二度目の攻防
物陰で息を整えながら、四人は再び額を寄せ合った。
「土壁は、指揮官の怪力で破られる。投石役の立て直しも早い」
リオネルは、先ほどの戦いを振り返りながら言った。
「同じ手は、もう通じない」
「じゃあ、どうします」
カイルの問いに、リオネルはしばらく考えてから答えた。
「狙うのは、後ろの投石役だ」
「投石役、ですか」
「ああ。よく見ろ。今、投石をしているのは、さっきの攻防で負傷して、前衛から下がった連中だ」
言われて、マルタも目を凝らす。確かに、後方で石を構えている一団の中には、腕や肩に傷を負った様子の個体が交じっていた。
「一度傷を負っている分、もう一押しで、機能しなくなるはずだ」
「なるほど……先に潰すのは、あっちですね」
カイルが、弓を構え直しながら頷いた。
*
「フィーナ、カイル、あの投石役に合わせてくれ」
「はい」
「了解です」
「――今!」
リオネルの合図とともに、フィーナの火球と、カイルの矢が、同時に後方の投石役へ向けて放たれた。
既に負傷していた個体たちは、その一撃にひとたまりもなかった。石を取り落とし、次々とその場に膝をつく。
「グアアッ!」
悲鳴じみた唸り声が、後方から重なって響いた。投石という援護の要が、瞬く間に沈黙していく。
*
その混乱の中、リオネルは前衛の陣形を油断なく観察していた。
「――あそこだ」
「あそこ?」
マルタが、視線を追う。
「あの一角、槍の構えがぎこちない。おそらく、さっき右翼から回ってきた投石役だ。本来の得物じゃない」
言われてみれば、その一角だけ、槍の握り方も、足の運びも、他の生粋の槍兵とは明らかに違っていた。後方の投石役が沈黙したことで、こちらの守りにも、隙が生まれ始めている。
「弱いところから崩す。行くぞ」
「はい!」
*
リオネルとマルタが、その一角へ向けて一気に攻めかかった。
「そこ!」
リオネルのレイピアが、慣れない構えのまま棒立ちになっていた一体の足を狙う。バランスを崩したところへ――
「いただきます!」
マルタのメイスが、確実にとどめを刺した。
続けて、隣の一体も、同じ要領で足を封じられ、崩れ落ちる。
本来の得物である石を持たされていれば、それなりの動きを見せたのかもしれない。だが、不慣れな槍では、二人の連携の前に、なす術がなかった。
その一角が、次々と崩れていく。
*
あらかた片付いたところで、リオネルは声を張った。
「フィーナ、もう一度!」
「はい!」
フィーナが、再び轟音を放つ。
弾ける光と音に、まだ残っていた前衛が、揃って怯んだ。
「今です!」
その混乱に乗じて、カイルが弓を短剣に持ち替え、素早く前衛の陣へ斬り込んだ。
一度目の攻防では、指揮官の一喝一つで、瞬く間に立て直されていた。だが今回は、後方の投石役が沈黙し、槍の一角も崩れている分、指揮官の指示も全体には行き渡らなかった。
「グルァアッ!」
指揮官格が、苛立たしげに声を上げるが、あちこちで生まれた綻びを、一人で塞ぎきることはできなかった。
「残りは、任せてください!」
マルタの声とともに、メイスが唸りを上げる。狼狽える前衛の一体を、確実に打ち崩していった。
カイルの短剣も、隙をついて的確に急所を捉えていく。
その隙に、リオネルは背後――先ほどの一撃で膝をついたまま、なおも息のあった投石役たちへ向かった。
「まだ、終わっていないぞ」
既に負傷し、満足に立ち上がることもできない個体へ、リオネルのレイピアが、次々と確実なとどめを刺していく。
前衛はマルタとカイルが、後方の投石役はリオネルが――それぞれの持ち場で、着実に敵の数を減らしていった。
やがて、前衛も、後方の投石役も、完全に沈黙した。
広間に残るのは、もはや、指揮官格――ただ一体のみだった。
*
四人は、荒い息をつきながら、じりじりと間合いを詰めた。
「――ここまでだ」
リオネルは、剣を構え直しながら、静かに呟いた。
指揮官格は、なおも威圧するような唸り声を上げていたが、その目には、これまでとは違う、明らかな警戒の色が浮かんでいた。
四人と、一体。
最後の決着が、いよいよ迫っていた。




