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㈱ムラクモエージェンシーの社畜ども   作者: ケムリネコ
『傀儡士』 四季守ミサオ 編
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14/31

〜即席魔導人形(インスタントゴーレム)⑭〜





眩い光。




真っ白の正体は、光だ。




……いや、少し違う?




……電気?




目が眩む白の世界の中、私は薄目で先輩を見る。

大の字になった先輩から、激しい光が放たれている。

時折見える、青白い筋のような一際強い光は、落雷の稲光のようにも見えた。

数秒放たれたおびただしい光は、シールドをひび割れさせながら、周りにあるもの全てに襲いかかっていた。



ぱぁぁぁんっ。




最後に、電源がショートしたような破裂音を残し、光は止まった。

代わりに、今度は暗闇が部屋を支配する。

何かが焦げたような匂い。

その後に来る、煙を吸い込んだような、喉の不快感。


暗闇と沈黙が、全てを包み込んでいた。

駆動音すらない、完全な沈黙。

静かすぎて、『キーン』という耳鳴りが強く頭に響いている。




パキッ。




何かが折れる音がして、光が灯った。

オレンジ色のぼんやりした光が、先輩と課長を浮かび上がらせる。


「……どうよ」


非常用の棒状の発光装置(フレア)を地面へ放り投げ、更に1本取り出し、折って光らせながらカゲ先輩がニヤッと笑う。

その彼からは、湯気か煙のようなものが上がっていた。

焦げ臭いのは、それなのかな。


「すごい…なんですか、今の」


「魔象を術で雷に変換して体内から出してる。まだ対象を絞れないから、辺り一面やっちまうのが改善点だな。技名は歌舞伎に出てくる忍者から取った。

本当は更に大元の、中国の『我来也』から取っても良かったんだけどな」


……何言ってるんだこの人。原理が全く分からない。ついでに、名前の由来の歌舞伎なんて知らないから、説明されても分かりません。

けど、凄い。ほんとに痺れる技だ。忍者の技だぁ。テンション上がる。

心の中の私はぴょんぴょん飛び跳ねているが、それを表に出したりはしない。至って冷静に、乱れた前髪を直す。


「凄いですね。でも、ちょっとやり過ぎでは?」


「そうですぞ桐生先輩!精密機器に高圧の電気は御法度中の御法度!やり過ぎですぞぉ!」


課長の作ったシールド、そのひび割れの向こう側から張り上げる声。多分佐伯くんだ。

君、どっちの味方なんだ。

見れば、私を囲んでくれていたシールドもひび割れて、あちこちぼろぼろと綻びている。


「お前どっちの味方なんだよ。状況見てたろ?鎮圧が最優先だったろうが」


煙管をくわえながらカゲ先輩が私の心中を代弁する。多量に力を使ったんだろう。たいてい煙管をくわえる時はそうだ。中身は即席の魔象回復剤だから。


「…これ、後が怖いですね。メルクリウスのシステム全部吹っ飛ばしちゃったんですよね?」


「どこまでかは知らねーけどな。とりあえずはご覧の通りだ」


ご丁寧に手のひらで『辺りをご覧』とばかりに指す先輩。向けられた手のひらの先は、暗闇のみだ。

そんなやり取りに、課長が手で額を押さえている。

困るよね。管理職としては。指揮下の人間がこんなことしたら。


「穏便にしてほしかったのに…」


「でも、こうしないとどうにもならなかったと思いますよ」


私は2人に駆け寄った。


「あの、それよりあの職員は大丈夫でしょうか。小林と名乗ってた…」


「土と金属でできた魔象の塊に覆われてんだ、死にはしないだろ」


楽観的に煙を吐く先輩。まったく、この人は。

とりあえずは鎮圧できたから、あのままよりは良かったのかな。

これは、電源が復旧したら、やる事がたくさん……





ん?今何か光った気が……




私がそちらに目を向けた、その時。




「ミサっ!!」


先輩が突然私を抱きしめ、覆いかぶさる。

えっ、ちょ、ちょ、ちょっと、困ります!


どんっ。


私と先輩の塊が、何かに強く押された感覚があって。


「…くそっ!」


先輩が今度は私を突き飛ばし、私は派手に尻もちをつく。

…いったぁ!き、筋肉痛が…!

そのまま次に、光ったような部分を蹴った。馬が後ろ足で背後を蹴り飛ばすようなモーション。

人影らしき何かは、その蹴りで吹っ飛ばされ、床へ転がる。


……小林だ。体から煙をあげ、土まみれの小林が、リノリウムの床に転がっている。


その手に握られていた、光るものの正体。

…刃物?いや、大きめのアイスピックのような、鋭利な…とりあえず分かるのは、『凶器』って事だ。

こんっ、と音がして、煙管が床に落ちる。

覆面越しに分かる、苦悶する先輩の表情。眉間に皺が寄って、厳しい顔をしている。

手は、脇腹か腰の辺りを押さえていて。


…刺された?もしかして、先輩刺されたの?


「ふへへ、やってくれるじゃん、クソ忍者が」


起き上がりながら、小林の不敵な笑みが闇に浮かび上がる。


「先輩ッ!」


咄嗟に駆け寄り、ポケットから出したハンカチで先輩の押さえている部分を更に押さえる。

先輩、私を庇ってくれたんですね…。

すみません…ほんとに…。

みるみうちに広がる、赤い染み。

血だ。真っ赤な血が、血が出てる。

ぬるっとした感覚。自分の手を見ると、薄ぼんやりした発光装置の光でも、べったり血が付いているのが分かる。

たくさん出てる。血が、たくさん出てる!

私のせいだ…私が、もっと早く気付いていたら。

私が、アザミを出せていたら。

ほんと、私は今…何の役にも立っていない。


「先輩!ちょっと、やだ、先輩!」


「…痛ッてぇ…。騒ぐなよミサ、こんくらいで死んだりはしねーよ」


「でも、でも血が…たくさん出てる…!」


「…大丈夫だから…痛ってぇけど…。くそ、あいつ気配しなかったな…何でだ…?」


膝をつく先輩に合わせて屈む私を、小林が笑い飛ばした。


「あはは、やってやった、いい気味だ!」


光ってる。

先輩のさっきの術技ほどではない。

発光装置くらいの光が、小林を包んでいた。

あれは普通の光じゃない。

魔象の光だ。


光ってるのは小林だけじゃない。

メルクリウスの大画面に同じような光が灯り、そこから伸びる光の筋が、小林と、ショートして墜落していたドローン達を包み、メルクリウスの大画面と繋いでいく。


…何が起きてるの?


「人間ってのは、こんなに弱っちいくせにさ、ボクを奴隷みたいにこき使って…ボク自身は高性能なのに、だから、どんどん要求が大きくなって、どんどんきついこと増やして……もう、もうウンザリなんだよ!」


「…何言ってる、君も人間だろう」


課長の問いかけを、小林は鼻で嘲笑した。


「ふん、一緒にすんなよゴミが。ボクは人間とは違うんだよ!」


両腕を開いて自分を誇示する小林は、その自らの手を見て、何か気づいたようだった。


「あー、そうか、今見た目は小林とかいうエンジニアなんだっけ。馬鹿な君らはボクが人間だと思ってるのか。だから、そんなちんけでちっぽけな存在と同じにする訳だ!」


どういう事?

やはり、何かに『汚染』されている?

どうやら小林は、小林ではない。

そんな口ぶりだ。


「ボクが人間なわけあるか、バーカ。ボクは……カミだ!」


…何言ってるんだ、この人。


…でも、どうやら毒づいてもいられないみたいだ。

小林の…いや、小林を乗っ取っているナニカの言葉とともに、光ってる彼の子分どもはその光の力で完全に息を吹き返したようだった。


「この男はダミーだよ。君ら下等な者と言葉を交わすためのね。こいつはとっくに死んでる。養分としては全然足りない奴だったけど」


こいつ、人をモノみたいに。ほんとに許せない。

小林は只の『(いれもの)』でしかなかったのか。

カゲ先輩の電気でも平気だったんじゃなく、元々命などなかったんだ。


「…どうりで気配を感じない訳だ…」


絞り出すように先輩が呻く。

喋らないで。これ以上痛々しい先輩は見たくない。

私を守ってくれたのに、こんな痛々しい姿…。

私は押さえたハンカチごと、軽く先輩を抱き締めるように両腕で包んで、首を彼に振ってみせる。


「じゃあ何者なんだ、君は」


目つきの変わった課長が、しっかり小林を睨みつけた。スイッチが入ったように、体の隅々まで気力のようなものに満たされているように見える。

まるで別人だ。


「言ったろ、カミだよ、カミ。ボクは…




………付喪神(ツクモガミ)、メルクリウスさ」




『付喪神』。

大学でも習った事がある。

人が作り出した『物』が、何年も何年も使われていくうちに魂が宿り、意思を持つという存在。

『つくもがみ』の『つくも』は、『九十九』から来ている。つまり、それくらいの年月使われていた物が、付喪神になるというのだ。


古くは室町時代に、付喪神の原典である存在が絵巻に記されているという。

それは捨てられた事に恨みを持ち、人に復讐をする『怪異』として描かれているそうだ。

私は、その絵巻を見た事はないけども。


つまり、メルクリウスは意思を持った存在。

メルクリウスという設備の存在が、魔象使いそのものなのだ。

私の仮説が、正しかった。

けど、それをここで示した所で何にもならない。


コイツを、何とかしなければ。


「神に人が勝てる訳ないでしょー?つまり、キミらは負け確って事なんだよ」


「…で、人にこき使われたのが気に入らないから、今回のように人を玩具にして遊んでるって?…とんだクソガキね。神とか言いながら、人の中でも未熟な子供と、何も変わらないじゃない」


「まだ減らず口をきくのかい、チビのお姉さん。今の状況良く見なよ。キミらはもうボクにひれ伏すしかないんだよ。まあ土下座したところで、もう許してなんてあげないけどね」


魔象の力を十二分にまとったドローンは、さっきよりも遥かに強い光を放つ。

高圧電流のリミッターが外れてるのか、それとも電気ではなく魔象自体の光なのか、もう分からない。

ただ、今あれをぶつけられたら感電するどころではないだろう。

…多分、死ぬ。


……万事休す、なのかな。


せめて、アザミを出せれば。

一矢報いることくらいはできたのに。

会社は、どうしてそれを止めているの?

今、所属社員が窮地に陥っているというのに…。

せめて何とかしなくては。

私は無駄だと分かっているけど、魔象を発動させ、力を手に集める。

ぼやぁっと光る、私の手。

…こんなの、たかが知れている。


「四季守くん、じっとしてなさい。桐生くんを頼む」


課長が、私の所に再び文字を描き出した、







その時。






「突入ッッ!!」






突然声がして、黒ずくめの人影が数人、部屋になだれ込んで来た。

警察の特殊部隊を思わせる、漆黒のごてごてした装甲のついた身体。

硬質な素材感のヘルメットに、手には物々しい長柄の武器、刺叉のようなものを携えている。

重たいブーツの音をガツガツと響かせながら、黒ずくめの集団は迅速に小林と、私達を取り囲んだ。

胸元には、ムラクモの社章である、刀を模したエンブレムと、アルファベットの『MURAKUMO』の文字。


…ムラクモの、魔象2課だ。


2課は、厳密には魔象使いではない。

一般の人間がほとんどだ。

ただ、彼らは魔象が宿った『武装』をしている。

一律の力で統一された、いわばムラクモの私設部隊。

能力的には、警察の特殊部隊や軍隊にも匹敵すると言われている。

1課を中心に、これまでの経験や技術のノウハウを注ぎ込まれた魔象装備を持ち、行使する戦闘部隊。

それが、ムラクモの魔象2課なのだ。

つまり、この武装そのものが彼らの力。

この部隊を他社や各地に貸し出す事で、ムラクモは多くの利益と、平和を作り出してきた。


そんな彼らが、私達をも囲み、威圧していた。


「…どういう事だ?我々も制圧対象だというのか?」 


課長が、冷たい視線を投げかける。

私に刺叉を向ける2課隊員。そのヘルメットには、『013』という数字。

彼らに個性はない。というか、必要がない。

その一律性こそが2課の秩序であり、強みでもある。


「あなた方には、就業規則、並びに社員規則、魔象法への重大な違反の疑いがあります。おとなしくしていて下さい」


無表情な顔と声で、その013隊員は言う。

若い。私と同じか、もっと下の年齢だろうか。

目元しか分からない表情。黒のアンダーマスクをしていて、正確には分からない。


私達が…違反?

ここまで頑張ってきたのに、違反している?

だから、私達も制圧するというの?


…待て、それどころじゃないんだ今は。


「あの…怪我人がいるんです。せめて保護をお願いします」


焦り、悔しさ、虚しさ、戸惑い。


その全てを一旦押し殺し、自分の心の奥底にしまい込んで、私は声を絞り出した。

013隊員は、視線をカゲ先輩に送る。

私の、先輩の傷を押さえている手を確認し、013隊員は小指を立てて手を挙げた。 


「怪我人有り!程度…推定C!」


奥から更に2人がこちらへ来て、カゲ先輩に肩を貸し、両脇から支えて立ち上がらせる。


「いっ…痛っ…はは、もうちょい優しくしてくれ…」


「先輩…先輩…っ」


「大丈夫…あとはこいつらに任せよう…とりあえず俺はここまでだ…」


力無くカゲ先輩は隊員に支えられ、部屋を出ていく。


「おいおい、何勝手にやってんだよ!ここはボクのフィールドだぞ!人数増やしたところで負け確に変わりねーんだよ!」


黙っていた小林…いや、メルクリウスか。奴が手を挙げると、ドローンが先輩を支える隊員2人に襲いかかる。


が。


ごんっ。


ドローンは隊員にたどり着く事なく、急に力を失って床へ転がった。

光も、完全に失われている。


「まあまあ、落ち着いて下さいよ、カミ様。少し我々の話を聞いて頂きたい」


部屋の奥から、落ち着き払った様子で1人のスーツ姿の男が姿を見せた。

艶のある、パリッとしたスーツ。銀のストライプが入っていて、いかついながらもスマートさがある。

特に武装しているとか、武器を持っているとかもない。少し目立つ感じの、ミドルエイジの男だ。

ハーフか、クォーターを感じさせる、鼻筋の通った整った顔立ちで、瞳の色も薄く見える。


彼を異質な雰囲気たらしめているのは、その左眼に掛けられた片眼鏡(モノクル)だろう。

アンティークなお店にいそうな老人のような、チェーンを垂らした片眼鏡。それだけは何となく、彼を只者ではない空気にしている。

そんなの実際掛けてる人なんて、漫画かアニメくらいでしか見かけないもの。


柔和な目つきのその男と、目が合う。


あ、私、この人知ってるかも。どこでだろう。

記憶の片隅に、どこかで出会った既視感がある。



落ち着いた足取りで近づいてくるその男への記憶を手繰るように、私は自分の頭の引き出しを確かめ始めた。





…誰だったっけ……。





















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