将来の道
レイとリン、二人でソファに腰掛ける。
「レイ、話って……?」
「リン・ランドゥ姫。……リンの本当の名前だね?」
レイは猫の『クロ』として、リン達と一年間も一緒に暮らしていたのだ。リンの秘密は見抜かれている。
「うん。……やっぱり分かってたんだね」
リンは悲しそうに笑った。
「隠してる事情を、ちゃんと聞いておきたくて」
「……ありがとうレイ。聞いてくれて」
リンはこれまでの経緯と、正体を隠さざるを得ない理由をレイに打ち明けた。
「事情はわかった。私からリンやマーサの正体について、誰かに話すような真似は絶対にしないよ」
「ありがとう、レイ」
「王族に戻りたくなったらいつでも教えてね」
「うん」
「それと……リン、魔法学園に通わないか?」
「え……!」
「ずっと独学で勉強しているんだろう? 優秀な先生たちが実践も交えて教えてくれる。何より楽しいよ?」
「私、学園に通えるの……?」
「うん。もちろん、偽名のままでね!」
「ずっと憧れだったの……! レイありがとう!」
リンは嬉しさのあまり、勢い余ってレイに抱きついてしまった。はっと我に帰り、慌てて身を引こうとするものの、レイの腕にしっかり抱えられて動けない。
「レ、レイ……ごめん、離して……」
「うーん、嫌だ。……じゃあそろそろ寝ようか」
「うん……え?」
レイはニッコリ微笑むと、リンを軽々とお姫様抱っこし、そのままベッドへと運んでいく。そして当たり前のような顔で、リンのベッドに潜り込んできた。
あまりの素早さに呆気にとられるリン。
「レイ? もう猫じゃないんだから、自分の部屋で寝た方がいいんじゃないかな……」
ごく当たり前の正論を伝えるリン。
「だって、三日間も一人で我慢したんだよ?」
あまりにも澄み切った瞳で、当然のように言い放つレイ。
そんなに美しい顔で、何を言っているんだろうこの人は?
「んー、夫婦でもないのに一緒に寝るのは良くないと思うの。もし他の人に見つかったら大変だし……」
レイは何かを真剣に考えると、ハッと顔を輝かせた。
「なんだ、リンが将来結婚する時に困るのか? それなら大丈夫! 私が責任持ってリンを幸せにするから」
「ええぇ!?」
それって……どういう意味!?
「ほら、おいで」
レイがリンの手を優しく引く。リンの抵抗は虚しく。再びレイの腕の中にすっぽりと収まってしまった。
「おやすみ」
満足そうにリンをギュッ抱きしめると、レイはそのまま静かな寝息を立て始めた。
「レイ……」
マイペースすぎる魔導士に振り回されてばかりだ。さっきまでは感謝の気持ちでいっぱいだったのに。
これ、……毎日続くのかな?
頭を悩ませつつも、その温もりに不思議と心が安らぎ、リンもまた静かに眠りへと落ちていった。
◇
翌日の中庭で、リンはマドカと一緒に魔法の練習に励んでいた。まずは基礎から、リンにとって魔法の訓練はとても充実した時間だった。
「こうですか……?」
「そうです。そのイメージで……」
教え甲斐のあるリンの呑み込みの早さに、ぬマドカも嬉しそうに次々と課題を与えていく。実はマドカにとっても、人に魔法を教えるのはこれが初めての経験だった。
基礎魔法の手ほどきを受け、リンは指先から小さな炎を出したり、そよ風を吹かせたり、小さな霧を作り出せるようになった。
基礎の魔法を教えてもらい、指先から小さい炎、そよ風、霧を作る事ができた。
「少し休憩しましょう」
マドカがリンを誘う。
「はい、これだけやったら休憩します!」
「リンさんは本当にすごいですね。でも無理のない範囲にしてください」
「レイがマドカ様を叱るんですか? 想像できません」
リンが目を丸くする。
「私には厳しいのです。でも、戻ってからのレイ様は、だいぶ印象が柔らかくなりました。以前はもっと鋭い雰囲気でした」
「そうなんですか? 私はどうしても猫だったクロの印象が強いので、人の時どうだったか聞くのは興味深いです」
リンはやっと椅子に座り息をつく。
「二人とも、お疲れ様です」
マーサがニコニコと、温かい微笑みを浮かべてやってきた。後ろには、従者が豪華なティーセットを運んできている。
「マーサ!」
「少しお茶でも飲んで、一息入れましょう?」
「ありがとうございます」
マドカも笑みを返す。
「リン様、良かったですね、魔法を教えてもらえて」
「うん、とても楽しい」
リンは満面の笑みを浮かべた。
◇
翌朝、マドカとの魔法練習の休憩中にレイがやって来た。
「やぁ。頑張ってるね」
「レイ」
「レイ様、お仕事は終わられたんですか?」
マドカの微笑みが怖い。
「終わったよ、もちろん」
レイはニッコリ笑う。
これは誤魔化している。
外のテラス席に座る三人。レイが紅茶を飲みながら話し始めた。
「リン、君にはヒーラーとしての素質がある」
ヒーラーとは、高度な回復魔法を扱う者を指す。主に教会で祈りを捧げるシスターなどが使う特別な魔法だ。
「私の呪いが解けたことにも、リンの持つ回復能力が深く関係していると考えているんだ」
「呪いを解くなんて……高度な回復魔法だよね?」
リンが訊ねる。
「あぁ。だけどリンなら訓練さえすれば、きっと自由に使えるようになるよ」
「うん! 私、頑張る!」
リンは改めて、マーサの左手を治すのだと決意を新たにした。
「……レイ様、学園にこっそり忍び込んだりするのは駄目ですからね?」
マドカがじっとレイを牽制するが、レイはどこ吹く風で微笑んでいる。
「こっそり忍び込んだりなんてしないよ。行くなら堂々と行くさ。——それじゃあ早速、学園への入学準備を始めようか!」
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