茸栽培所
翌日、マルタが感じ取った人の気配を頼りに、四人は入会地の奥、まだ足を踏み入れたことのない一帯へと分け入った。
木々が密生し、日差しはほとんど届かない。昼だというのに、あたりは薄暗かった。
半刻ほど進んだところで、カイルが足を止めた。
「……小道だ」
獣道とは明らかに違う、踏み固められた細い道が、木々の間を縫うように続いている。
辿っていくと、やがて開けた場所に出た。
小屋が一棟。周囲には、見慣れない茸が整然と並べられ、村人らしき男女が数人、黙々と作業をしている。
その少し離れた場所に、四人の男が立っていた。
武装も、佇まいも、作業をしている村人たちとは明らかに違う。腰の据わった構え、周囲への警戒の配り方――場慣れした者の気配だった。
*
マルタが小さく息を吸い、四人の男へ視線を向けたまま、声を潜めて唱えを口にした。
リオネル、カイル、そして自分自身へ、静かに加護が満ちていく。
「話が通じる相手には、見えません」
マルタが囁いた。
「念のため、かけておきました」
「助かる」
リオネルは短く答え、木陰から一歩、前へ出た。
「そこで何をしている」
声をかけた瞬間、四人の反応は速かった。
言葉を返すより先に、うち三人が剣を抜き、迷いなく斬りかかってくる。
同時に、残る一人が懐から石のようなものを取り出し、短く唱えた。
――あれは、通信の魔道具。
フィーナの頭に、学校で習った知識が瞬時によぎった。
「――魔道具!」
叫んだ時には、既に発動は終わっていた。
連絡用の魔道具。難しい詠唱も、長い準備もいらない、それだけに、止める間などなかった。
「これ以上はさせません」
フィーナは唇を噛み、素早く手をかざす。
地面から伸びたツタが、魔道具を使った男の脚に絡みつき、そのまま地に引き倒した。
残る三人が、まっすぐリオネルたちへ突っ込んでくる。
*
マルタの加護を受けたリオネルの剣が、思った以上に鋭く相手の刃を受け止めた。
カイルも短剣を抜き、もう一人と切り結んでいる。
マルタ自身もメイスを構え、加護の余力を保ちながら、リオネルの側面を守っていた。
だが、相手も素人ではない。三対三、拮抗したまま、押し切れる気配はなかった。
「フィーナ、どうにかできないか!」
カイルが叫ぶ。
拘束を終えたフィーナは、乱戦の輪の外から、あたりを見回した。
木々に囲まれ、日の光もろくに届かない、薄暗い場所だった。
光に灯りを借りて、道を照らす。それは探索でもよく使う、慣れた技術だった。
――古代語魔法にも、たしか、似たようなものがあった。
探索のための光魔法と、敵の目を眩ませるための閃光魔法。学校の座学で習った、まったく別の二つの術。
同じ光を、使い方一つで変えているだけなら。
自然の光に力を借りたらできるかもしれない。
フィーナは自分たちの背後、敵から見て逆側の空間に意識を向け、いつもより多くの光を、一息に集めた。
「今です!」
声を張り上げると同時に、掌の先で光が一気に弾けた。
リオネルたちの背後から、薄暗い森を切り裂くように、真昼のような閃光が走る。
光を正面から浴びた敵の三人が、揃って顔を歪め、動きが止まった。
光を背にしていたリオネルたちには、目を閉じる必要すらなかった。
その隙を、逃す者はいなかった。
リオネルの剣が一人の得物を弾き飛ばし、カイルが素早く踏み込んで峰打ちで沈黙させ、マルタのメイスが最後の一人を打ち倒した。
*
制圧を終え、リオネルは肩で息をつきながら、フィーナを振り返った。
「今のは」
「古代語魔法だと、探索用の光と、目眩ましの光と、別々にあるんです。実技は苦手でしたけど、そこだけは、なぜか覚えてて」
フィーナは息を整えながら、少し照れたように言った。
「同じ理屈が自然に力を借りる魔法でも使えるかもって、咄嗟に」
「役に立ったな、その座学とやらが」
リオネルは短く頷いた。
フィーナは、初めて褒められた実技以外の何かに、少しだけ誇らしげな顔をした。
*
地面に転がった四人を確認する。
三人はただの見張り、腕は立つが、それ以上の情報は持っていないだろう。
だが、最初に魔道具を使った一人だけは、他の三人と少し様子が違った。
縛られながらも、リオネルたちを睨みつける目に、怯えより苛立ちが色濃く滲んでいる。
「連絡は、もう届いたな」
リオネルが低く言うと、男は答えなかった。
答えなかったこと自体が、答えだった。
フィーナが小さく告げる。
「はい……あれは、間違いなく通信用でした。どこか遠くへ、もう届いてるはずです」
どこへ、誰に――それは、まだ分からない。
リオネルは地図を取り出し、その場で書き加えた。
「見張り四名確保。うち一名、連絡済み。宛先不明」
*
小屋の方を振り返る。
作業をしていた村人たちは、既にカイルとマルタによって取り押さえられ、大人しく両手を上げていた。何が起きているのか、まだよく分かっていないような顔つきだった。
これから、彼らの証言を聞かなければならない。
地図を丸めながら、リオネルは小さく息を吐いた。




