Ｓｐｉｃａ

おまけ・リハヤ視点

　副題・ヒロイン役に舞い上がった女性の末路

　あの時、あのキャラを攻略出来るんだと、今までにない興奮を覚えた。それなのに、あの女が隠して結局攻略出来なかった。

　あの人が良かったのに。あんなにかっこよくて綺麗な人、今まで見た事なんてなかったのに。

　カレンが全て悪いのよ。私から攻略キャラを横取りするなんて何様のつもりよ。カレンの分際で。所詮ヒロインである私を引き立てるだけの女の癖に。

　仕方ないから、他の攻略キャラに行こうとしたら、近付く事すら出来なかった。親衛隊というブスな女たちが邪魔をしたからだ。ブスの分際でヒロインである私と攻略キャラを引き離すなんて、図々しいのよ。

　けれど人数の多さに負けて、結局攻略できないで終わった。だから、今の私にはカナルしかいない。あんな中途半端な顔立ちのカナルしか。

　あんな素敵な人を攻略出来なかった後は、正直他の攻略相手は横並びでしかない。

　けれどカナルルートが確定してるからなのか、カナルはカレンじゃなくて私を選んだ。それは当たり前だけどね。あの人のルートに入れなかったのは、結局カナルが私しか好きじゃなかったからよね。

　だけど、カレンはショックで学園を辞めたと思っていたのに、実は転校しただけだとか。そして王子様にプロポーズされたとか、嘘みたいな話を聞いた。

　信じられない。私にはカナルしか残らなかったのに。本当に信じられない。あの人に色目を使って、更に王子様を誑かしたんでしょう。あの子のやりそうな事よね。世界中のイケメンは全て自分のものだと勘違いしているんじゃないの。

　馬鹿でブスな女。

　それなのに、私よりも上にいるなんて許せない。

　カナルも頼りないし。でもこの男しか今はいないんだから、これで妥協するしかないのよね。今の所は。

「カナル……大丈夫？」

　顔色の悪いカナルを気遣う。愛されるヒロインは、あくまで優しくなきゃね。だから一応声をかけた。本当に冴えない男。とりあえず傍に置いといてあげるけど、愛される為に生まれた私には、こんな男じゃない本当の運命の相手が現れるだろうし。

　今は繋ぎ役としてカナルで妥協しておくしかないのよね。

　本当に残念。

「あぁ……大丈夫だ」

　そうでしょうね。こんなに可愛い私がいるから満足でしょ。不満なんてあるはずないし。不満があるのはこっちなんだから。このままでいくと、カナルと私は学園卒業時に２人で旅に出る事になっている。

　今の魅力のないカナルと旅に出るなんて、不満しかないっていうか。

　飽きてきたけど、今の所カナルだけだし。ここにきて妥協を覚えたっていうの？　他に良い人が出来たらカナルなんて捨てるわ。

　次までの繋ぎなんだから、勘違いしないでほしいわ。所詮繋ぎなんだから。私につり合う人間じゃないんだから、せいぜいお金を使って私を楽しませればいいのよ。

　だから旅に出るルートは却下ね。あのお坊ちゃんに私を養えるはずもないし。苦労するなんて嫌だし。だってカナルよ。何で私がカナルの為に苦労しなきゃならないのよ。

　財力は物足りないけど、次が出来るまでの間だから問題ないだろうし。

　どうにかカナルには家を継いでもらわないと。

　そんな事を考えている私の耳に、カナルの言葉が入ってきた。

「リハヤの存在を両親に認められて嬉しかったんだ。

　これで堂々と、リハヤと一緒にいられる」

「手紙の内容……それだけだったの？」

「あぁ」

「──ッ。嬉しい。カナル大好き」

　一応言っておかないとね。私はカナルを一途に思う可愛いヒロインなんだから。本当はカナルが私に尽くすのが当たり前だけど。

　私よ。ヒロイン様よ。

　尽くされないはずがないじゃない。

　だからカナル。私の所が大好きな貴方は、精々私に尽くせばいいのよ。私につぎ込み、私は綺麗になって他の人──私に相応しい人の所に行くから。

　それまでは私に尽くしなさいよ。

　貴方にはその程度の価値しかないんだから。

　本当に嫌になるわ。

　カナル程度の男しか残らないなんて。

　感謝してよね。私の隣にいる事を許してあげているんだから。貴方程度の男が、私を独り占め出来るはずがないんだからね。

　あぁ。こんなのじゃなくて、あの人に会いたい。

　緑銀の髪に黄金の瞳。私の心を捉えて離さない美しいあの人。

　あのブス──カレンさえ邪魔しなかったら、あの人は私のものになったのに。

　勘違いしている男と女。ばっかじゃないの。

　私がヒロインなの。愛される為に生きているヒロイン様なのに、あの２人には本当にガッカリ。自分に与えられた役割さえ満足に出来ないなんて。

　あれ以来、あの人には会えていない。

　カレンも何処かに転校しただけで、良い男を侍らしてるなんて、身の程を知りなさいよ。　ブスのくせにして、ヒロインを愛するキャラを私から引き離すなんて、本当に馬鹿な女。

　救いようがないわね。あんな馬鹿でブスな女なんて。

　あの人には全然似合わないし、相応しくないのよ。

　ブスに出来る事といったら、身を引くだけでしょ。

　それすら出来ないブスに、生きる価値なんてないわ。

　さっさと死ねば良いのに。

　ブスで性格も悪いあんな女は、死んだ方が世の中の為よ。

「カナル……」

　カナル。私に相応しくない男。

　愛しているフリをしてあげるから、精々私に尽くしなさい。