第二階層
一層のボスを倒した後、四人はその場に腰を下ろし、しばらく休息を取った。
「一気に進むより、ここで整えておこう」
リオネルの言葉に、誰も異を唱えなかった。
「魔力は、まだ大丈夫か」
「はい、まだ余裕あります」
フィーナが答える。
「加護も、あと何度かは問題ありません」
マルタも、腕輪に触れながら頷いた。
矢筒の残りを確認するカイルの様子も含め、それぞれが体勢を立て直していく。
*
休息を終え、奥に続く下り階段を見つけたところで、四人は二階層へと降りた。
「フィーナ、頼む」
「はい」
フィーナが目を閉じ、精霊に問いかける。
しばらくして、目を開けた。
「この階層の道筋、なんだか……前に来た、ゴブリンの洞窟の二階層と、すごく似ています」
「二階層、というと」
「確か、殺風景な場所だったな。目立った仕掛けも、敵の配置もなかった」
リオネルが、記憶を辿りながら言った。
「今回も、同じように何もない場所かもしれない」
淡い期待と、消えない警戒。四人は、その両方を抱えたまま、慎重に歩を進めた。
*
だが、しばらく進んだところで、その期待は裏切られた。
「来ます、三体!」
カイルの声とともに、通路の先からオークが姿を現した。
これまで何度も対峙してきた相手だった。だが、その動きは、明らかにこれまでとは違っていた。
一体が、低く唸りながら他の二体へ視線を送る。それに応じるように、残りの二体が、左右に分かれて回り込もうとする動きを見せた。
「――待て」
リオネルは、思わず身構えたまま、目を凝らした。
「あれ、意思疎通してるんじゃないか」
「言われてみれば……」
カイルも、警戒を強めながら頷いた。
単純な突進ではない。連携を意図した動きだった。
*
三体は、確かな連携を見せながらも、四人の練度には及ばなかった。挟撃の意図を読み切ったリオネルたちは、むしろその隙をついて各個撃破していく。
三体を倒し終えたところで、リオネルは、ふと考え込むように呟いた。
「これまで戦ってきたオークは、こういう動きを、一度も見せなかったな」
「確かに。ただ、力任せに突っ込んでくるだけでした」
マルタも同意する。
「文献では、オークはある程度の知恵を持つ種族だと読んだことがある」
リオネルは、静かに続けた。
「だとすれば……これまでの個体は、本来の姿じゃなかったのかもしれない」
その言葉に、誰も反論しなかった。ただ荒れ狂っていただけの群れと、今、目の前で見せられた連携。その落差が、あらためて不気味に感じられた。
*
さらに奥へ進むと、階層の主とおぼしき一団が、開けた空間で待ち構えていた。
オーク、六体。
その中の一体が、他とは明らかに違う立ち回りを見せていた。低い唸り声で、他の五体へ、絶えず指示を送っている。
「あれが、まとめ役ですね」
カイルが、静かに指摘した。
「フィーナ、カイル。あの一体を狙え。マルタ、私は前衛を抑える」
リオネルの指示に、四人はそれぞれの持ち場についた。
フィーナの風の刃と、カイルの矢が、遠距離から指揮役へ向けて放たれる。
同時に、マルタとリオネルが前へ出て、残る五体を食い止めにかかった。
「――当たった!」
カイルの声とともに、指揮役が矢を受け、体勢を崩す。
その隙を、リオネルは見逃さなかった。
「カイル、前衛を頼む!」
「了解です!」
カイルが素早く前へ回り、マルタと共に五体の相手を引き継ぐ。
リオネルは、その隙間を縫うようにして、身軽な足取りで指揮役へと肉薄した。
「フィーナ、援護を!」
「はい!」
フィーナの火球が、指揮役の視界を焼く。怯んだその瞬間、リオネルのレイピアが、正確に急所を貫いた。
指揮役が崩れ落ちると同時に、残る五体の動きが、目に見えて乱れ始めた。
連携を失った個体は、もはや脅威ではなかった。カイルとマルタが、次々と数を減らしていく。
最後の一体が地に伏したところで、広間は静寂に包まれた。
*
「――厄介でしたね、今回は」
カイルが、矢を回収しながら息をついた。
「道筋は、以前と同じ。だが、出てくる敵の質が違う」
リオネルは、周囲を見渡しながら言った。
「これまでのオークは、本来の知恵を発揮できない状態にあった、ということかもしれない。だとすれば、それ自体が、何者かの作為の結果だ」
「わざと、力だけで暴れさせていた、ということですか」
マルタの問いに、リオネルは頷いた。
「確証はない。だが、警戒しておくべきだろう」
四人は、その違和感を胸に刻みながら、階層の奥、さらに下へと続く道を見据えた。
「行こう」
リオネルの言葉に、三人は頷き、次の階層へと足を向けた。




