3つの報告
数日が経った頃、王城からの使者が、アーヴェント家の屋敷を訪れた。
「解析が完了しました。国王陛下より、出頭するようにとのことです」
その知らせに、リオネルは静かに頷いた。
「フィーナとマルタにも、伝えてくれ」
急ぎ使いを出し、四人は間もなく王城の前で合流した。
「――いよいよですね」
カイルが、緊張した面持ちで呟いた。
「ああ」
リオネルは、短く答え、四人は共に城門をくぐった。
通されたのは、謁見の間だった。
石造りの高い天井、玉座までまっすぐに伸びる赤絨毯。以前、辺境伯からの告発を受けた、あの場所だった。
玉座には、国王アルベルク二世。傍らには、内務卿ヴォルフ・ライナー。そして、その両脇には、宮廷魔導士と、エルンスト神殿長の姿もあった。
あの日とは、明らかに空気が違っていた。
「まず、宮廷魔導士殿から」
ヴォルフの言葉に、白髪の宮廷魔導士が、一歩前へ出た。
「持ち込まれた二つのダンジョンコアを、詳細に解析いたしました」
宮廷魔導士は、淡々とした口調で報告を始めた。
「いずれのコアにも、モンスターの誘導方向を示す術式が刻まれておりました。その方向は、二つとも、グレイン王領側にのみ向けられており、辺境伯領へ向かう記録は、一切見当たりません」
その報告に、場の空気が、わずかに張り詰めた。
「加えて、この技術体系は、我が国に古くから伝わるものとは、明らかに異なります。むしろ、隣国由来のものである可能性が高いと、考えております」
宮廷魔導士は、そう締めくくった。
*
続いて、エルンスト神殿長が、静かに口を開いた。
「各地の神殿から、禁忌キノコによる中毒治療の実績を集め、比較いたしました」
神殿長は、手にした記録を示しながら続けた。
「辺境伯領における治癒の実績は、他の地域と比較して、著しく少のうございます。辺境伯殿の訴え――自領内で深刻に蔓延しているという主張とは、明確に矛盾する数字にございます」
その報告にも、静かなざわめきが広がった。
*
「最後に、リオネル」
ヴォルフの言葉に、リオネルは一歩前へ出た。
「はい」
リオネルは、これまでの経緯を、あらためて語った。
最下層で対峙した、コアに縛られたゴルドの最期。うわ言のように漏らした、辺境伯の名。そして、王都へ向かう道中、峠で受けた襲撃。
「捕らえた者たちは、口を揃えて、コアそのものを回収するよう指示されていたと証言しております。この一連の動きを見ても、辺境伯殿が、事の全容を把握していたとしか思えません」
リオネルの言葉が、謁見の間に、重く響いた。
*
技術的な物証、統計的な状況証拠、そして人的な証言――三つの独立した報告が、揃って一つの結論を指し示していた。
国王アルベルク二世は、しばらくの間、重い沈黙を保っていた。
やがて、静かに口を開く。
「これだけの証拠が揃った以上、もはや疑いというより、確信に近い」
その言葉に、謁見の間の空気が、一段と張り詰めた。
「辺境伯ダグラス・ケインへの、正式な捜査を開始する」
国王の宣告に、リオネルたちは、深く頭を垂れた。
「あわせて、万が一、疑いが事実であった場合に備え、しかるべき準備――軍事的な対応も含めた検討を、この時点から静かに進める」
「――陛下」
ヴォルフが、静かに言葉を継いだ。
「辺境伯側は、既に何らかの対処を始めているやもしれません。峠での襲撃を見ても、こちらの動きは、ある程度察知されていると考えるべきかと」
「分かっている」
国王は、そう答えた。
「だからこそ、できる限り、こちらの動きを悟らせるな。捜査も、準備も、慎重に進めよ」
その言葉には、これまでとは明らかに違う、覚悟の重みがあった。
前回王都に帰還した際に辺境伯から一方的に告発を受けた、あの場面。あの時とは、完全に立場が逆転していた。
*
謁見を終え、王城を後にしたリオネルたちは、しばらく無言のまま歩いていた。
「――終わった、というわけじゃないですよね」
カイルが、静かに呟いた。
「ああ。ここからが、本当の始まりだ」
リオネルは、王城を振り返りながら答えた。
長い戦いの、一つの区切りがついた。だが、辺境伯という存在そのものと向き合う戦いは、まだこれからだった。
「何をすべきか。一緒に考えてくれ」
リオネルの言葉に、三人が頷いた。
王都の空に、夕暮れの色が、静かに広がり始めていた。
これにて王都再びの章、完結です。
次回から対辺境伯戦に入ります。
彼らがどのような活躍をするかお楽しみください。
また、ここまで読み進めていただいてありがとうございます。
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もしそうでなくても、これからもお楽しみください。




