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第3条:自ら流されてみる。

 流されないほうが良いんだろうが、踏ん張るほど流されてばかりの人生だった。

なので今回も流されることにした。

 そういうことなので、俺は姫さんことエーレドネィに連れられるがまま、

彼女の家に招かれ、そのまま夕食をご馳走になっていた。


「え、っと…もう一回良いすか?」


 俺は口にぶち込んだトマトソース塗れのシュニッツェルトンカツの一切れを

噛もうとして噛み損ねたレベルの聞き捨てならない話を聞き返す。


「イアルマス様の大契約ですわね?」

「いや、そっちは当事者だから…」


 この世界は意外と技術が進んでいる。まぁ主に享受できる階級は貴族に限るが。

だから俺があのドラゴン様と契約を結んだ場面の記録映像を見せられたときは

色々と驚いたが…そこは正直どうでも良い。聞き捨てならなかったのは

その後の話だ。


「…サザンクロイツ王国が滅亡って…どういうことっすか?」

「おぬしが困惑するもの無理はないな…何しろおぬしが投獄されたのも

今から300年以上前の話じゃしな」

「そこですよ! そこ! 300年って…!?」

「正確には323年前ですわ! イアルマス様!」

「いや、細かい年数はどうでもいいんすけど…」

「どれ、簡単に説明してやろう…」


 老騎士様こと、イーゲルンさんの話によれば、あの後気絶した俺の処遇は

やはり王国記の魔王ネロシュヴェルガよろしく、しかし今回はさっさと俺を

処刑してしまおうとしたそうで…って!?


「あのまま俺を殺そうとしたのか!?」

「魔王の再来など普通は誰も望まぬことじゃ。

その点では旧王政府の判断は間違いなかったじゃろう」

「いやいやいやいやいや…!?」


 せめて私利私欲のために利用とかさぁ…!? 即殺すって、ねぇ…!?


「しかぁし!! 大馬鹿旧王家如きがイアルマス様を処刑など

不可能の中の不可能なのですわっ!!」


 鼻息荒いよ姫さん…っていうか近いよ姫さん…背徳の香りがするので

自重してくださいませんかね…?


「姫様の仰るとおり、おぬしを殺せるものなど誰もおらぬ…

故に気絶している間に例によって厳重封印するしか無かったのじゃ」


 色々言いたいことはあったが、俺はシュニッツェルを食いながら

黙って話を聞くことにした。


「何しろどのような方法を以ってしてもおぬしを全裸にして終わるだけじゃった」

「言い方がひどい」

「条約違反の処刑器具諸共に爆破しようが、酸の魔術で溶かそうとしようが、

溶鉱炉に突っ込もうが、何をしようともおぬしを傷つけることは敵わんかった」

「………」


 そして処刑に掛かる費用ばかりが悪戯に減るだけで、どうしようもないから

封印して未来の魔術騎士たちに託す…はずだった。


 しかしそれも叶わない。何故なら東北方の大国である白銀猛虎セレブリャティグル大公国が

君主の代変わりから帝国と称するようになって、一気呵成の覇権主義。

元々が300弱ある領邦諸国を抱える同様の覇権国家だったサザンクロイツ王国は

ドミノ倒しの勢いで、だがしかしジワジワと領邦諸国を奪い削り取られ、

そして周辺国は覇権国家等と仲良くしたいとは思うはずも無いから無視を決め…


「ついに12年前の乾季に、王都は陥落し最後の王子が処刑され…

たった一人残された幼いアリーエル王女殿下はセレブリャティグル皇帝の後宮へ

無理やり引きずり込まれた…そう遠くない未来にアリーエル殿下は

あの豚熊皇帝ピギノーソの子を孕まされ…サザンクロイツ王国は完全に滅亡する…」

「……なるほど…ん? ちょっと良いすか?」

「何じゃ?」

「あの…姫さん…エーレドネィ殿下もサザンクロイツ王家の血筋っすよね?」

「私の家は280年くらい前に既に帝国側でしたのよ?」

「えぇぇ…」

「国より御家存続の方が重要じゃからな。致し方あるまいよ」


 だからってそんなさっぱりしてて良いんだろうか…?


「どの道、おぬしが天を覆い尽くさんほどに巨大な邪龍を呼んだ段階で

王国の命運など風前の灯じゃ。魔王ネロシュヴェルガの再来とは

それだけで大義名分を敵国に与えてしまうのじゃ」

「…マジか…」


 俺はただ、エリート街道を進みたかっただけなのに…。


「言いたくはないがワシはおぬしが処刑されておれば良かったと思っておる」

「まぁ…そうっすね…」

「イーグ! 何てことを言いますの!? イアルマス様に謝りなさい!!」

「姫様に言われては仕方ありませぬな………悪かったの?」


 このジジイ…やっぱ彼我の戦力差理解してねえな?

まぁ、そんなにムカつかないけど。


「イーグ…?!」

「すまぬ姫様…ワシとて一人の騎士じゃ…勘弁しておくれ…」

「…イアルマス様? イアルマス様は何も悪くありませんのよ?

悪いのはイアルマス様の偉業を理解できぬ愚物どもなのですからね?」

「…はは…ありがとうございます、殿下」

「むぅ…私のことはエーレと呼んでいただいて構いませんと先ほども…」

「いやそれは…」


 それとこれとは別問題だろ……だがまぁ、近況は把握したし…

最後に聞くべきことがある。


「それは兎も角、殿下はどうして俺を探していたんすか?」

「勿論イアルマス様のお力をお貸し頂きたいからですわ!」


 まだまだ起伏の過不足な胸を張るエーレドネィ。


「何でまた魔王の再来とされてる俺の力なんか…?」

「言わずもがな、この私に子を孕ませようと企む豚熊皇帝ブタやろう

虫の餌にしてやるためですわ…!!」

「…おおぅ…」


 エーレドネィの表情が…! 可愛い女の子の顔が…!!


「…太祖たるヴェストリッターケーニッヒ伯四世の代からあらゆる面で

帝国帝家を支援したというのに…今まで碌な見返りも寄越さず…

あまつさえ一人娘である殿下を妻にと…あのピギノーソは…!!」


 子宝に恵まれなかったらしいイーゲルンさんにとってエーレドネィは

実の娘以上に大切なようで、握り締めた拳から血が滴っている。


「事実上のクーデターを手伝えってか…」

「恐るべき暗黒万魔屍徒アポストルデュンケルハイトをも歯牙にもかけぬおぬしの力があれば…

百戦百勝無敵とうそぶく帝国軍とてゴミにもならんじゃろうて」


 どうなんだろう…? 俺、とりあえずこれまでの攻撃は全部避けてたし…?

…とはいえ…もう流されまくって沈んでるし…何より…。


「完遂の暁には…?」

「もちろんイアルマス様の望む最高官僚への道は完全保障いたしますわ!!

……………何でしたら…私がイアルマス様の…くふっ☆」


 エーレドネィを見ててわかった事がある。彼女の瞳の内は暗い。

12歳とは思えないほどにドロリとした闇がそこにあった。

そんな目を一切変えずに照れられても…怖いっす。

大体あのドラゴン様の姿を見て狂喜するんだぜ?

そんな子に迫られても嬉しいとは普通は思わねぇから。


……。


 こんな形で夢に前進するとは思わなかった。


「はぁ…」


 嘗ては王国の名産品だったラガーを幾ら飲んでも酔えない。

っていうか帝国頭おかしいだろ。酒精度数8度以下は酒じゃないって…。

まぁ、おかげで俺は転生して20年待たずにラガーを飲めるわけだが…。

ドラゴン様由来チートパワーのせいか、飲んでも俺には唯の発泡麦茶でしかねぇ。


「………とはいえ…曲がりなりにも人生プランは順調だ…」


 俺は別に正義の味方じゃないし…高給取りで仕事に負われず

まったり生きていければ正直何処でもよかったし…。


「でもなぁ…」


 だからって俺は悪人に徹することもできねぇヘタレだ。

んでもって殺し殺されなんてまっぴらだ。


「………まぁ、うわさの皇帝陛下が聞いたとおりのクズなら…

ぶっ殺してもそんな気にならなそうではある」


 それでも変な迷いがあるのは…やっぱり前世のヤムート人の

お人よし国民性が成せる業なのかねぇ…。


「もし…? まだお休みになられてませんの?」

「……あぁ、姫さんか」

「もう…私のことはエーレで良いとあれほど…!」

「今後を考えれば、公私混同は程ほどにしなければ…っすよ?」

「でしたら今は完全に私的なのですから…」

「……わーかったわーかったよ…んで、夜更かししてまで何の用だ、エーレ?」


 あの目なので咲いたのはどこか邪悪な笑顔のエーレドネィ。


「アリーエル殿下…いいえ、アリーエの事をお話しても宜しいですか?」

「……別に構わないが」


 エーレドネィはぴとりと俺にくっついてくる。

シャイセ…! 良い匂いがしやがる…! 多分邪幼女のくせに…!


「帝家が帝家でしたし、腐っても同じ旧王家の血筋でしたから…

私は秘密裏にアリーエとはお友達として交流しておりましたの」

「そうか…」

「半分以上年が離れてますから…アリーエは私のことを姉様姉様と…」


 他愛の無い話だ。6年以上の年の差とはいえ同じ女子同士、

仲良くならないはずがない。だからこっそり匿うつもりもあった。

しかし、例の皇帝陛下はエーレドネィにも欲情してるのでそうもいかない。

私怨たっぷりだが、同じくらいアリーエル殿下を助けたい気持ちもある。


「まだアリーエは子を孕める体ではありませんし…行動するなら

まだ監視の目が緩い今が好機なのですわ…あの子には、

もっとたくさん伸び伸びした日々が相応しいのです」

「うん……」

「アリーエだってイアルマス様の事をきっと気に入りますし。

そうなったら…そんな未来が手にできたら…私は…!」


 エーレドネィは俺の腕を強めに握り締めてくる。普通だったら多分痛い。

だがそれを確かめるのは野暮だろう。瞳こそ闇だが、その顔は

妹みたいなアリーエルを想う姉のような顔だ。


「………やるだけやってみるさ」

「本当ですか!? ああ! 流石はイアルマス様ですわ!!」


 今度は絡めてきた…! ぐぬぬ…! 残念ボディそうでいて柔らかいね…?!


―姫様ッ!? どちらにっ!?


「あら残念…もうイーグが近くに…それではイアルマス様…今後ともよしなに☆」

「あぁ…」


 ふぅ…ったく…何だかんだで肉体に引っ張られるんだな…!

畜生め…タバコがあったら物凄く吸いまくりたい…。

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