密命
謁見の翌日、リオネルのもとに、王城からの使者が訪れた。
「王城まで、お越しください」
使者は、そう告げると、外に控えさせていた馬車へ乗るよう促した。誰の呼び出しなのか、何の用件なのか――一切告げられないまま、リオネルは黙って馬車に乗り込んだ。
昨日の謁見からまだ日も浅い。何か、新たな展開があったのだろうか。そう思いを巡らせながらも、確かなことは何も分からなかった。
案内されたのは、玉座の間ではなく、王城の奥まった一室だった。
扉が開かれた瞬間、リオネルは思わず足を止めた。
「――父上?」
部屋の中には、既にオズワルドが控えていた。
「――お前も呼ばれたのか」
オズワルドも、驚きを隠せない様子だった。
「何のご用件か、聞かされていますか」
「いや、何も。ただ、王城まで来いとだけ」
互いに、何も聞かされていない。それだけで、これがただ事ではないと、二人とも悟っていた。
しばらくして、国王アルベルク二世が、供も最小限に、静かに姿を現した。
「よく来た。かけてくれ」
「単刀直入に言おう」
国王は、椅子に腰を下ろすと、すぐに本題を切り出した。
「辺境伯討伐の軍を編成する。その総大将を、オズワルド。お前に任せる」
「――謹んで、お受けいたします」
オズワルドは、深く頭を下げた。
「お前の、王直轄軍団長としての実績は、これまでも申し分ない。加えて、アーヴェント家は、代々戦士の家系だ。この役目に、これ以上ふさわしい者はおるまい」
国王の言葉に、オズワルドは静かに頷いた。
「もう一つ、まず伝えておくことがある」
国王は、そう切り出した。
「今回の戦役において、グレイン王領を、前線基地として使う。兵站、駐留、進軍の拠点――全て、お前の領地に担ってもらうことになる」
「承知いたしました」
リオネルは、静かに頷いた。
「そして、リオネル」
国王の視線が、あらためてリオネルへ向いた。
「お前には、先鋒兼斥候を任せる」
リオネルは、一瞬、言葉を失った。
「理由は、三つだ」
国王は、指を立てながら続けた。
「一つ、グレイン王領が前線基地となる以上、辺境伯領と直接境を接するその土地を治める者が、最も動きやすい立場にある」
「二つ、今回の一連の不正――辺境伯の証拠を、丹念に積み上げ、突き止めたのは、他ならぬお前だ」
「三つ、お前が持つ、マッパーとしての力だ。地形を読み、部隊を正しい場所へ導く――今回の戦役において、これほど求められる適性もあるまい」
三つの理由を並べられ、リオネルは、返す言葉が見つからなかった。剣の腕で選ばれたわけではない。だが、確かに、自分にしか担えない役目だという実感があった。
「――お受けいたします」
リオネルは、深く頭を下げた。
「これらの決定は、まだ公にはできない」
国王は、二人の顔を交互に見た。
「辺境伯側に、こちらの動きを悟られるわけにはいかん。他言は、無用に願う」
「――肝に銘じます」
オズワルドとリオネル、二人揃って頭を下げた。
*
部屋を辞し、廊下を歩きながら、オズワルドがふと足を止めた。
「リオネル」
「はい」
「総大将と先鋒。これからは、親子である前に、そういう間柄になる」
オズワルドの声は、いつもより静かだった。
「戦場では、私情を挟むな。お前がすべきことを、迷わずやれ」
「――承知しております」
「それでいい」
オズワルドは、それだけ言うと、わずかに口元を緩めた。
「頼りにしている」
短い言葉だった。だが、その一言に、これまで積み重ねてきた父としての信頼が、確かに込められていた。
*
その後、リオネルはカイル、フィーナ、マルタのもとへ戻り、今しがた告げられたことを、順を追って伝えた。
「先鋒……ですか」
カイルが、緊張した面持ちで呟いた。
「ああ。それに、我が領地が、前線基地になる」
「私たちの領地が、戦争の拠点に……」
フィーナも、その重みを噛み締めるように呟いた。
「これは、もう、他人事じゃありませんね」
マルタの言葉に、誰も異を唱えなかった。
リオネルは、三人の顔を順に見渡した。
「これから、忙しくなる。だが、これまで積み重ねてきたものがある。やれるはずだ」
その言葉に、三人は、それぞれの覚悟を胸に、静かに頷いた。
グレイン王領へ向けて、四人は、王都を後にした。




