灰
拘束した五人を前に、リオネルはまずその場で、手早く尋問を始めた。
栽培に従事していた村人の一人が、まっさきに口を開いた。ゴルド側の村の中でも、比較的裕福な家の出だという。
「……金です。それだけですよ」
悪びれる様子もなく、男は肩をすくめた。
「ゴルド様に頼まれて、育ててただけです。何を育ててるかは、もちろん知ってました。あれを吸うと、酩酊するっていう、あの禁忌の品だってことも」
「知った上で、育てていたのか」
リオネルが問うと、男は開き直ったように顔を上げた。
「他の村の連中に比べりゃ、うちらはずっと稼がせてもらってましたからね。多少の危ない橋くらい、渡りますよ」
弁解らしい言葉は、それ以上出てこなかった。
*
収穫した品の行方を尋ねると、男は少し言い淀んだ。
「……あの、ゴブリンの巣の近くに、運び込んでるはずです」
「なぜ、あんな場所に」
「そこまでは、俺も知りません。ゴルド様が、あそこなら平気だと、いつもそう仰ってたので」
理由までは、この男も知らないらしかった。
リオネルは手帳に書き込みながら、その空白を、あえてそのまま残した。
「戻るぞ。四人がかりで連れていく」
見張り四人、栽培に従事していた村人数名。とても一人二人で御しきれる人数ではなかった。
カイル、フィーナ、マルタ、リオネル、それぞれが目を光らせながら、一団を連れて村への道を戻り始めた。
*
入会地の裁定の際に証言を誘導していた有力者の一人にも、道すがら短く問いただした。震える声で、男は答えた。
「他の村の者たちには、本当に、何も知らせておりませんでした。……ただ、あまり山の奥のことを、詮索しないよう、それとなく言い含めてはおりました」
「詮索するな、と」
「はい……表沙汰にすれば、ろくなことにならない、と。それだけです」
これまで見てきた一般の村人たちの怯えが、ようやく形を持って裏付けられた。
彼らは、何が起きているかまでは知らなかった。だが、何か良くないことが起きている、という空気だけは、確かに感じ取っていたのだ。
*
村へ辿り着くと、リオネルは三人を振り返った。
「私は、このまま館へ向かう。ゴルドを、これ以上放っておけない」
「一人でですか」
カイルが片眉を上げる。
「領主の逮捕は、領主が自ら手を下すべきだ。三人は、ここに残って、身柄と話の続きを頼む」
村長格の男には、任せられない。今回の一件、その男自身が証言の誘導に加担していた側だった。
「村長には頼れませんね」
カイルが察したように言う。
「ああ。だから、お前たち三人で見ていてくれ」
「分かりました。夜通しにでもなりますけど、何とかします」
カイルが軽く請け合い、フィーナとマルタも頷いた。
リオネルは頷き返し、馬に乗ると、単身、館への道を急いだ。
*
辿り着いた頃には、すでに夜になっていた。
出迎えた家人の顔が、ひどく強張っていた。
「ゴルド様は……半刻ほど前に、屋敷を出られたきり……」
私室に踏み込むと、書棚は半ば空になり、暖炉には燃え残った紙の灰が、白く積もっていた。
灯りを近づけ、灰をかき分けてみたが、判読できるものは何一つ残っていなかった。
帳簿も、記録も、証拠になりそうなものは、すべて焼かれていた。
*
執務室に一人、リオネルは地図を広げた。
水路の傾き。豊かさの偏り。モンスター被害の集中。入会地の、根拠のない立ち入り制限。
その一つ一つに、ようやく答えが埋まっていく。
すべては、ゴルドが私腹を肥やすための、一連の企みだった。
水路を操作し、収穫を偏らせ、被害から目を逸らさせ、山への立ち入りを封じる。金のために、これほど手の込んだ仕組みを、何年もかけて作り上げていた。
地図の上、四つの偏りが、ようやく一つの線として繋がった。
だが、最後の一点だけが、まだ埋まらないままだった。
「なぜ、ゴブリンの巣の近くに隠せる」
リオネルは呟いた。
モンスターが徘徊する危険地帯のはずの場所に、なぜ人が安全に出入りできるのか。
その答えだけが、灰と共に、まだ闇の中にあった。
地図を丸め、リオネルは椅子に深くもたれた。
ゴルドがどこへ逃げたのか、それすら、今はまだ分からない。
*
翌朝、リオネルは館の従者から五名を選び、武装させた。
ゴルド側の村での裁きとなれば、動揺や反発が起きてもおかしくない。村人を御するには、それなりの備えが要る。
五名を連れ、リオネルは再び村へと馬を走らせた。
村に着くと、徹夜で見張りと聞き取りを続けていたカイル、フィーナ、マルタが出迎えた。三人とも、さすがに疲れの色を隠せずにいたが、身柄は大過なく保たれていた。
「禁忌の品を直接扱っていたのは、ここに挙げた面々です」
カイルが名簿を差し出す。
「それ以外の、有力者絡みの証言誘導とかは、別枠で分けてまとめました」
リオネルはその名簿に目を通し、頷いた。
「よくやってくれた。品を扱っていた者は、それだけの重さで裁く。証言を誘導していただけの者とは、分けて扱う」
連れてきた従者たちを広場の周囲に立たせ、村人たちを集める。
物々しい気配に、村中が静まり返った。
「禁忌の品を育て、運んでいた者たちについては、追って厳正な沙汰を下す。証言の誘導、事実の隠蔽に関わった者たちについても、相応の処分を申し渡す。だが、その重さは同じではない」
直接手を汚した者と、口を噤んでいただけの者。二つの罪を、リオネルは同じ天秤には乗せなかった。
村人たちの間に、安堵と緊張の入り混じった空気が流れた。
*
裁きを終え、リオネルは地図を取り出した。
水路の傾き。豊かさの偏り。モンスター被害の集中。入会地の、根拠のない立ち入り制限。灰になった証拠。
すべてが、一つの線として繋がった。
だが、最後の一点――なぜゴブリンの巣の近くに、人が安全に出入りできるのか――だけは、まだ空白のままだった。
「巣は逃げない。だが、ゴルドは逃げた」
リオネルは地図を丸めながら、呟いた。
この事件が、自分の将来を大きく揺るがす出来事になるとは、この時のリオネルは、まだ気づいていなかった。




