二層階層主
通路の先、視界が大きく開けた。
広間の奥に、これまでとは異なる気配が集まっていた。
中央に立つ一体は、杖のようなものを手にし、身にまとった装飾も他とは違う。ゴブリンシャーマンだろう。
その左右には、弓を構えたホブゴブリンが二体。さらにその周囲を、十体ほどの雑魚ゴブリンが固めていた。
「……数も質も、これまでとは違いますね」
カイルが低く言う。
リオネルは、広間全体を見渡しながら、地図に手早く配置を書き込んだ。
*
物陰に身を寄せ、四人は最後の作戦を練った。
マルタが、静かに目を閉じ、加護の呪を唱える。
いつもより長く、深く、力を込めているのが分かった。
「以前より、強く込められる気がします」
リオネル、カイル、自分自身へと、これまでで最も濃い加護が満ちていく。
フィーナも、両手を合わせて集中する。
「閃光と、音。両方、いきます」
「頼む」
*
合図とともに、フィーナの手から光と轟音が同時に弾けた。
広間全体が、目も眩む光と、耳をつんざく音に包まれる。
ゴブリンたちが、悲鳴を上げて頭を抱えた。
その直後、フィーナはすぐさま風をカイルの弓へ纏わせた。
「弓、行けます!」
「今です!」
カイルの矢が、まず弓を構えたホブゴブリン二体へ、迷わず放たれた。
風を纏った矢は、いつもより鋭く、狙い違わず二体の体を貫いた。
「――怯んだだけか」
致命傷には至らず、二体は苦痛の声を上げながらも、その場に踏みとどまっている。
カイルはすぐさま次の矢をつがえ、混乱する雑魚ゴブリンたちを、次々と射抜いていく。
*
その隙に、マルタとリオネルが真っ先に広間へ躍り込んだ。
マルタのメイスが一体を打ち倒し、リオネルの剣が二体目の脇を薙ぐ。
まだ混乱から抜け切らないゴブリンたちは、まともな反撃もできないまま、次々と数を減らされていった。
矢を射切ったカイルも、短剣を抜いて乱戦に加わる。
フィーナは壁際から、火に力を借りた。
「一体ずつ、抑えます」
小さな火の玉が、雑魚ゴブリンの一体へと飛び、その体を炙る。悲鳴を上げて怯んだところへ、リオネルの剣が止めを刺した。
まとめて焼き払うほどの規模ではない。だが、一体ずつ、確実に隙を作ることはできた。
乱戦の中、雑魚ゴブリンの数が半分近くまで減った頃だった。
深手を負い、一度は後方へ下がっていたホブゴブリン二体が、再び弓を構え直していた。
その体には、先ほどまでの傷が、見当たらない。
「――治ってる?」
カイルが目を見開く。
ゴブリンシャーマンが、杖を掲げ、低い呪文を唱えていた。
その声に合わせて、ホブゴブリンたちの傷が、見る間に塞がっていく。
「弓、また使われますね」
カイルが舌打ちする。
傷を癒したホブゴブリン二体が、再び矢をつがえ、こちらへ狙いを定めた頃、シャーマンの杖の先も、こちらへ向けられた。
放たれたのは、矢ではなく、鋭く尖った風の刃だった。
狙いは、壁際で火を操っていたフィーナだった。
「危ない!」
カイルの声より早く、フィーナ自身が反応した。
「風よ、逸らして!」
迫る刃が、直前で軌道を逸れ、壁に突き刺さる。
「……助かった」
フィーナは息を整えながら、油断なく杖の方角を睨んだ。
乱戦がなおも続く中、三人は目の前に立ちはだかる雑魚ゴブリンを、一体、また一体と打ち払っていった。
力任せではない、加護に支えられた確かな一撃が、次々と道を切り開いていく。ゴブリンが減ってくる中、リオネルの指示が飛んだ。
「カイル。マルタを後衛まで通す。俺とお前で道を開けるぞ」」
「承知!」
その掛け声と同時に二人はマルタの左右に立ち、ゴブリンと切り結んだ。
二人が左右のゴブリンを押し退け、前線に一瞬だけ隙間が開いた。
「――行きます」
マルタは低く呟き、前線を突破するように、シャーマンとホブゴブリン二体の元へと、まっすぐ踏み込んでいった。
弓を構え直したホブゴブリンの一体が、慌てて矢を放つが、マルタはそれを最小限の動きで避け、間合いを詰める。
メイスの一撃が、弓ごとその体を打ち払った。
もう一体が矢を番える間もなく、返す一撃で沈黙させる。
二体を退けたマルタの前に、残るはゴブリンシャーマンだけだった。
「――もう、治す暇は与えません」
杖を構え直す間もなく、マルタのメイスが振り下ろされる。
一撃で、シャーマンはその場に崩れ落ちた。
シャーマンを失ったゴブリンたちは、たちまち統制を欠き、残るリオネル、カイル、フィーナの手によって、瞬く間に掃討されていった。
広間に、静けさが戻る。
「……終わりましたね」
カイルが、肩で息をつきながら、周囲を見渡した。
リオネルは剣を鞘に収め、広間の奥へと目を向けた。
地図には、また新しい印が加わっていく。
一階層の主を超える相手を、四人は乗り越えていた。
「この先に、まだ続きがある」
リオネルは、松明を握り直しながら、静かに呟いた。




