加護の使い方
複数の墓から、次々とアンデッドが這い上がってくる。
カイルが弓を構え、リオネルも剣の柄に手をかけた。
「加護を」
マルタが短く唱えると、四人の武器と身体が淡い光に包まれた。
瘴気にも恐怖にも呑まれないようになり、
普通の武器がアンデッドへ確かな手応えを返すようになる。
「行きます」
マルタ自身も、メイスを手に前へ踏み出した。
祈るだけの僧侶ではない。
振り下ろされたメイスが、
迫るアンデッドの頭部を正確に打ち砕いた。
「――強いな」
リオネルは思わず呟きながら、
自分に向かってきた一体へ剣を構えた。
カイルは後方から矢を放ち、
関節や首元を狙って動きを鈍らせていく。
だが、数が多い。
墓石が入り乱れる足場も悪く、
四人であっても徐々に押され始めていた。
「フィーナ、下がって――」
リオネルが声をかけようとした時、
フィーナが咄嗟に手を伸ばした。
「止まって……!」
地面の下、あの苦しそうな感触が応えるように動いた。
アンデッドの足元、湿った土がせり上がり、
脚に絡みついて固める。
草ではない。
土そのものが、敵の動きを縛っていた。
「……今の、わたしが」
フィーナ自身も驚いた顔をしていたが、
リオネルはすぐさま状況を利用した。
「動きを封じた個体から潰す。」
「了解」
矢が飛び、マルタのメイスが振るわれる。
固定されたアンデッドから、確実に数を減らしていく。
即席の連携ではあったが、四人の力が噛み合い始めていた。
最後の一体が崩れ落ちるまで、そう時間はかからなかった。
戦闘が終わっても、人魂だけはまだその場に残っていた。
カイルとリオネルが警戒するが、マルタが手で制した。
「大丈夫です。敵意はありません」
人魂は、ゆっくりと礼拝所の中へと移動していく。
一行が追うと、荒れた祭壇の前で光がかすかに揺れていた。
マルタが祭壇の前に膝をつき、静かに祈りを捧げる。
やがて、人魂から纏っていた恐怖のようなものが薄れ、
光はふっと消えた。
「……知らせようとしていたのだと思います。
アンデッドが現れることを」
マルタが立ち上がりながら言った。
「弔われないまま、ずっとここに」
リオネルは祭壇の周囲を見回した。
傷んだ壁、崩れかけた床。
この場所で、かつて何があったのか。
「調べる必要があるな。
この墓地で、過去に何があったのか」
そう呟いてから、リオネルはマルタへ向き直った。
「一つ、聞いておきたい。
先ほどの加護は見事だが、
あれほどの力がありながら、なぜこの辺境に?」
マルタは少し表情を曇らせた。
「私は、治癒魔法が使えません」
「使えない?」
「聖職者には、傷を治す力が期待されます。
ですが私には、その適性がなくて……
ただこの地に新しい領主様が着任されるのに
一人も聖職者がいないのはまずかろうと、
私が派遣されることになったんです」
役に立たないと判断され、辺境へ送られた。
その言い方には、聞き慣れた諦めが滲んでいた。
だが、リオネルの脳裏にあるのは、たった今見た光景だった。
加護を与え、感情を読み取り、
メイスでアンデッドを打ち砕き、彷徨う魂を鎮めた。
「治せないことと、役に立たないことは、同じではない」
リオネルは静かに言った。
マルタは一瞬、言葉を失ったように黙り込んだ。
「……ありがとうございます」
やがて、小さく頭を下げる。
「一つ、お願いがあります。
私は館ではなく、この礼拝所に住み、
墓地の管理をしたいのです」
「復興させる、ということか」
「はい。傷は治せなくても、死者を弔い、
住民の祈りや悩みを受け止めることはできます。
ここには、それが必要な気がします」
リオネルは礼拝所を見回した。
屋根、壁、床、墓地までの道。
修繕すべき箇所は、数え上げればきりがない。
「屋根はほぼ全面の張り替えが必要だな。床も傷んでいる。
道も整備しないと、雨の日には歩けない」
「祈りより先に、大工仕事になりそうですね」
カイルが軽口を叩く。
「わたしにできることがあれば、手伝います」
フィーナも申し出た。
「異変や魔物が出た際には、
必ず領主様へ報告し、協力いたします」
マルタがそう約束すると、リオネルは復興を許可した。
その夜、長く閉ざされていた礼拝所に、小さな灯りがともった。
墓地の向こうでは、川が静かに流れている。
けれどフィーナには、その水の音が、
まだどこか苦しそうに聞こえていた。




