レイの動機〜回想〜
レイ・シャルン十三歳。
シャルン王国での式典に出席していた。レイはシャルン王国の第一王子でありながら、全く政治に興味がなかった。式典も渋々の出席である。
はぁ。魔術書が読みたい。魔法の練習がしたいな……
退屈そうにそんなことを考えていると、傍らの従者がそっと耳打ちしてきた。
「レイ様、あの方へご挨拶を。婚約者様です」
肩までの黒髪を可愛くまとめ、花を付けた少女。桜色のドレスがとても似合っていて、何とも愛らしい。
「初めまして。シャルン王国第一王子、レイ・シャルンです」
レイが挨拶すると、少女は少しもじもじして、薄紫色の瞳でレイを見上げた。そして後ろに控える従者に優しく背中を押されると、ちょこんとスカートの裾を持ち上げお辞儀した。
「はじめまして、ランドゥ王国第一王女、リン・ランドゥですっ」
パーッと花が咲くようにニコッと笑う少女。五歳にしては、しっかりした話し方で自己紹介するその愛くるしい姿に、レイは一瞬で目を奪われた。
彼女が……僕の婚約者……
それは、退屈だったレイの人生に訪れた、鮮烈な一目惚れの瞬間だった。
◇
あの華やかな式典から、一年後。
ランドゥ城が、突如現れた謎の魔法使いによって襲撃されるという、未曾有の大事件が勃発した。
「陛下、ランドゥ城に向かった者から知らせが届きました」
「うむ。申せ」
「それが……」
従者が国王の耳元で低く囁く。
「なんと……全員か……!」
「おそらく……。現在、生存者および身元の確認を急がせております」
「父上、一体どうされたのですか?」
異様な空気を感じ取り、レイが尋ねる。
「……レイか。其方にも伝えておく。ランドゥ城が、凶悪な魔法使いによって襲撃された。そなたの婚約者殿も……行方不明だ。誠に、残念なことになった……」
「そんな! ……リンが……!?」
「他の領地が同じ惨劇に見舞われぬよう、明日から各地の視察に向かう。レイ、其方は魔法に長けているな? 一緒に参れ」
「……はい。わかりました」
あの愛くるしい笑顔で挨拶をしてくれたリンが、もういないなんて……。そんなの絶対に認めない。僕が……僕の手で必ず、その魔法使いを捕まえてやる!
レイはその日、世界の誰よりも魔法を極める決意をしたのだった。
◇
それから月日が流れた。
長い追跡の末、ついにあの魔法使いの足取りを掴むことに成功した。……それなのに、敵の罠にはまり、このような凶悪な呪いを受けることになろうとは。迂闊だった。
黒猫の姿へと変えられてしまったレイは、道端に力無く倒れ込む。もう動けそうにない。
視界が急速に狭まり、走馬灯が駆け巡る。その中に浮かんできたのは——あの時笑い返してくれた、リンの満面の笑顔だった。
レイは目を閉じ、その時を待っていた。しかし次の瞬間——身体を包み込んだのは、驚くほど温かく、心地よい光の感覚だった。
うっすら目を開くと、若い女性がこちらを心配そうに見ていた。その瞳は——澄み渡る、美しい薄紫色。
回復魔法? あれ、この女性は……まさか……
「よかった生きてる! おいで」
優しく抱き上げられる温もりに包まれながら、レイは安らかな眠りの中へと落ちていった。
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