてるんだな。


「でも、今回の件で私、魔象に興味が湧きました。将来、ムラクモみたいな魔象企業に就職して、私も人助けしてみたいなって思うようになりました」


「ははっ、やめといた方がいいぞ。ムラクモは人使い荒いから。俺らムラクモの社畜だからよ、毎日毎日危ない現場やらされて、ひいひい言わされてんだから」


カゲ先輩の冗談(半分以上事実だけど)に、ミワちゃんはふふっと笑った。


「あの、魔象が無くても、ムラクモには就職できるんですか?」


「できるよ。管理部とか人事部は、一般の社員ばっかりだし、現場仕事に携わる部署以外は、案外普通の会社だから」


「…じゃあ、もしかしたら何年か後、また会うかも知れませんね」


「…本気?今の話聞いて怯まないの?」


「少なくとも、今はムラクモに就職したい気持ちの方が強いです」


「そっか。じゃあ、その時はよろしくね」


「はい!ありがとうございました」


そう笑顔で、また頭を下げる彼女に、何だか勇気づけられるというか、気持ちを新たにさせられてしまうな。背筋が伸びる気分だ。


誰かを、前向きに変えられる仕事。

いつもそうではないけど、深田ミワという未来ある若者にとって、ムラクモはそういう存在になれたみたい。


良かった。


Win-Win、ってやつかな。








ミワちゃんに幸せをお裾分けしてもらって、多少上機嫌で車へ戻る私を、カゲ先輩が鼻で笑った。


「良い気分のとこ悪いけどよ、明日からちょっとミサはキツいぜ」


「…何がですか」


「書類」


たったその一言で、上機嫌が消し飛ぶ。

あの、カゲ先輩、言うならもう少し後にして欲しかったです。

今は高揚感に身を任せ、一日を幸せに終わりたかったのに…。

顔に出てたんだろう、先輩はケタケタ笑う。


「そうなるよなぁ。ごめんな、こんな時に言って」


「…でも、先輩だって溜まってるんじゃないですか、提出書類。元々苦手ですよね?書類まとめるの」


「うっ…。お前、ほんと可愛くねーな。素直に落ち込んどけよ」


「嫌です。私は事実を言ったまでです」


私は渾身の作り笑いを先輩に向ける。




「明日は仲良く残業しましょうね、カゲ先輩」













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