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㈱ムラクモエージェンシーの社畜ども   作者: ケムリネコ
『傀儡士』 四季守ミサオ 編
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12/30

〜即席魔導人形(インスタントゴーレム)⑫〜





あの。





……あの、そろそろ着きませんかね。




痛いんですよ、地味に、ずっと。




お尻。




お尻から太ももにかけての地味な痛みに葛藤しながら、それは顔に出さず(多分出てないはず)、私はメルクリウスへの推理合戦をしていた。


メルクリウスが、意思を持ってるなんて、少し馬鹿げた話かも知れないけど、私は『ある』と思ってる。


カゲ先輩は『汚染』されているという可能性を一番高く見ているようだ。

実際、人でそういうパターンはあった。

一般人が、外的に魔象に侵され、3課の『退魔士』がリーダーになって処理した案件は幾つかある。


佐伯くんは、メルクリウスに関わる何者かがメルクリウスを利用しているパターン派だ。

『結局道具は道具でしかなく、悪いのはいつも人間』という考え方らしい。


御手洗課長は、みんなの意見に時折頷いたりしながら、黙って運転している。







そうしているうちに、ようやく車は高速道路を降りた。

しばらくして、物々しいゲートが見えてきた。

門番らしき制服?姿が2人、守衛だろうか。

ゲートの管理建物の中にも2人。


「お疲れ様です、ムラクモの者です」


御手洗課長と何かやり取りをし、ゲートが開く。

そこから更に進むと、また別の門に。

そこに併設された駐車場で、私達は車を降りた。









「ここからは外部に繋がるものを預けて頂きます」


さっきと違う制服の男が、鍵付きの手提げケースを持って現れた。


「携帯は使えないってこと?」


「はい、お願いします」


「あの、これは?記録とかに使いたいんですけど」


私は佐伯くんのノートパッドを指す。


「オフラインにして頂ければ。確認します」


男が確認の上、佐伯くんはオフライン操作を実行する。

マークがオフラインになったのを確認の上、私達は先へ通された。


遠くで誰か、手を挙げているのが見える。

ヤマさんだ。他にも2人、警察らしき人物。


「ムラクモさんお疲れ。御手洗課長、ご無沙汰しております」


「山神さん、お疲れ様。今日はありがとうね」


「いえいえ、ムラクモさんにはお世話になってますしな」


そう言いながら、ヤマさんと目が合う。

彼は意味ありげに、ニヤッと笑いかけてくる。

分かってますって。

私は軽く会釈して返した。







私達のオフィスより、更に無表情な廊下。

しん、と静まり返っている。

いや、何かの駆動音はしてるかな。どこかで低い『うーん』って感じの音が断続的に続いている。


歩いていくと、制服の上に白衣を羽織った男が現れ、一礼してきた。

丁寧なお辞儀。実直そうだが、何か緊張しているような、怯えているような雰囲気も感じられる。


「メルクリウス設備主任の鈴木です。今日はよろしくお願いします」


顔を上げたその男は、やはり何かに警戒しているような顔つきをしていた。

私達に?うーん、何かそれだけではないような気がする。

のっぺりとした顔立ちに、神経質そうな雰囲気と、張りつめたようなもの。

……なんだろう。

確かに、警察やら魔象企業がぞろぞろ来て、廊下をいかにも、って感じに行進していたら緊張はするよね。

それとも、何かハラに秘めているのか…。




…さて、そろそろか。




私はカゲ先輩と顔を見合わせた。先輩が小さく頷く。





「…あの、すみません」


聴取を行うであろう部屋の前、私はおずおずと手を挙げた。


「ちょっと、お手洗いに行きたいのですが…」


鈴木は少し困った顔をした。


「本当はうちの者を付き添わせたいのですが、あいにく今日は女性スタッフがおりませんで」


「…では場所だけ…」


「僕も行きましょう」


佐伯くんが挙手した。

これ、実は手はず通りなのだ。


「彼女、方向音痴でしてな、この部屋に帰って来れなくなったら困りますからなぁ。その点僕は優秀なので大丈夫ですぞ」


余計な事言うなよ。


「そんな事ないですけど?私、これでも道に迷った事ないですし」


「またまた。大抵女って生き物は地図が読めないもんなのですよ四季守くん」


「ちょっと、その言い方何?女全体に喧嘩売る気?」


「いやいや。あくまで四季守くんが、という話で」


「今女って生き物って言ったじゃん。批判対象大きくしてるじゃん」


「細かい人ですなあ。そんな事でいちいちカリカリして……あ、分かった、『あの日』なんですか?」


おい、そこまで言えとは言ってないぞ。

ちょっとカチンときたな、今の。


「あ、それセクハラだからね、それだからデリカシーがないって言われるのよ、男は。だいたいあなた、いつも小汚い眼鏡して、清潔感のない格好で一緒に行動されたらこっちだって…」


「…あーー、もうやめて下さい!」


一喝したのは鈴木という男だ。

明らかにカリカリした感じで、それを隠す事もなくこちらを見る。

怖ぁ。


「本当に噂通りですね、ムラクモの魔象3課さんは!女性用の手洗いは3階上の北の端にしかありません!行くならさっさとお願いしますよ!」


「あー、すみません、いっつもこんなんなので、お気になさらないで下さい」


精一杯の愛想笑いで、そそくさと私はこの場を離れる。


「全く、怒られてしまったではないですか」


その後をぶつくさ文句言いながらついてくる佐伯くん。お前、後で覚えとけよ。

ともあれ、私達はその場を離れ、階段へと向かった。







「何で余計な事言うのよ」


「臨場感は大切ですぞ。女にきちんと言えるこの僕だからこそ、あの空気を…」


「分かった、もういい。やっぱり私苦手、君」


「それは失礼」


声のトーンをコソコソ声にしながら、私達はいよいよ気を引き締めた。

メルクリウスがあるのは、女性用トイレの近くだ。

佐伯くんがノートパッドをいじり、ビルのマップを出す。


「そもそもここの地図なんてどうやって入手したのよ」


「デュフフ、秘密ですな。男は誰しも秘密を持っているものでござるよ」


「…ほんと、もういいから」


誰もいないよね?

私達は身を低くし、周りを警戒しながら無機質なフロアを進む。

ここで誰かに鉢合わせでもしたら計画は台無しだ。


階段を上がり、いよいよ目的の階に辿り着く。

メルクリウスへの入り口に人はいない。

セキュリティは万全だろうし、少人数で運営してるのだろう、ここまで人は誰もいなかった。

『設備』だもんね、オフィスじゃないんだから人は少なくて当然か。



佐伯くんのご自慢道具が示す、メルクリウスへのセキュリティゲートの前まで来た。

固く閉ざされた、金属製ゲート。

その右側に、キーボードや認証装置かな?液晶画面もついてて、透明なプラかアクリルのカバーが付いたボタンやら…ごてごてした操作板のような装置。

おそらくこれが、この扉を開けるセキュリティなのだろう。

この向こうに、目的の存在がある。


「どれどれ、僕に見せてもらいましょうか」


ささっと佐伯くんが装置に張り付き、ポケットから出した数本のケーブルでノートパッドと装置を繋ぐ。


「…どのくらいかかりそう?」


「さぁ、初対面ですから…おぉ、さすがのセキュリティですな、美しい…例えるなら、雑木林に一輪咲く見たこともない美しい花…いや、清楚な高嶺の美少女といったところ」


例えが…何か引っ掛かる。

美少女なんだ、このセキュリティ。


「やや、怯えているのかな?大丈夫、心配しないで。乱暴にはしないから、デュフフっ。お、なんと可憐な数列…おや、意外とグラマラスなのですな、そそられるでござるよ」


き、キモい。何だか小汚い男に手篭めにされる美少女を想像してしまい、何ともやりきれない、気持ち悪さとセキュリティへの謎の同情をしてしまう。


「キモい…」


思わず口に出てしまったが、佐伯くんは全く気にせず作業を進めている。


「うぉほほ、これは何とも…いやらしい…」


お前がだよ。卑猥だよ言い方が。

セキュリティ、なんか脱がされてるんだ。

佐伯くんが、雪花のような柔肌の美少女の衣服を脱がせてるのを、何となく想像してしまい私は思わず『おえっ』の顔をしてしまう。


「ふぅむ、最後がなかなかの…手強さ…では、仕方ないですな。こちらも…」


佐伯くんのノートパッドが、ぼうっと光り出した。

魔象の力の表れだ。

彼は決して強い魔象を持っている訳では無い。

けど、ノートパッドを通して、プログラムに干渉できる力を持っている…らしい。

詳しくは私も知らないし、本人も感覚でやっているのでよく分かっていないらしい。


メルクリウスのように発信する能力(まだ仮定だけど)は無く、あくまで自分とノートパッド、ケーブルを通してだけ干渉できるのだそうだ。




しばらくして。




かしゅんっ。




何か動く音がして、装置は光るのをやめた。

同時に、佐伯くんがまとっていた魔象の力も解除された。


「これでよし。開きますぞ」


ぷしゅうぅぅっ。


圧力が解除される音とともに、重厚な扉が少しずつ開いていく。

いつまでここが無人かも分からない。

早く入ろう。入りたい。

私が、筋肉痛で重い下半身を上げた、


その時。


「おい、そこで何をしている!」


声のした方を振り返ると、警備員風の制服姿が、こちらへの歩を速めているところだった。


まずい!


一応、私はムラクモのエージェントだ。通常業務の傍ら、カゲ先輩や色んな人に護身の為の体術を教わっている。

女の私じゃ、どこまでできるか分からないけど、やるしかない!

私は両手を構え、制服姿に逆に飛びかかろうとした。




が。




「うぐっ」


一瞬何かが見えた直後、警備員風は苦しそうな声を上げてその場に崩れそうになる。

それをがばっと支える人影。


「…せ、先輩」


「危ねー所だったな。お前、今飛びかかろうとしたろ?やめとけよ、そのサイズと女の力じゃ無駄だろうぜ」


人影はカゲ先輩だった。気を失っているのか、脱力している警備員をさっと抱える。

…さりげなく、また私の身長いじりましたよね、先輩?カゲ先輩だから許しますけど。


「3人もいなくなったら怪しまれますよさすがに。どうやってここへ?」


「ミサ、『かげおくり』って知ってるか?」


「『かげおくり』…?あ、小学校の時、国語の授業のお話であったような。まばたき無しでしばらく見つめて、目を閉じるとシルエットが瞼に焼き付く、っていうやつですよね?」


「そうそう。あれの応用で、今あの鈴木とかいう職員には俺がまだあの場にいるように見えてんだよ」


…うん、よく分からない。相変わらず忍の術もよく分からない原理ばかりだ。


「タイチ、終わったならお前は戻れ。記録係がいつまでもいない方が怪しまれる」


「御意。言われなくとも戻りますとも。僕は乱暴な事はごめんですので」


佐伯くんはノートパッドを小脇に挟むと、忍者のように人差し指と中指を立てた印を両手で作り、小走りで去っていく。


「あれ、冗談でやられるのむかつくんだよな、本業やってる側としてはよ」


気を失っている警備員を肩に担ぎ上げ、カゲ先輩が毒づく。


「ああいうことする奴がいるから、忍がギャグみたいな存在になって、世間やらネットでコスられちまうんだよ」


「…でも、漫画みたいな術って実際ありますよね。先輩よく使うじゃないですか、身代わりの術みたいなのとか、変装とか、何か影縛りみたいなのとか」


「お、ミサもそっち側か?やるか?」


「いや、いいですから、今それどころじゃないでしょ」


「はいはい。こいつちょっと片付けてくるから、先に行ってろ」





開いたセキュリティゲート。

その先は、非常灯か設備のものか、うっすらした光しかない。廊下とは違い、暗さと、何か重たい空気が廊下へと漏れ出ている。

1人で先へ行くのも怖いけど、このままここにいて何者かにまた見つかるのも嫌だ。


私は中へ入った。

ゲートは、私の手でも動かせるくらいには自由になってしまっている。

とりあえず人が1人通れるくらいまでは閉めておき、私はカゲ先輩よろしく、忍び足で歩を進めた。

今日は動く可能性も考えて、静音性の高い黒のレザースニーカーにしている。足音はしない。


ゔーん、という駆動音が続く、仄暗い道。

奥の方に、一際大きな金属の塊と、付随する巨大なディスプレイ。その画面は、何かよく分からない文字列を映し出していて、それは定期的にスクロールされ、また新たな文字列が自動的に打たれている。

暗くて部屋全体は見渡せないけれど、多分これが『メルクリウス』の、『本体』なのだろうか。





「よく来たねー、来ると思ってたよ」




びくっ、と私が肩を震わせる。

メルクリウス本体の傍らから、ゆらりと人影が姿を見せた。

まだ誰かいたのか。しまった。


「すごいね、度胸あるね、女の子一人でここまで来たの?すごいねー」


子供みたいな無邪気な喋り方と、相反する見た目の中年男。

張り付いた笑顔。まるでそういう愛想笑いの仮面をしているかのようだ。

何だか分からない、不気味な気配がする。


『ヤバい』。何だか分からないけど、『ヤバい』。


私の直感が、頭の中で何度も訴えている。

心臓がドキドキしてきていた。

潜んでいるのが見つかったとか、そういう緊張感ではない。

よく分からない怖さが、その人から感じられた。


「ようこそメルクリウスへ。僕は…えっと…」


中年男は自分の首から下がった社員証を確認している。自分の名前も分からないの?


「小林だ。そう、小林。ボクは小林だよ、よろしくねお姉さん」


思い出したかのような口ぶり。

…とりあえず分かるのは、この人はきっと普通じゃないって事。

お姉さんって、あなたの方がよっぽど歳上ですよね。

口調も、小学生かのような、別人のような。


…別人、なのか?


「あなた、誰?」


「今言ったじゃん、小林だよ小林!じゃあお姉さんは誰なんだよ!?名乗れよ!あと、勝手にここに入っていいのーかなー?」


感情が昂ぶったり、かと思えば意地悪な感じになったり。

やっぱり普通じゃない。

カゲ先輩…早く来て下さい。こいつヤバいです、多分。


「魔象企業ムラクモエージェンシー、魔象3課の四季守といいます。メルクリウスの調査で来ました」


「うっそだぁ!メルクリウスそのものへの調査許可なんて出てないはずだよね?」


子供と会話しているみたいだ。

囃すような小林の言葉に、私はビジネスとしての態度をやめた。


「…そうだね、うん、そうだよ。でも、ここが怪しいと思って調査に来たの、分かる?」


「分かるよ!魔象が来るのは分かってたんだ!そうか、ムラクモかぁ。3課って問題児だらけのヤバいとこなんだよね?」


「…さあ。私達の評価はあなたには関係ないでしょ。やましい事がないなら、調査させてもらってもいい?」


「うーん、どうしようかなぁー。ちょうど退屈してたんだ。調査の前に、ボクとちょっと遊ばない?チビのお姉さん」


「…チビは関係ないでしょ。いいかげんにしなさいよ」


沸々と苛立ちがこみ上げてきた。

こいつ、ぶっ飛ばしたい。

言って欲しくない事までずけずけと。


「あ、もしかしてチビって言われるの嫌だった?いい大人なのにぃー。ちーび、ちーび」


ムッカつく!


「いい大人が、恥ずかしくないの?そんな小学生のガキみたいな口して。大人なら、もう少し紳士的な態度取ったら?」


「それならチビお姉さんもだよ、勝手にここ入ってきてさ。もう少し紳士的な手順取ったら?それに、レディならガキとか言っちゃダメだよー」


ああ言えばこう言う。これじゃ埒が開かない。佐伯くんと喋ってるみたいだ。


「じゃあどうする?私、こう見えて強いよ?」


私はさっきみたいに身構えた。

勿論ハッタリだ。私の体格でできることなんてたかが知れてる。

けど、柔道でもレスリングでも、日本人は軽量級の方が成績残してるんだ。

なんとかしてやる。

私は、いつかテレビで見た小柄な金メダリストの柔道選手をイメージして、身を低く構え直した。


「あはは、面白いねお姉さん。四季守さんだっけ。魔象使いなんでしょ?じゃあ魔象でやろうよ。さっきも言ったじゃん。退屈してたんだ。あと、イライラもしてる。みんな、みんな勝手な事ばっかしてさぁ!クソみたいな事ばっか押しつけやがってさぁ!」


小林は突然激昂すると、ポケットから『携帯』を取り出した。

えっ、職員は持ち込み可能なの?ズルくない?

嫌なドキドキが、大きくなる。


携帯は、およびそれからとは思えない強い発光を起こした。

見た事がある。

最近散々悩まされてきた、アレと同じ輝き。

視線をずらすと、メルクリウスの大画面は同じように発光し、猛烈な速度で意味不明なプログラム?文字列を流している。


「これが…『ボク』の力だぁ!!」


めぎめぎめぎっ。


床が盛り上がり、小林を包む。同時に、そこらにあった装置やら何やらが、まるで小林が磁石か掃除機のように、彼に吸い寄せられて集まっていく。


…またこれか。 


あっという間に小林はそれに首ほどまで埋まり、『それ』は人間型というには余りに不恰好な、手足を持った『ナニカ』へと変貌をとげた。


「あはは!格ゲーをイメージしてよ四季守さん!さぁ、キャラクターを選択して下さい!なんちゃってー!来いよ、来いよぉぉぉ!」


いい度胸だよ、あなた。

ここまで言われて引き下がれるか!

私の、武骨だけど美しい、最愛の相棒で徹底的に粉砕してやる!


私は首から下げたペンダントを外し、先端のチョークで床に陣を描く。


「じゃあ、遠慮なく。後悔しても知らないからね。私が選ぶキャラクターは、どんな隠しキャラより強いよ…!」


陣へ手をかざす。


『アザミ』、おいで。


こいつを粉砕してやろう。キミの力と、私の操作で。

私達は今まで何だって乗り越えてきた。

今回だって大丈夫、こんな奴、相手じゃない。

パターンだってもう分かってるんだ。

パワーだけの、不細工な魔動人形もどき。

こっちはパワーだけじゃないんだ!





……けど。






アザミは姿を現さなかった。





いつもなら、私から伸びる魔象の操り糸が、アザミを陣から起こし、引き上げるのに。






私は、ただ落書きに手をかざしているだけだった。

















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