洞窟再び
新章始まりました。
今回はダンジョン攻略パートです。
オークとの死闘から、二日が経った。
村では、負傷者の手当てが続けられていた。骨折した者も、幸い命に別状はなく、順調に快方へ向かっている。山狩り隊として戦ってくれた狩人・剣士陣にも、リオネルは一人一人に労いの言葉をかけて回った。
「よく、ここまで持ちこたえてくれた」
「いえ、こちらこそ、良い経験をさせていただきました」
ガレンが、代表して答える。この二日間で、彼らの表情には、確かな落ち着きが戻っていた。手当てを受ける者たちの間にも、峠を越えたという安堵の空気が広がっている。
*
村の集会所は、山狩り隊の間、そのまま詰め所として使われていた。
リオネルは、そこでエリオットに指示を出した。
「オークの討伐が一段落したことを、各村に伝えてくれ。まだ完全に片付いたわけではないが、これ以上の大規模な被害は出ないはずだ、と」
「承知しました。すぐに手配します」
エリオットは、その場で書状の準備に取りかかった。不安に揺れていた村々にとっても、この一報は、大きな安心材料になるはずだった。
*
この二日間、洞窟には三十人ほどの見張り部隊を、交代で配置し続けていた。
配置にあたり、リオネルはあらかじめ対応の基準を徹底しておいた。
「オークが現れても、十匹までなら対処してくれて構わない。それを超えるようなら、すぐに退け」
その指示を胸に、見張りたちは二日間、洞窟の周辺を見守り続けていた。
*
二日目の夕刻、見張りを率いていた者が、詰め所となっている集会所へ報告に訪れた。
「この二日間、オークが二度、姿を見せました。いずれも三頭程度で、危なげなく対処できています」
「洞窟の内部からは」
「これといった異変はありません。静かなものです」
リオネルは、その報告を聞き、頷いた。
「よし。明日、洞窟へ向かう」
*
翌朝、出立の前に、リオネルはエリオットを呼んだ。
「今日から、また私は洞窟の探索にかかりきりになる。留守の間、統治は任せる」
「承知しております。何かあれば、いつでも」
「頼りにしている」
エリオットは、以前とは違う、落ち着いた表情で頷いた。数か月の統治代行を経て、彼自身も確かな自信を身につけつつあった。
*
リオネルはカイル、フィーナ、マルタを伴い、洞窟へ向かった。
装備に不安はなかったが、念のため、松明や予備の武具を最終確認する。
「松明、予備の分も含めて十分にあります」
「私の矢筒も、満タンです」
カイルとマルタが、それぞれ準備の様子を報告する。フィーナも、腕輪の効き具合を確かめるように、軽く手首を振っていた。
「よし、行くぞ」
*
洞窟の入り口に立ったところで、リオネルはフィーナに声をかけた。
「中の様子を、探れるか」
「はい」
フィーナは、目を閉じ、両手を洞窟の奥へ向けた。
「この先、何か変わったことはありませんか」
土精霊、風精霊に、静かに問いかける。しばらく、耳を澄ますような沈黙が続いた。
やがて、フィーナが目を開けた。
「入り口はただの洞窟です。ですが……途中で、道が横にそれて、そこから先が変わっています」
「横にそれて?」
「はい。自然の洞窟がそのまま続いているんじゃなくて、途中の脇道から、新しく作られた場所に入っていく感じです」
その説明に、リオネルは眉を寄せた。
「ゴブリンの洞窟と、同じ構造か」
「たぶん、そうだと思います」
その言葉に、四人の間に、緊張とともに、ある種の確信が広がった。
「今度も、同じ手口か」
カイルが、短く呟いた。
「気を引き締めていくぞ」
リオネルの言葉に、三人が頷いた。
*
洞窟の奥は、日の光が届かない暗闇が続いていた。
「フィーナ、明かりを」
「はい」
フィーナが、光精霊に語りかける。ふわりと、淡い光が彼女の周囲に生まれ、洞窟の中を柔らかく照らし出した。
松明とは違う、温かみのある光だった。
「便利だな、これは」
カイルが、感心したように呟く。
「油の心配もいらないですし」
フィーナは、少し得意げに答えた。
*
光に照らされた洞窟を、四人は慎重に進んでいった。
しばらくは、ごく自然な、ざらついた岩肌が続いていた。だが、フィーナの言った通り、道はやがて緩やかに脇へと逸れていく。
その分岐を過ぎた瞬間、周囲の様子が一変した。
角の取れた石畳、等間隔に並んだ支柱の跡――誰かの手が、確かに入っている痕跡だった。
「これは……」
マルタが、壁に手を触れながら呟いた。
「ゴブリンの洞窟と、同じですね」
「ああ」
リオネルは、静かに答えた。
自然の洞窟から、人工の構造へ。境目を跨いだ瞬間、空気そのものが変わったような気がした。
この先に、何が待っているのか。
答えを求めて、四人はさらに奥へと、足を進めていった。
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