↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
37/63

オークの爪痕

 グレイン王領の館に着くと、出迎えたエリオットは、頬がこけ、目の下に濃い隈を浮かべていた。


「よくぞ、ご無事で」




「お前こそ、よく持ちこたえた」


 リオネルは労いの言葉をかけたが、エリオットの表情は晴れなかった。




「申し訳ありません。手紙を送った後も、被害は止まりませんでした」




「詳しく聞かせろ」




「オークの目撃報告が、複数の村から相次いでいます。重傷者だけで、三十名近く。それに加えて軽傷者も相当数。亡くなった方は――村人だけで十八名、討伐に向かった領主軍からも二名。合わせて、二十名にのぼります」


 エリオットは、拳を強く握った。


「防ぎきれず、申し訳ありません」




「お前の落ち度じゃない」


 リオネルは、努めて静かに言った。


「今、それを言っても仕方がない」


 リオネルは、それ以上エリオットを責めなかった。責めるべきは、自分自身とゴルドだ。取り逃がした報いが、こうして形になっている。


「被害の詳細を、地図に落とし込む。報告書を全部出せ」




「はい」




     *




 執務室にこもり、リオネルは一人、地図と報告書に向き合った。


 村ごとの被害件数、負傷者の数、目撃された方角――一つ一つを、地図上に書き写していく。


 書き進めるうちに、傾向がはっきりと浮かび上がってきた。


 被害の集中している村は、いずれもかつてゴルドの息のかかっていた村ばかりだった。そして、その村々は、辺境伯領へと続く街道沿いに、点々と並んでいる。


 (――偶然、とは思えないな)


 地図に引かれた街道の線を、指でなぞる。


 被害の分布は、単なる自然発生のモンスター増加とは、明らかに違う形をしていた。




     *




 翌日、リオネルはカイル、フィーナ、マルタを連れ、被害が最も大きかった村へ向かった。


 柵は無残に破られ、畑は踏み荒らされている。村の外れには、真新しい土饅頭がいくつも並んでいた。すでに弔いは済ませたのだろう、真新しい花や供物が、その傍らに供えられている。




 村人たちは、皆一様に怯えた顔をしていた。


「また来るんじゃないかって、夜も眠れなくて……」


 声をかけてきたのは、まだ若い青年だった。以前の村長格の男が処分された後、急遽この立場を任されたのだろう、板についていない様子で、それでも懸命に村の代表として応対していた。


「村長代理を、務めさせていただいております」




「急な代替わりで、大変だったろう」




「いえ……それより、今は村のことで精一杯で」


 青年は、疲れの滲む声で続けた。


「この村だけで、四人も亡くなりました」




 その一言に、リオネルは言葉を失った。


「オークは、いつも同じ方角から現れるんです。山の奥、辺境伯様の領地に近い方から」




「決まって、その方角からか」




「はい。間違いありません」


 その証言は、リオネルが地図の上で見た予感を、裏付けるものだった。




     *




 村を後にし、四人は洞窟へ向かった。


 以前見つけたゴブリンが統率されていた洞窟。あの時は、内部の隠し部屋や祭壇に注目していたが、今回は違う。


「外に続く道を、もう一度洗い直す」


 リオネルの言葉に、三人が頷いた。




 洞窟の入り口周辺を、丹念に調べていく。


 しばらくして、カイルが声を上げた。


「これ、見てください」


 指差す先には、獣道とは明らかに違う、踏み固められた小道があった。草の生え方、地面の締まり具合――どれをとっても、動物の往来だけでできる道ではない。




「人が、頻繁に通ってる道ですね」


 カイルは、猟師の目で言い切った。


「しかも、結構な頻度で」




 道の伸びる方角を、リオネルは確かめた。


 辺境伯領の方向だった。


「……禁忌キノコか」




 マルタが、静かに呟いた。


「あれは軽いものです。よほど大量に運ぶのでなければ、人の手だけでも十分に運べます」




「密売の経路、ということですか」


 フィーナが、緊張した面持ちで尋ねた。




「まだ、断定はできない」


 リオネルは、慎重に答えた。


「だが、無視できる話でもない」


 仮説はあくまで仮説だ。だが、これまで積み重なってきた違和感――禁忌キノコの流通、ゴブリンの統率、そして今回のオークの偏った被害――そのすべてが、この一本の道の先に繋がっているような、そんな予感があった。




「行ってみましょう」


 カイルが、短剣の柄に手をかけながら言った。




 リオネルは、しばらく空を見上げた。日はまだ高い。引き返すには早すぎる。


「そうだな」


 頷き、リオネルは道の先へ足を向けた。


 カイル、フィーナ、マルタが、それに続く。


 洞窟から続く、その不自然な小道を、四人は静かに辿り始めた。


 木々の間を抜ける風の音に混じって、遠く、獣とは違う唸り声のようなものが、微かに聞こえた気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。