↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
29/63

残されたもの

 広間の奥、これまでゴルドが立っていた辺りを、四人は改めて検分した。

 豪華な調度品、磨き上げられた石柱、敷物――それらは、すべてそのまま残されていた。

 だが、書類らしきもの、記録らしきものは、どこにも見当たらない。


「何も、ないですね」

 カイルが、部屋の隅々まで見て回りながら言った。


「これだけの物を運び込んでおきながら、証拠になりそうなものだけは、最初から置いてない」

 リオネルは、その徹底ぶりに、かえって薄気味悪さを覚えた。

「最初から、こうなることを見越していたということか」

 屋敷の私室で見た、灰になった帳簿と同じだった。だが、あちらは慌てて燃やした跡があった。ここには、燃やす必要すらない。最初から、何も置かれていなかったのだ。


     *


 来た道を戻る途中、リオネルはふと違和感に気づいた。

「……静かだな」

 三層でコマンダーとシャーマンを倒して以来、これまで何度も遭遇したはずのゴブリンの気配が、一つもなかった。

 二層を抜けても、一層まで戻っても、同じだった。

 あれほどいたゴブリンたちが、一匹残らず、姿を消していた。


「逃げた、んですかね」

 カイルが首をかしげる。


「それにしては、静かすぎる。争った跡も、逃げた跡もない」

 マルタも、怪訝な顔で辺りを見回していた。


「気配そのものが、ないです。まるで、最初から誰もいなかったかのように」

 誰も、その理由を説明できなかった。

 リオネルは、その不可解さを頭の片隅に留めながらも、今は先を急ぐことにした。


     *


 一層で拘束していた中ボス格の男は、依然として同じ場所に縛られたままだった。

「連れて行くぞ」

 四人は男を引き立て、洞窟の外へと連れ出した。


 入り口では、見張りに立っていた従者たちが、ほっとした様子で出迎えた。

「ご無事で……!」


「この男を、村まで運んでくれ。他の者たちと合わせて、まとめて尋問する」


     *


 村に戻り、拘束していた村長格の男や、他の見張りたちを含め、改めて尋問を行った。

 だが、誰の証言も、似たようなものだった。

「私共は、ゴルド様に言われた通りに、荷を運んでいただけです。ダンジョンの奥まで持って行った先のことは……何も」

「見張りを頼まれていただけで、詳しいことは、聞かされておりません」

 全てを取り仕切っていたのはゴルド一人であり、それより先を知る者は、誰もいなかった。


     *


 リオネルは、これまでの発見を地図と手帳に整理しながら、フィーナに尋ねた。

「あの、逃げる時に使った魔道具だが」


「はい」


「あれほどのものは、簡単に手に入るものなのか」


 フィーナは、少し考えてから、首を振った。

「いいえ。転移の魔道具は、学校でも座学でしか習わないくらい、貴重なものです。あれほどのものは、そう安くは手に入らないはずです」


「では、この一連の、ダンジョンそのものや、モンスターを操るような技術は」


「……それは、聞いたことがありません」

 フィーナは、はっきりと首を振った。

「人工的にダンジョンを作るとか、モンスターを意のままに操るとか、そんな話、学校でも一度も」


     *


 執務室に戻り、リオネルは地図を広げた。

 水路の傾き、豊かさの偏り、被害の集中、入会地の制限――それらすべての先に、ゴブリンの巣があり、ダンジョンがあり、そしてゴルドがいた。

 だが、その最後に残ったのは、答えではなく、さらに大きな疑問だった。

 なぜ、一介の代官に過ぎない男が、これほど高価な魔道具を持ち、誰も知らない技術を扱えたのか。


「代官一人の企みには、大きすぎる」

 リオネルは、地図を丸めながら、低く呟いた。

 誰も、その先に何があるのか、まだ見当がついていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。