峠の襲撃
迎撃の陣形が整った、その直後だった。
崖の上、木々の間――複数の方向から、一斉に矢が放たれた。
「――!」
誰もが身構えるより早く、フィーナがあらかじめ展開していた風が、その軌道を大きく歪めた。
狙いを外れた矢が、次々と地面や岩肌に突き刺さっていく。
「風、効いてます!」
フィーナが、緊張しながらも声を上げた。
「矢の方向、あちらと、あちらです」
マルタが、気配察知で正確に位置を指し示す。ハンター陣も、経験的に察していた方向と一致していた。
「射返せ!」
ガレンの号令に、ハンター陣が一斉に矢を放つ。崖の上、物陰から、悲鳴とも唸りともつかない声が上がった。
だが、敵の攻撃はそれだけでは終わらなかった。
「来ます、正面から三人!」
カイルの声が、鋭く響いた。
崖の陰から、剣を構えた男たちが、雄叫びを上げながら飛び出してくる。
「右も、二人来ます!」
マルタも、続けて報告する。
リオネルは、その情報を受け、即座に指示を飛ばした。
「兵士たち、正面と右を固めろ! ハンター陣は、崩れた奴を狙え!」
事前に察知できていたことで、迎え撃つ側にとっては、ほぼ想定内の展開だった。
護衛の兵士たちが、正面から迫る敵を、堂々と受け止める。
「押すな、支えろ!」
剣がぶつかり合う音が、峠道に響き渡った。
これまでの遠征で連携を重ねてきたハンター陣も、隙を見計らって矢を放ち、崩れた敵を的確に仕留めていく。
兵士とハンター、二つの陣が噛み合い、表からの攻撃は、着実に押し返されていった。
だが、リオネルは、この状況に気を緩めていなかった。
これほど周到に用意された襲撃だ。表の攻撃だけで終わるはずがない。
「――マルタ、他には」
「――背後です!」
マルタが、はっと表情を強張らせた。
「別動隊が、回り込んできています!」
リオネルは、即座に振り返り、単身で背後の敵へと向かった。
「くっ――!」
物陰から飛び出した一人を、レイピアで危なげなく仕留める。
だが、続けて二人、三人と、次々に伏兵が姿を現した。
「多い……!」
一人で相手にするには、数が多すぎた。
「リオネル様!」
カイルの声とともに、短剣がリオネルへ迫っていた一人の脇腹を貫いた。
「助かった」
「油断しすぎです!」
二人は、背中を合わせるようにして、残る伏兵に対峙した。
連携の取れた二人の前に、伏兵たちは、次第に追い詰められていく。最後の一人が崩れ落ちたところで、峠道に、ようやく静寂が戻った。
*
戦闘が終わり、生き残った襲撃者、五名ほどが捕縛された。他にも、既に息絶えた者が幾人か倒れている。
指揮官格と思しき者は、乱戦の隙をついて姿を消しており、取り逃がしてしまった。
「雇い主は、誰だ」
リオネルが、捕らえた男の一人を問い詰める。
だが、男は口を噤んだままだった。他の捕虜たちも、同様の反応だった。
「金で雇われただけです。誰の差し金かなんて、知りません」
その言葉に、嘘はなさそうだった。いずれも、末端の駒に過ぎないのだろう。
*
だが、尋問の中で、一つだけ明確な指示があったことが分かった。
「丸くて、光るもの……絶対に回収しろって、言われてました」
問い詰めた誰もが、口を揃えるように、同じ内容を語った。
その証言に、四人は顔を見合わせた。
ダンジョンコアの存在、そしてその重要性を、襲撃者側が正確に把握していた――ということになる。単なる口封じの襲撃ではなく、明確にコアそのものを狙った行動だったのだ。
「――辺境伯は、コアの価値を知っている」
リオネルは、静かにそう呟いた。
*
負傷者の手当てをしながら、四人は、あらためて事態の深刻さを噛み締めていた。
証拠を握って王都へ向かう自分たちに、命を狙うほどの脅威が及んでいる。それは、これまで積み重ねてきた疑いが、確かな核心に近づいている証でもあった。
「行こう。もう、王都は目前だ」
リオネルの言葉に、三人が頷く。
峠道を抜けた先、王都の灯りが、遠く霞んで見え始めていた。




