↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
27/65

崩し方

 広間は、これまでの階層とは比べものにならないほど広かった。


 ホブゴブリン五体が横一列に広がり、その後方左右に、弓を構えたホブゴブリンが一体ずつ。さらに奥、中央にシャーマンとコマンダーが控えている。


 意図的に距離を取った配置だった。




 リオネルは、その布陣を一目見て、これまでのやり方が通用しないことを悟った。


「……広すぎる」


 フィーナも、同じことに気づいていた。


「これじゃ、閃光も爆発も、一発で全部は巻き込めません」




「散らばってるから、な」


 これまでは、狭い通路や、限られた空間だからこそ、フィーナの一撃で敵全体の動きを止めることができた。だが、この広間では、一方向を潰しても、別の方向から矢が飛んでくる。


「今までみたいに、一度に崩すのは無理だ」


 リオネルは、素早く頭の中で盤面を組み立て直した。




     *




「フィーナ、右側全体を、閃光でよろめかせられるか」


「はい、あっちの一角だけなら」


「カイル、左は任せる。向こうの弓を、先に黙らせてくれ」


「了解です」




 リオネルは自分自身の役割も、即座に決めていた。


「私は左で時間を稼ぐ。マルタ、崩れた右へ突っ込め」


「加護は、もう十分にいただいています」


 マルタが短く答える。すでに全身へ満ちている、速さに寄せた加護の感覚を確かめるように、一度だけ足元を踏みしめた。


 四人それぞれの持ち場が、一瞬で定まった。




     *




 フィーナが、右側一帯を狙って、局所的な閃光を放つ。


「ウガアッ!?」


 右翼のホブゴブリン数体と弓兵が、揃って目を庇い、体勢を崩した。




 その隙を、マルタが逃さなかった。


 速さの加護をまとった体が、これまでとは比べものにならない鋭さで踏み込む。


 よろめく右翼の只中へ、そのまま突っ込んでいった。


 メイスの一撃が、体勢を崩したホブゴブリンを次々と打ち払っていく。




 左側では、カイルが弓を構え、左の弓兵を狙い撃っていた。


「そっちは、行かせません」


 放たれた矢が、左のホブゴブリンの肩を射抜く。致命傷には至らないが、確かに怯ませた。




 カイルはすぐさま視線を右へ移した。


 閃光でまだ混乱の残る右翼の弓兵が、体勢を立て直せずにいる。


「――今のうちに」


 カイルは狙いを変え、右の弓兵へ向けて矢を放った。


 混乱したままの一体は、避けることもできず、肩を射抜かれてよろめいた。


 マルタの突撃を追撃する形になり、右翼の崩れが、さらに深まっていく。




 左では、リオネルが、迫るホブゴブリン数体の攻撃を、一人で受け止めていた。


 速さの加護を纏った動きは、これまでよりも軽く、危なげなく相手の攻撃を捌いていく。


「――このまま、時間を稼ぐ」




 右側が崩れかけているのを見て、コマンダーが、低く咆えた。


「フゴォッ!」


 その声に、左側にいたホブゴブリンの一体が、素早く右へと回り込んでいく。




「――配置を、変えてきたか」


 リオネルは、その動きを見て取り、舌打ちした。


 言葉こそ通じずとも、意図は明確だった。崩れた側へ、即座に増援を回す。単なる数の暴力ではなく、コマンダーは、こちらの狙いを察して、即座に対応してきていた。




 左では、カイルの矢を受けたホブゴブリンが、傷を負ったまま後退しかけていた。


 だが、シャーマンの杖が、すぐさまその傷を癒していく。




「またか」


 カイルが顔をしかめる。


「フィーナ、あのシャーマン、なんとかならないか」




「やってみます」


 フィーナは、右側への閃光の余力を残しつつ、意識をシャーマンへ向けた。




「火よ、あの杖の周りだけ、揺らして」


 小さな熱の揺らめきが、シャーマンの視界と集中を乱す。杖を掲げる動きが、わずかに遅れた。


 その一瞬の遅れが、癒しの発動を、確実に一拍遅らせていた。




 右翼の混乱が、少しずつ収まり始めていた。数を減らしながらも、態勢を立て直そうとするホブゴブリンたちの動きが、目に見えて鈍い。


「カイル、そっちはもういい。剣に変えて、マルタの援護に回れ」




「了解です!」


 カイルは弓を背に回し、短剣を抜くと、右翼で戦うマルタの側面へと駆け寄っていった。


 二人がかりになったことで、右翼の崩れは、もう誰の目にも明らかだった。




 左を一人で支えることになったリオネルへ、フィーナが目を向ける。


「こっちも、援護します」


 風に頼み、リオネルへ迫る敵の足元を、わずかに乱す。


 土にも声をかけ、踏み込みの勢いを削ぐ、小さな嫌がらせを重ねていった。


 完全に止められるわけではない。だが、リオネルが凌ぐには、十分な助けだった。




 右でカイルとマルタが押し込み、左でフィーナがリオネルを支える。


 崩れた均衡は、もう元には戻らなかった。


「――いたちごっこじゃない」


 リオネルは、正面のホブゴブリンを退けながら、口元に力を込めた。


「押せてる」


 広間の均衡は、確かに、こちらへ傾き続けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。