↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
17/62

茸栽培所

翌日、マルタが感じ取った人の気配を頼りに、四人は入会地の奥、まだ足を踏み入れたことのない一帯へと分け入った。

木々が密生し、日差しはほとんど届かない。昼だというのに、あたりは薄暗かった。


半刻ほど進んだところで、カイルが足を止めた。

「……小道だ」

獣道とは明らかに違う、踏み固められた細い道が、木々の間を縫うように続いている。

辿っていくと、やがて開けた場所に出た。


小屋が一棟。周囲には、見慣れない茸が整然と並べられ、村人らしき男女が数人、黙々と作業をしている。

その少し離れた場所に、四人の男が立っていた。

武装も、佇まいも、作業をしている村人たちとは明らかに違う。腰の据わった構え、周囲への警戒の配り方――場慣れした者の気配だった。


*


マルタが小さく息を吸い、四人の男へ視線を向けたまま、声を潜めて唱えを口にした。

リオネル、カイル、そして自分自身へ、静かに加護が満ちていく。

「話が通じる相手には、見えません」

マルタが囁いた。

「念のため、かけておきました」


「助かる」

リオネルは短く答え、木陰から一歩、前へ出た。

「そこで何をしている」


声をかけた瞬間、四人の反応は速かった。

言葉を返すより先に、うち三人が剣を抜き、迷いなく斬りかかってくる。

同時に、残る一人が懐から石のようなものを取り出し、短く唱えた。


――あれは、通信の魔道具。

フィーナの頭に、学校で習った知識が瞬時によぎった。

「――魔道具!」

叫んだ時には、既に発動は終わっていた。

連絡用の魔道具。難しい詠唱も、長い準備もいらない、それだけに、止める間などなかった。


「これ以上はさせません」

フィーナは唇を噛み、素早く手をかざす。

地面から伸びたツタが、魔道具を使った男の脚に絡みつき、そのまま地に引き倒した。

残る三人が、まっすぐリオネルたちへ突っ込んでくる。


*


マルタの加護を受けたリオネルの剣が、思った以上に鋭く相手の刃を受け止めた。

カイルも短剣を抜き、もう一人と切り結んでいる。

マルタ自身もメイスを構え、加護の余力を保ちながら、リオネルの側面を守っていた。


だが、相手も素人ではない。三対三、拮抗したまま、押し切れる気配はなかった。

「フィーナ、どうにかできないか!」

カイルが叫ぶ。


拘束を終えたフィーナは、乱戦の輪の外から、あたりを見回した。

木々に囲まれ、日の光もろくに届かない、薄暗い場所だった。

光に灯りを借りて、道を照らす。それは探索でもよく使う、慣れた技術だった。

――古代語魔法にも、たしか、似たようなものがあった。

探索のための光魔法と、敵の目を眩ませるための閃光魔法。学校の座学で習った、まったく別の二つの術。

同じ光を、使い方一つで変えているだけなら。

自然の光に力を借りたらできるかもしれない。


フィーナは自分たちの背後、敵から見て逆側の空間に意識を向け、いつもより多くの光を、一息に集めた。

「今です!」

声を張り上げると同時に、掌の先で光が一気に弾けた。


リオネルたちの背後から、薄暗い森を切り裂くように、真昼のような閃光が走る。

光を正面から浴びた敵の三人が、揃って顔を歪め、動きが止まった。

光を背にしていたリオネルたちには、目を閉じる必要すらなかった。


その隙を、逃す者はいなかった。

リオネルの剣が一人の得物を弾き飛ばし、カイルが素早く踏み込んで峰打ちで沈黙させ、マルタのメイスが最後の一人を打ち倒した。


*


制圧を終え、リオネルは肩で息をつきながら、フィーナを振り返った。

「今のは」

「古代語魔法だと、探索用の光と、目眩ましの光と、別々にあるんです。実技は苦手でしたけど、そこだけは、なぜか覚えてて」

フィーナは息を整えながら、少し照れたように言った。

「同じ理屈が自然に力を借りる魔法でも使えるかもって、咄嗟に」


「役に立ったな、その座学とやらが」

リオネルは短く頷いた。

フィーナは、初めて褒められた実技以外の何かに、少しだけ誇らしげな顔をした。


*


地面に転がった四人を確認する。

三人はただの見張り、腕は立つが、それ以上の情報は持っていないだろう。


だが、最初に魔道具を使った一人だけは、他の三人と少し様子が違った。

縛られながらも、リオネルたちを睨みつける目に、怯えより苛立ちが色濃く滲んでいる。

「連絡は、もう届いたな」

リオネルが低く言うと、男は答えなかった。

答えなかったこと自体が、答えだった。


フィーナが小さく告げる。

「はい……あれは、間違いなく通信用でした。どこか遠くへ、もう届いてるはずです」

どこへ、誰に――それは、まだ分からない。

リオネルは地図を取り出し、その場で書き加えた。

「見張り四名確保。うち一名、連絡済み。宛先不明」


*


小屋の方を振り返る。

作業をしていた村人たちは、既にカイルとマルタによって取り押さえられ、大人しく両手を上げていた。何が起きているのか、まだよく分かっていないような顔つきだった。

これから、彼らの証言を聞かなければならない。

地図を丸めながら、リオネルは小さく息を吐いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。