倉庫突入
扉の前で、四人は身を寄せ合った。
覗き込めば、気づかれる恐れがある。カイルとマルタは、扉に耳を近づけ、中の気配を探ることに専念した。
しばらく、二人とも動かなかった。
やがて、カイルが小声で口を開いた。
「物音は……三、四人分ですね。話し声も混じってます」
マルタも、静かに頷いた。
「私が感じる気配も、同じくらいです。四か、五人」
「少人数、か」
リオネルは低く呟き、三人の顔を見回した。
「なら、不意を打つ。フィーナ、もう一度、頼めるか」
「はい」
フィーナが小さく頷く。前回、隠し部屋の乱戦で使った、あの光の応用だった。
「扉を開けた瞬間に、私が光を放ちます。その隙に、三人で」
「ああ。一気に決める」
カイル、マルタが、それぞれ武器を握り直した。
*
リオネルが扉に手をかけ、目配せをする。
全員が頷いたのを確認すると、勢いよく扉を開け放った。
同時に、フィーナの掌から、光が弾ける。
薄暗い部屋の中に、真昼のような閃光が走った。
「な――!」
中にいた男たちが、揃って顔を歪め、目を庇う。
その隙を、リオネル、カイル、マルタが逃さなかった。
剣が、短剣が、メイスが、次々と閃く。
悲鳴を上げる間もなく、見張りたちは次々と地に沈んでいった。
*
最後の一人だけを残し、フィーナがすぐさま駆け寄り、ツタで拘束する。
「これで、全員です」
部屋の中を、松明の灯りで照らし出す。
棚には、見慣れない茸が幾重にも吊るされ、乾燥させられていた。栽培拠点で見たものと、同じ品だった。
「ここは、貯蔵庫か」
リオネルは棚を眺めながら呟いた。
「乾燥させて、保存していたようだな」
*
拘束された男に、リオネルは短く問うた。
「ゴルドは、どこだ」
男は口を噤んだまま、答えなかった。
だが、その視線には、他の見張りたちとは違う、値踏みするような冷静さがあった。単なる下っ端ではない。
「お前、他の連中とは違うな」
「……さあ、な」
男は初めて口を開いたが、はぐらかすような口調だった。
「あの男なら、ここにはいねえよ。俺の受け持ちじゃない」
「では、どこにいる」
「別の階層の話だ。俺には関係ねえ」
それ以上は、何を聞いても、はっきりとは答えなかった。
「別の、階層」
リオネルはその言葉を、地図の余白に書き留めた。
この洞窟は、ただ横に広がっているだけではないのかもしれない。
もっと下へ、もっと奥へ――縦にも続いている可能性が、初めて言葉として出てきた。
部屋のさらに奥にも、通路が続いているのが見えた。
だが、カイルが床を検分すると、そこには足跡が一切残っていなかった。
「こっちは、誰も通ってないみたいですね」
「この部屋自体が、たまたまここに置かれていただけ、ということか」
リオネルは、迷宮全体の広がりを思い、小さく息を吐いた。
貯蔵庫としては役目を果たしていても、この場所自体は、迷宮の本筋の通り道ではなかったらしい。
*
男には、これまでよりも強い拘束魔法をかけ、その場に残していくことにした。
「動けば、もっときつく締まる」
フィーナがそう告げると、男は忌々しげに舌打ちしただけだった。
*
四人は貯蔵庫を後にし、来た道を戻った。
分岐点に戻ると、リオネルは地図を広げ、最初に見せかけだと判断した、まっすぐの通路を見据えた。
「今度は、あちらだ」
「見せかけかと思ってましたけど……あっちにも、何かあるってことですね」
カイルが、ゴブリンの飛び出してきた通路を見やりながら言った。
「別の階層があるなら、そこへ通じる道があってもおかしくない」
リオネルは頷き、松明を握り直した。
四人は、まだ足を踏み入れていない、もう一つの通路へと、改めて足を向けた。




