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㈱ムラクモエージェンシーの社畜ども   作者: ケムリネコ
『傀儡士』 四季守ミサオ 編
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13/30

〜即席魔導人形(インスタントゴーレム)⑬〜






アザミは、傀儡だ。





普段から連れ歩くにはいささか大きい、武装された傀儡。




それを自由に出し入れできるサインを、『陣』と私は呼んでいる。

いつもはしまわれていて、陣を描き魔象で呼ぶ。

『召喚』するのだ。


実は、これは自由にできるものじゃない。

『契約』に基づいている。

契約相手は、ムラクモそのものだ。


アザミを呼ぶのには、凄く力を使う。

それだけで魔象の半分くらい持っていかれるくらいに。

それを軽減…ううん、むしろ負担無しで召喚できるようにしてくれたのはムラクモ本社だ。

『物体移動』を司る社員が1課にいるらしく、その社員がムラクモに力を『システム』として提供している。

入社の際、私はそう聞かされていた。


色んな魔象使いがムラクモにはいる。

当然、持ち歩くのに困難な装備や力の者もいる。

それを簡単に出し入れできるのはムラクモの会社としてのシステムのおかげなのだ。

このシステムが、ムラクモを魔象企業としてダントツシェアナンバーワンの座へと押し上げた。

このシステムがあれば、どんな力の形態を持つ者でも、社員として受け入れられる。

数少ない魔象使いのほとんどが、このシステムに救われ、その結果ムラクモは企業で最も多く魔象使い社員を抱えている。





つまり。





アザミの召喚を止めているのは、『会社』だ。

ムラクモが、私の力の行使を『拒否』しているのだ。


なんで?


待て、つまりムラクモは私の、3課のこの行動を把握しているということでもあるんだ。


なんで?


社員が危機的状況である事は把握しているんだろうか。

そりゃしているだろう。この行動を把握しているのなら。

なのに、力の行使を否決しているのだ。


「なんで…?」


私は応えない陣を前に愕然としていた。

メルクリウスが、そこまで何かしらの権利権力を持っているのか?

それとも、メルクリウスが魔象の干渉をも遮断しているのだろうか。


……いや、それはない。

もしそうなら、目の前にいる不恰好な魔動人形の中身、小林がこちらを挑発し、力の発動を誘ったりはしない。不意打ちでもすれば済む話だ。


やはり、会社が私を阻止していると考えるのが自然か。


…なんで?


「あれー?どうしたのかな?デカい事言っといて、力出せないのかな?もしかして、会社に見捨てられたのかなぁ?」 


奥歯を噛む力が強くなる。ぎりぎりと音がしそうなくらいに。

何もできない私は、ただ無言で小林を睨みつけるしかなかった。

それしか、できなかった。


「じゃあこっちからいっちゃうよー?死んでも恨まないでね?あ、死ぬくらいならお姉さんもボクの『力』として取り込んであげるから、ねっ!」


『ねっ!』の言葉と同時に、魔動人形の手が振り上げられる。

相手はパワーだけだ。回避に徹して援軍を待つ。

…カゲ先輩…!早く…


鉄屑やら土塊で構成された、腕とすら認識しにくいそれが、私の方へ飛んでくるのを、私は横へ飛び込んで回避しようとする。


…痛っ、筋肉痛が…!


鈍痛が下半身に響く。

初動が遅れたものの、一撃目を回避できる安全圏まで移動した私は、ニ撃目に備えるが、それよりも早くもう片方の腕が私に迫ってきていた。


こんなの喰らったら、骨折じゃ済まない!





びゅんっ。





一瞬、目の前がブレる。凄まじい速度で目の前の景色が移動する。

何が起きたのかすぐには理解できなかった。

その認識より少し遅れて、体をやんわり締め付ける感覚と、人肌の温もり。


「何勝手に始めてんだよ!アザミはどうした!?」


私を軽く抱きあげた状態でカゲ先輩がニ撃目を回避し、地面に着地する。


…こ、怖かった。


「…出てこないんです」


「何ぃ?」


「アザミ、出せないんです…」


「どういう事だよ!?」


只事ではないとすぐに察してくれて、先輩は小林とは随分距離を取り、私をゆっくり降ろす。

強かったな、腕の力。温もりが、まだ少し私の腕と背中に残ってる。


「お、白馬の王子様登場かなぁ?その姿は…3課の忍者マン、桐生カゲナリさんかな?」


「…何で知ってる、てめえ」


「そんなの、ネットワークで検索すればすぐ分かるよ。3課でも一際問題児なんだから、桐生さん」


「…言ってくれるじゃねーか」


私と小林の真ん中に壁のように立ち塞がり、カゲ先輩は口元をいつものように覆面で覆った。


「どういう状況かイマイチだが、とりあえずてめえが敵って事でいいんだよな?」


「違うよ。君が敵なんだよ桐生さん!お姉さんはポンコツっぽいから、とりあえず君が最初のエネミーって事で、ゲーム始めようか!」


「…なんだ、コイツ」


「何か変なんです、言動も口調も。普通じゃないですよ、この人」


「だろうな。で、何でアザミ出さねーんだよ?出せねーのか?」


「…はい。本社が止めているとしか思えません」


「んな馬鹿な。この状況でか?」


「……はい」


カゲ先輩の表情が、覆面越しにでもはっきり曇ったのが分かる。きっと色んな可能性や思惑を巡らせているんだろう。もしかしたら、先輩も理不尽な状況に晒されてきたかも知れないのだ。私より場数を踏んでいるんだから。それなら尚更、思うところがあるだろう。


「…面白ぇ。逆境の方が俄然テンション上がるわ、ハハッ」


最後の笑いは、とても乾いていた。

砂埃舞う砂漠くらいには。


「来いよ。忌流宗家上忍、桐生カゲナリが相手してやるよ。光栄に思えよ、クズ人形がよ」


「うるせぇな!バカにすんなよクソ忍者が!」


再び激昂した小林に呼応して、人形の腕が襲いかかる。質量のある大型の塊が、カゲ先輩へと飛んでくる。


「どうせパワーだけなんだ、分かってんだよ!」


ひらりとそれをかわすと、先輩はその腕に乗る。素早く印を組んでいるのが分かった。


「飯綱……掌!」


掌を、乗っている部分へ叩きつけた。


ずざぁぁぁ!


塊が一瞬で寸断され、地面へと落ちる。

着地するやいなや、先輩の足がそれを思いきり蹴り上げた。腕だった塊は、その一発で粉々の土屑へと還り飛散した。


「次ィ!」


そのまま今度は先輩が反撃に入る。

凄いスピードで反対の腕へ疾走し、何かを投げつけた。

先の鋭利な、手元側に輪っかのあるナイフくらいの大きさ。


クナイだ。


それは何本か腕に突き刺さり、ものの1、2秒ほどで


どんっっ。


爆発を起こした。


どんっどんっ。


立て続けに爆発し、腕は人間でいう二の腕辺りの接続が切れかけてだらしなくぶら下がる。


「おらぁぁ!」


追いついた先輩の金属製のゴツい手甲が、それをまた地面へと叩き落とし、サッカーボールキックよろしく、再び蹴り飛ばす。


あっという間に小林を取り込んでいる魔動人形はほぼ丸腰になった。

場数が、違う。

確かに、この件で起きていた5件の同様の事件、その全ての鎮圧にカゲ先輩は参加していた。

さすがに慣れている。


「どうした、威勢がいいのは口だけか?あとは本体だけだぞ?引きずり出してやるから待ってろ!」


そのまま本体へと向かおうとする先輩に、音もなく何かが近付いていた。

ラジコンヘリくらいのサイズの、何か。


「先輩、後ろ!」


私の声に振り向きざま、先輩は腕で防御の姿勢を取る。

その『何か』が先輩にぶつかった。


ばちぃぃぃっ!


瞬間、青白い光が出て、先輩の腕が弾かれる。

一旦距離を取る先輩の前に、更に同じような『何か』が浮遊して現れた。





ドローンだ!




静音性が高いのか、ほとんど音はしない。

目標に向かって、たかる虫のように数機のドローンが先輩を囲む。


「ボクだけだと思った?防衛装置は元々メルクリウスにあるんだよ、マヌケ!」


小林が笑う。


「そいつは高圧の電気をまとったドローンだよ。むかーしむかしさ、お店とかになかった?虫が当たるとバチッて電気で殺す、紫色に光るやつ。あれみたいな感じだよ。だって、君ら害虫だもんねぇ!」


「…知るかよ、俺はジジィじゃねーんだ」


結構効いたんだろうか、接触した腕を軽く押さえてる。


「害虫ねぇ。俺からしたら、このドローンが虫に見えるぜ。ぶんぶん人の周りをうっとうしく飛び回る小バエと同じだわ」


「ほんと口悪いなぁ。いい加減うぜーんだよてめぇ!!」


小林の怒声を合図に、ドローンが一斉に先輩へ襲いかかる。

それを自慢のスピードでギリギリ回避していくが、回避だけで精一杯のようだ。


ヤバいな。


あれ、こっちに来られたら私は多分避けられない。

あんな速く私は動けないし、何より筋肉痛がここで響いてきてる。

次からはほどほどにしないと。

……次?次なんてあるんだろうか。

緊張と、怖さが足元から上がってきているのが分かる。

このままじゃ、危ないかも知れない。





その時だった。





「あー、何やってるんだ君たち!」


演技にしては棒読み過ぎる、下手くそな驚きの声と共に、誰かが来た。

他にも何人かいるが、それらは遠巻きにその『誰か』を見守るのみだ。


「…課長!」


御手洗課長だ。

いつもの遠慮がちな感じではなく、現場をこなせる身のこなしで部屋に飛び込んできた課長は、すぐに私の元へ来た。


「…どうしたの、作戦と違うじゃないか」


小声で問いかけてくる課長に、私は手短に現状を説明する。


小林が魔動人形を出し、交戦中である事。


ドローンも小林の手の内であるらしい事。


メルクリウスについてはまだ何もできていない事。


そして、私はおそらく会社にアザミの使用を拒否されていて傀儡召喚ができない事。


「そうか、分かった。とりあえず事態を収拾した方が良さそうだ」


「そこ!何コソコソ喋ってやがる!ボクにはそっちも見えてるんだ!」


ドローンを二手に分け、何機かがこちらへ向かってくる。

課長は落ち着いた様子で、そちらへ手をかざした。

…手のひらに、何か書かれている。

墨か何かで、良く分からない文字だ。


ばしぃぃぃっ!


ドローンが接触しそうな範囲まできて、何かに弾き飛ばされた。

うっすらとした、光る膜のようなものが、課長と、私の半径50センチくらいを包んでいる。


…これが、課長の『力』なの?


「結界士とは違うんだけどね、シールドみたいな、子供っぽく言えばバリアみたいなものだよ。私、これでも現場では盾役だったんだ。もう昔ほどの力は無いけどね、歳だから」


いつもの力無い愛想笑い。その表情と裏腹に、確実に課長の作り出した『盾』は私達を守っている。

そうしながら、手早く課長はポケットから大きめの筆ペンを取り出し、私の周りにさらさらと、手のひらと似たタッチの文字を書いていく。


「どれくらい持つか分からないけど、ここから出ないでね、四季守くん」


「は、はいっ」


課長は次に、ドローンを弾きながら出入り口へ走った。控えている数人の職員やらの前で同じ文字をもう一度床に書いている。


「これでよし、」


「余裕だな課長!」


「あのね桐生くん、管理職というのは、本来現場へは来るべきではないと思うんだ」


「そりゃすんません!でも、現場は今『タンク』少ないから、これからも来て欲しいっすよ!」


「勘弁してよ。私もう歳なんだから、楽隠居させてよ」


ひらりと回避し続けるカゲ先輩とは逆に、課長はトコトコと余裕で先輩へ近づく。ドローンを弾きながら。

…凄い。課長、できる人だったんだ。

これからは私、ちょっと態度改めなきゃな。


先輩の言う通り、確かに今は現場へ来られる社員に盾役(タンク)は少ない。ちなみにほとんどその役目は私だ。しかも今、盾となるアザミを出せない。

私、役立たずだ。


「…で、桐生くん、どうにかできそう?」


「課長、ドローンって機械っすよね?メルクリウスも」


「…今のところ、そう見受けられるね」


「なら何とかしてやりますよ。ちょうど試したい術があったんすよ。最近編み出した、忌流忍術にはないオリジナルなんすけど。…時間稼げます?」


「…人使い荒いなぁ。やってみよう」


「あざっす!」


「何ごちゃごちゃ喋ってやがる!たかがシールドくらい、破るのは時間の問題だよ!」


数カ所で飛び回るドローンは、課長の作ったシールドを破ろうと何度も体当たりを繰り返している。

私のところにも、数機ずっと体当たりしてる。

その度に光の膜がそれを弾いているけど、確かにいつまで持ってくれるんだろ。


何か策があって、オリジナルの術があるらしい先輩は、両足を開いて腰溜めに構え、印を組み始める。

何度も印を変え、ぶつぶつ覆面の下で呟く感じからして、大技みたいだ。


ばしぃぃいんっ!


ばちぃぃぃっ!


その間も続けざまに何度もドローンが突撃するが、脇にいる課長が阻止している。

完璧な布陣だ。

課長、やっぱ現場来てくれないかな、これからも。


「課長、もういいっすよ!退避して下さい!」


カゲ先輩の声に、課長は彼の元を離れ、私の所へ飛び込む。

先ほど自らが床に書いた陣の内側へ身を隠す。


「……来たりて打ち払え、高天原の御雷の如く!」


先輩が、光を放ち始める。体全体が、青白い光で包まれている。

ドローンの高圧電流と同じような輝きだ。

むしろ、もっと強い。


「…忌流宗家創作術技…」


先輩が、両腕を開いた。大の字に構えた形になっている。

そして、おそらく最後の文言。


 



「自……雷……矢ッッ!!」




ずがぁぁぁぁぁんっ!!





次の瞬間、部屋は真っ白になった。
















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