2つのコア
村の詰め所に戻ったリオネルたちを、エリオットが出迎えた。
「オークの討伐、無事に終わりました。それと……」
リオネルは、これまでの経緯を、順を追って話した。
最下層で対峙した知恵あるオークの群れ。その先で見つかった、ダンジョンコア。そして、そこに磔にされていたゴルドの最期。
エリオットは、話を聞き終えると、しばらく黙り込んだ。
「あの男が、そんな最期を……」
「憎むべき相手ではあった。だが、あれは、あまりに惨い最期だった」
リオネルの言葉に、エリオットは複雑な表情を浮かべながらも、静かに頷いた。
「持ち帰られたコアは、どうされますか」
「フィーナに、解析を頼むつもりだ。それと、もう一つ、確かめたいことがある」
*
翌日、リオネルはカイルを伴い、以前攻略したゴブリンの洞窟へ向かった。
「今度は、隠し扉があると分かった上で探せる」
リオネルの言葉に、カイルも頷いた。
「あの時は、まさか壁の向こうに、あんなものがあるとは思いませんでしたからね」
二人は、記憶を頼りに、あの「豪華な三層」の周辺を、丹念に調べ直した。
しばらくして、カイルが壁の一角に手をかけた。
「――ありました。ここです」
仕掛けを探り当てると、壁が音もなくずれ、隠された通路が姿を現した。
「今回も、簡単に見つかるものですね」
「見つけ方さえ分かれば、な」
通路の先には、オークのダンジョンで見た光景と、酷似したものが広がっていた。
部屋の中央に、淡く光る球状の結晶――ダンジョンコア。
そして、その傍らに繋がれた、人の亡骸。
「――やはり、あったか」
リオネルは、静かに剣の柄から手を離した。
亡骸は、既に原形をほとんど留めていなかった。長い時間が経っていることが、一目で分かった。
「丁重に、運び出そう」
「はい」
二人は、亡骸を丁寧に布に包み、コアと共に、村の詰め所へと持ち帰った。
*
詰め所に戻ると、エリオットが、その亡骸を検分した。
身に着けていた、わずかに残る衣服の断片、簡素な指輪――それらを、これまでの行方不明者の記録と照らし合わせていく。
「……これは」
エリオットの表情が、みるみる強張った。
「以前、村で行方が分からなくなっていた者の記録と、一致します」
「行方不明?」
「はい。当時は、モンスターに襲われたか、あるいは村を出ていったのだろうと、処理されていました」
エリオットは、記録帳を見つめながら、重い息を吐いた。
「まさか、あの洞窟の奥で、こんな形で……」
その言葉に、リオネルも、拳を強く握りしめた。
ただ行方不明として片付けられていた失踪が、実はこの陰惨な儀式の犠牲だったのだ。この事件の根の深さと、これまで村人たちが受けてきた被害の大きさを、あらためて思い知らされる事実だった。
「他にも、同じような記録がないか、洗い直してくれ」
「承知しました」
*
その後、フィーナは二つのコアの解析に取りかかった。
「時間が、かかると思います」
その言葉に、リオネルは頷いた。
「急ぐ必要はない。落ち着いてやってくれ」
フィーナが解析に没頭している間、他の三人も、それぞれの形で動いた。
カイルとエリオットは、これまでの被害を踏まえた村々の復興について、具体的な打ち合わせを重ねた。修繕の優先順位、資材の手配、人手の割り振り――地道な作業が、静かに進められていく。
マルタは、犠牲者の出た村々を、一つ一つ回り始めた。オークの被害で命を落とした者たち、そして今回、身元の分かった行方不明者――それぞれの村で、静かに祈りを捧げていく。
「安らかに」
村の外れ、簡素な墓標の前で、マルタは静かに両手を組んだ。一つの村で祈りを終えると、また次の村へ。数日をかけて、マルタはその務めを果たしていった。
*
数日をかけて、フィーナはようやく、二つのコアの解析を終えた。
「終わりました」
フィーナの報告に、リオネルたちが集まる。
「二つとも、共通する記録が刻まれてました。モンスターの誘導方向についての、術式です」
「誘導方向?」
「はい。最初のコア――ゴブリンの洞窟にあった方は、リオネル様が着任された当初の、あの村へ向かうよう記録されてます」
フィーナは、続けてもう一つのコアを指した。
「今回のコアは、グレイン王領全体、特に……ゴルドが支配していた村々へ向かうように」
その報告に、リオネルは、これまでの点と点が、はっきりと線で結ばれていくのを感じた。
「辺境伯領へは」
「一切、向いてません」
フィーナは、はっきりと言い切った。
「辺境伯様の証言と、真逆です」
*
その夜、リオネルは、この発見の重さを噛み締めながら、次の行動を決めた。
「この内容を、魔法学校へレポートとして送る。同時に、内務卿殿にも一報を入れる」
「王都へ、動かれるのですか」
「ああ。証拠は、揃った」
リオネルの言葉に、三人は静かに頷いた。
王都へ向けた準備が、静かに始まった。




