一階層の主
まっすぐの通路を進んでいくと、やがて視界が開けた。
広い中部屋に、無数の気配がひしめいている。
松明の灯りを絞り、物陰からそっと様子を窺うと、そこには十以上のゴブリンが群れていた。
その中心に、ひときわ体格の大きい一匹がいる。
棍棒のような武器を手に、他のゴブリンたちへ何事か唸り声を上げている様は、明らかに他とは違う立場だった。
「ホブゴブリン、ですかね」
カイルが小声で言う。
「あれが、他のを従えてるみたいです」
リオネルは、部屋の中の数をざっと数えた。
「十五は、いる」
これまで相手にしてきた数とは、桁が違った。
「さすがに、正面からじゃ、厳しいですよね」
カイルが顔をしかめる。
リオネルは三人を見回した。
「何か、使えないか」
*
しばらく考えていたフィーナが、遠慮がちに口を開いた。
「火に、頼んでみてもいいですか」
「火を?」
「音を、出してもらうんです。大きな、破裂するような音を。それに、光も一緒に」
フィーナは、自分の思いつきを確かめるように、慎重に言葉を続けた。
「耳と目を、一瞬でも潰せれば……その隙に」
リオネルは少し考え、頷いた。
「やってみてくれ」
*
フィーナが、部屋の入り口近くの壁に手を当て、火に語りかける。
しばらくして、部屋の隅で、何かが弾けるような轟音と共に、目も眩むような閃光が走った。
「ぐ、があっ!」
ゴブリンたちが、揃って悲鳴を上げ、耳を塞ぎ、目を庇う。
ホブゴブリンでさえ、一瞬、大きく体を仰け反らせた。
「今です!」
リオネルの声とともに、四人は一気に部屋へ踏み込んだ。
*
フィーナも、迷わず部屋の中へ足を踏み入れ、壁際に身を寄せた。
背後を気にせず戦うために、四人全員が室内に収まる。
マルタが真っ先に前へ出て、盾のように立ちはだかった。
「ここは、私が」
メイスを構え、怯んだゴブリンたちを真正面から受け止める。
リオネルはマルタの側面につき、討ち漏らした一体を斬り伏せながら、あくまで補助に徹した。
カイルは壁際のフィーナのそばで弓を構え、後方から次々と矢を放っていく。
だが、閃光の混乱から立ち直り始めたゴブリンたちが、じりじりと数を頼みに間合いを詰めてくる。矢だけでは、捌ききれない密度になってきていた。
「――こりゃ、離れて撃ってる場合じゃないですね」
カイルは弓を下ろし、腰の短剣を抜くと、マルタの反対側へと回り込んだ。
「フィーナ、援護頼む!」
「はい!」
フィーナは壁際に留まったまま、正気を取り戻しつつあるゴブリンの足元へ意識を向ける。
「土よ、力を貸してください」
地面がわずかに隆起し、あるいは急に緩んで、体勢を立て直そうとしていたゴブリンたちの足を次々とすくった。
体勢を崩したところへ、マルタのメイスと、カイルの短剣が容赦なく打ち込まれていく。
三人が前で敵を押し留め、フィーナが足元を乱し続ける――四人それぞれの持ち場が、噛み合っていった。
*
閃光の混乱がまだ残るうちに、数を大きく減らすことができた。
だが、ホブゴブリンだけは、いち早く体勢を立て直していた。
棍棒を振り上げ、まっすぐマルタへと突進してくる。
「来る!」
カイルの声に、マルタはメイスを構え直し、真正面からその一撃を受け止めた。
衝撃に足が僅かに沈み込むが、崩れはしなかった。
「加護、まだ効いています」
マルタは短く言うと、体勢を立て直し、二撃、三撃と、棍棒の連撃を受け流していく。
リオネルは、その側面から、ホブゴブリンの膝裏を狙って斬りつけた。
「――ぐるっ!?」
バランスを崩したホブゴブリンの隙を、マルタは見逃さなかった。
メイスが唸りを上げ、頭部へ叩き込まれる。
一撃で、ホブゴブリンはその場に崩れ落ちた。
*
残るゴブリンたちも、統率者を失い、統制を欠いた動きになっていた。
カイルの短剣、マルタのメイス、リオネルの剣が、それぞれ的確に敵を減らしていき、やがて部屋は静寂に包まれた。
*
肩で息をつきながら、カイルが部屋を見渡す。
「……終わりましたね」
「ああ」
リオネルは剣を鞘に収め、部屋の奥へと目をやった。
中部屋の先には、さらに続く通路が見えていた。
「一階層、と言っていたな。ここが、そうなのかもしれない」
地図を取り出し、これまでの発見を書き加えていく。
見せかけの通路、隠された倉庫、そしてこの中部屋。
一階層の全貌が、少しずつ形を成していた。
「次は、下だ」
リオネルは、奥へと続く通路を見据えながら、静かに呟いた。




