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18/62

灰

拘束した五人を前に、リオネルはまずその場で、手早く尋問を始めた。

栽培に従事していた村人の一人が、まっさきに口を開いた。ゴルド側の村の中でも、比較的裕福な家の出だという。

「……金です。それだけですよ」

悪びれる様子もなく、男は肩をすくめた。

「ゴルド様に頼まれて、育ててただけです。何を育ててるかは、もちろん知ってました。あれを吸うと、酩酊するっていう、あの禁忌の品だってことも」


「知った上で、育てていたのか」

リオネルが問うと、男は開き直ったように顔を上げた。

「他の村の連中に比べりゃ、うちらはずっと稼がせてもらってましたからね。多少の危ない橋くらい、渡りますよ」

弁解らしい言葉は、それ以上出てこなかった。


*


収穫した品の行方を尋ねると、男は少し言い淀んだ。

「……あの、ゴブリンの巣の近くに、運び込んでるはずです」

「なぜ、あんな場所に」

「そこまでは、俺も知りません。ゴルド様が、あそこなら平気だと、いつもそう仰ってたので」

理由までは、この男も知らないらしかった。

リオネルは手帳に書き込みながら、その空白を、あえてそのまま残した。

「戻るぞ。四人がかりで連れていく」

見張り四人、栽培に従事していた村人数名。とても一人二人で御しきれる人数ではなかった。

カイル、フィーナ、マルタ、リオネル、それぞれが目を光らせながら、一団を連れて村への道を戻り始めた。


*


入会地の裁定の際に証言を誘導していた有力者の一人にも、道すがら短く問いただした。震える声で、男は答えた。

「他の村の者たちには、本当に、何も知らせておりませんでした。……ただ、あまり山の奥のことを、詮索しないよう、それとなく言い含めてはおりました」

「詮索するな、と」

「はい……表沙汰にすれば、ろくなことにならない、と。それだけです」

これまで見てきた一般の村人たちの怯えが、ようやく形を持って裏付けられた。

彼らは、何が起きているかまでは知らなかった。だが、何か良くないことが起きている、という空気だけは、確かに感じ取っていたのだ。


*


村へ辿り着くと、リオネルは三人を振り返った。

「私は、このまま館へ向かう。ゴルドを、これ以上放っておけない」

「一人でですか」

カイルが片眉を上げる。

「領主の逮捕は、領主が自ら手を下すべきだ。三人は、ここに残って、身柄と話の続きを頼む」

村長格の男には、任せられない。今回の一件、その男自身が証言の誘導に加担していた側だった。


「村長には頼れませんね」

カイルが察したように言う。

「ああ。だから、お前たち三人で見ていてくれ」

「分かりました。夜通しにでもなりますけど、何とかします」

カイルが軽く請け合い、フィーナとマルタも頷いた。

リオネルは頷き返し、馬に乗ると、単身、館への道を急いだ。


*


辿り着いた頃には、すでに夜になっていた。

出迎えた家人の顔が、ひどく強張っていた。

「ゴルド様は……半刻ほど前に、屋敷を出られたきり……」

私室に踏み込むと、書棚は半ば空になり、暖炉には燃え残った紙の灰が、白く積もっていた。

灯りを近づけ、灰をかき分けてみたが、判読できるものは何一つ残っていなかった。

帳簿も、記録も、証拠になりそうなものは、すべて焼かれていた。


*


執務室に一人、リオネルは地図を広げた。

水路の傾き。豊かさの偏り。モンスター被害の集中。入会地の、根拠のない立ち入り制限。

その一つ一つに、ようやく答えが埋まっていく。

すべては、ゴルドが私腹を肥やすための、一連の企みだった。

水路を操作し、収穫を偏らせ、被害から目を逸らさせ、山への立ち入りを封じる。金のために、これほど手の込んだ仕組みを、何年もかけて作り上げていた。

地図の上、四つの偏りが、ようやく一つの線として繋がった。


だが、最後の一点だけが、まだ埋まらないままだった。

「なぜ、ゴブリンの巣の近くに隠せる」

リオネルは呟いた。

モンスターが徘徊する危険地帯のはずの場所に、なぜ人が安全に出入りできるのか。

その答えだけが、灰と共に、まだ闇の中にあった。

地図を丸め、リオネルは椅子に深くもたれた。

ゴルドがどこへ逃げたのか、それすら、今はまだ分からない。


*


翌朝、リオネルは館の従者から五名を選び、武装させた。

ゴルド側の村での裁きとなれば、動揺や反発が起きてもおかしくない。村人を御するには、それなりの備えが要る。

五名を連れ、リオネルは再び村へと馬を走らせた。

村に着くと、徹夜で見張りと聞き取りを続けていたカイル、フィーナ、マルタが出迎えた。三人とも、さすがに疲れの色を隠せずにいたが、身柄は大過なく保たれていた。


「禁忌の品を直接扱っていたのは、ここに挙げた面々です」

カイルが名簿を差し出す。

「それ以外の、有力者絡みの証言誘導とかは、別枠で分けてまとめました」

リオネルはその名簿に目を通し、頷いた。

「よくやってくれた。品を扱っていた者は、それだけの重さで裁く。証言を誘導していただけの者とは、分けて扱う」

連れてきた従者たちを広場の周囲に立たせ、村人たちを集める。

物々しい気配に、村中が静まり返った。


「禁忌の品を育て、運んでいた者たちについては、追って厳正な沙汰を下す。証言の誘導、事実の隠蔽に関わった者たちについても、相応の処分を申し渡す。だが、その重さは同じではない」

直接手を汚した者と、口を噤んでいただけの者。二つの罪を、リオネルは同じ天秤には乗せなかった。

村人たちの間に、安堵と緊張の入り混じった空気が流れた。


*


裁きを終え、リオネルは地図を取り出した。

水路の傾き。豊かさの偏り。モンスター被害の集中。入会地の、根拠のない立ち入り制限。灰になった証拠。

すべてが、一つの線として繋がった。

だが、最後の一点――なぜゴブリンの巣の近くに、人が安全に出入りできるのか――だけは、まだ空白のままだった。

「巣は逃げない。だが、ゴルドは逃げた」

リオネルは地図を丸めながら、呟いた。

この事件が、自分の将来を大きく揺るがす出来事になるとは、この時のリオネルは、まだ気づいていなかった。

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