山狩り隊編成
館へ戻ったリオネルは、その日のうちにエリオットとカイルを呼び、山狩り隊編成の構想を語った。
「村ごとの被害地点を洗い直したい。狩りに慣れた者と、剣を振るえる者を組み合わせて、複数の方角を同時に調べる」
「規模は、どの程度をお考えですか」
「最低でも、狩人が三十人強。それに見合う数の、前衛を担える人手が要る」
エリオットは、少し考え込むような顔をした。
「常備の兵だけでは、到底足りませんね」
「分かっている。だから、二手に分けて集めたい」
リオネルは、カイルへ視線を向けた。
「カイル、狩人の方はお前の伝手を頼りたい。専門の技術がいる分、こちらは無理な徴募より、心当たりを頼る方が早いはずだ」
「了解です。心当たりなら、何人かいます」
カイルは、頼もしげに頷いた。
「エリオット、剣を扱える方は、傭兵の要領で雇ってくれ。給金を払っての、臨時雇用だ。腕っぷしがあれば、経験は問わない」
「承知しました。町の方に、募集をかけます」
「それと、村にも声をかけてほしい」
リオネルは、続けて言った。
「自分たちの村を守るためだ、と伝えれば、腕に覚えのある者が名乗り出るかもしれない」
「分かりました。両方から募ります」
*
カイルが真っ先に訪ねたのは、ガレンという初老の狩人だった。
リオネルが着任してまもない頃、村を回る中で、獣道の見分け方や足跡の読み方を、何くれとなく教えてくれた男だった。長年、この山を狩場としてきた分、地形にも獣の生態にも通じている。カイル自身、同じ狩人として、以前から顔見知りだった。
「山狩り隊を組むって?」
「ああ。ガレンさんの顔で、腕のいい奴を何人か集められないか」
「面白そうな話だな」
ガレンは、そう言って笑った。
「俺で良ければ、まとめ役でもやらせてもらう。この山のことなら、若いのより詳しい自信がある」
「頼りにしてる」
ガレンの声かけもあって、村の若い狩人たちが次々と手を挙げた。中には、これまで表立って前に出るのを避けていたような者たちも、ガレンの誘いには応じているようだった。
「あの人が誘うなら、って感じですね」
カイルは、その様子に苦笑した。
*
一方、エリオットの募集に、まず応じたのは、村々の男たちだった。
「うちの村が、また襲われるかもしれねえんだ。黙って待ってられるか」
鍬より剣に慣れているとは言い難い者も多かったが、その分、覚悟だけは誰よりも強かった。
町からも、冒険者崩れや元傭兵、腕試しをしたい若者が集まってくる。村からの志願者とはまた違う、実戦慣れした顔ぶれだった。
エリオットは、その両方を一人一人面談し、名簿を作成していった。
「名前、出身、これまでの経験、扱える武器――一通り、記録しておきます」
几帳面な性格そのままに、丁寧に書類を整えていく。
「村の方と、町の方とでは、経験の差がありますね。編成する際は、そこも考慮した方が良さそうです」
「頼む」
数日のうちに、狩人・剣士あわせて、志願者は九十人を超えた。
*
全員が館の前庭に集まった日、リオネルは、まとめて説明を行った。
「これから、山狩り隊を編成する。狩人五人、剣を扱える者十人を一隊とし、これを三隊まとめて一群とする」
リオネルは、地図を広げながら続けた。
「二つの群を作り、一日交代で山狩りに出てもらう。片方が山に入っている間、もう片方は休養と警戒にあたる」
集まった者たちが、真剣な面持ちで耳を傾けている。
「一つ、絶対に守ってほしいことがある」
リオネルは、一同を見渡した。
「オークとの遭遇は、五体までなら、その場の隊で対処してよい」
「五体、ですか」
誰かが、不安げに尋ねた。
「ああ。これまで確認できている限り、一つの群れは、多くても五体程度だった」
リオネルは、はっきりと言い切った。
「十五人がかりであれば、魔法の援護がなくとも、それだけの数を相手にして十分対応できるはずだ。狩人の索敵と、剣士の頭数がある。だが、それを超える数、あるいは仲間に被害が出た場合は、即座に交代の合図を出して撤退しろ」
「無理はするな、ということですね」
ガレンが、確認するように言った。
「ああ。数を減らすことより、生きて帰ることを優先する。無茶をして命を落とせば、元も子もない」
リオネルの言葉に、集まった者たちが頷いた。
*
その夜、エリオットは編成表を完成させた。
狩人と剣士を組み合わせた十五人一隊、それが三隊で一群。二つの群、合わせて九十人。
「思いのほか、うまくまとまりましたね」
エリオットが、書類を見ながら呟いた。
「ガレンさんの人望と、お前の手際のおかげだ」
リオネルは、素直にそう認めた。
「恐縮です」
編成表を見つめながら、リオネルは小さく息を吐いた。
この人数と体制で、被害の全容と、オークの発生源を突き止められるか。まだ、確証はない。
だが、これ以上手をこまねいているわけにはいかなかった。
「明日から、動き出す」
リオネルの言葉に、館の空気が、静かに引き締まった。




