将来の道
その夜、レイがリンの部屋に来た。
「リン、入ってもいい?」
「どうぞ」
ソファで本を読んでいたリンはレイを迎える。
「話があるんだ」
レイはリンの隣に腰掛ける。
「リン、君にはヒーラーとしての素質がある」
ヒーラーは回復魔法を使う者を言う。大体が修道士など、教会に祈りを捧げている者達が使う魔法である。
「私の呪いが解けた事に、リンは深く関係していると考えている。そもそも怪我で倒れていた私を癒したのは君だし、回復魔法は使えるんだよね?」
レイが確認する。
「うん。怪我を治すのは得意」
「わかった。明日から少し魔法を教えてもいいかな? その力をしっかり使えれば、将来役にたつと思うよ」
私の将来、望まない結婚しか道がなかったリンにもう一つ道が見えた。
リンはレイに感謝した。
「……レイありがとう」
少し涙ぐむリン。
「それなら良かった。じゃあそろそろ寝ようか」
レイは微笑む。
「え?」
レイは当たり前のようにリンのベットに潜り込んだ。リンの涙が引っ込む。
「ちょっとレイ! もう猫じゃないんだから、自分の部屋に行って」
「ええ? だって三日間は一人で我慢したんだよ? いいじゃないか」
何がいいのだろうか?
「あのねー、こんな事他の人に見つかったら大変じゃない!」
レイは何か考えて、はっとした。
「リンが将来結婚する時に困るのか? それなら大丈夫! 私が責任持ってリンを幸せにするから」
「ええ!」
それってどういう?
「ほらおいで」
レイがリンの手を引く。
「おやすみ」
リンをぎゅっとすると寝てしまうレイ。
「もう……」
マイペースな魔導士に振り回されてばかりだ。さっきまでは、感謝の気持ちでいっぱいだったのに。
これ、毎日続くのかな?
そんな事を考えながら、リンは眠りに落ちた。
魔法の練習は大変だったが、とても充実していた。リンは学校に行っていない。勉強は独学で、人に教えてもらうというのは初めてである。
「こうですか?」
リンは楽しくてたまらない。
「そうです。そのイメージで……」
マドカも教え甲斐があるリンに、どんどん課題を与えていく。自分より年下の面倒を見るのは、マドカも初めてである。
基礎の魔法を教えてもらった。指先から小さい炎、そよ風、霧を作る事ができた。レイのように、人を飛ばす程の強風や、雨で火事を消すなんて事はまず無理である。
「ちょっと休憩しましょう」
マドカがリンを誘う。
「はい、これだけやったら休憩します!」
「リンさんすごいですね。疲れない程度にしといてくださいね。私がレイ様に叱られます」
「レイがマドカ様を叱るんですか? 想像できません」
リンが驚く。
「私には厳しいのです。でも、戻ってからのレイ様は大分印象が柔らかくなりました。以前はもっと鋭い雰囲気でした」
「そうなんですか? 私はどうしても猫だったクロの印象が強いので、人の時どうだったか聞くのは興味深いです」
リンはやっと椅子に座った。
「二人ともお疲れ様」
祖母がお茶を持ってきてくれた。
「ありがとう、おばあちゃん」
リンが受け取る。
「お婆様! あなた様がそんなこと!」
マドカは焦っているようだ。
「私がお願いしたんです。やる事がないのも退屈ですからね」
優しげに笑う祖母の顔を見て、マドカもお茶を受け取った。
祖母の後ろに控えている侍女も微笑んでいる。
「リン、良かったわね、魔法を教えてもらえて」
祖母がリンに笑いかけた。
「うん、とても充実してる」
リンも笑った。




