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1.馬祥歌の宿題

「さて。私はあなたについてもう少し詳しく知る必要があります」


 調印式もあと四日後に控えたその日の夕方、珪己は祥歌に招集され開口一番にそう言われた。


「……はい?」

「いいからさっさと答えなさい。あなたは何ができるのですか」

「何って……ですから」


 出勤初日の時と同様に力仕事について語ろうとした珪己に、祥歌は片手を上げて制し、かつ言葉を重ねてきた。


「いえ、一度聞いたことをこの場で繰り返す必要はありません。私はあなたについてもっとよく知る必要がある、と言ったのですよ」

「はあ……」


 もしかして父のことか、それとも女官時代のことか、と一瞬思考をめぐらせかける。そんな珪己のことを祥歌が軽く睨んだ。


「調印式のことですよ」

「調印式……?」

「だから、あなたがここに来た本来の目的についてですよ。もっと言わないと分かりませんか? 私はあなたに調印式でどのようなことをしてもらうべきかを決める必要があるのですよ。あなたは、調印式で、何が、できるのですか?」


 最後はゆっくりと噛み砕くように、若干馬鹿にしたような言い方で祥歌が再度問うた。


「……ああ! そうでしたね」


 臆面もなく晴れやかな顔となった部下に、祥歌は目の前の机を指でとんとんと叩いた。そして腕組みをしてみせた祥歌は、珪己が問いに答えるのをまるで臨戦態勢のように待っている。珪己はこのような祥歌を見るたびに思う。武に通じない人でも、女性でも、闘気をまとうことができるものなのだな、と。


(それだけ真剣に仕事をされているということよね)


 であれば珪己も真剣に答えなくてはならない。


 自分には何ができるのか――?


「馬侍郎はご存じのこととは思うのですが、私は武芸には通じています。とはいえ、芯国の方がいる場では武器を所持できないと聞いております。ですので今は武器を持たずして戦う業を学んでいる最中です」

「学んでいる最中って……。それで実際にあなたは当日役に立てるのですか?」


 このところの自身のふがいなさを指摘されたようでぐっと言葉につまったが、それも一瞬のこと、珪己は丹田に力を込めてきっぱり『是』と答えた。


「武芸というのは、手に持つものがあろうとなかろうと、またその手に持つものが変わろうと、根本的な動きは同じなのです。ですから、闘うことが必要とされる時、私は礼部のお役に立つことができると思います」

「そうですか。他には?」

「他……ですか」


 珪己がしばらく答えられずにいると、祥歌の指が一際強く机を叩いた。思わずびくっと震えた珪己に、しかし祥歌は頓着などしなかった。


「では考えておいてください。明日、登城してすぐに答えを持ってくること。よろしいですね?」


 それだけ言うと珪己のことを目の前から追い払ったのであった。


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