屋敷にて
翌朝、レイが様子を見にきた。
「リン、マーサ、昨日はよく眠れた?」
「おかげさまで! 私などには不釣り合いな部屋で……恐縮しております」
マーサは深々と礼をした。少し涙ぐんでいる。
「レイ、ありがとう……なんだか夢みたい」
リンもお礼を言う。
昨日、屋敷に着き、部屋に案内された時は驚いた。私とマーサ、それぞれの部屋にお付きの方、洋服やら靴、何から何まで準備されていた。
「それは良かった!」
レイは満足そうに笑った。
「それで、二人に見せたい魔法があるんだ」
何やら楽しそうなレイが目を瞑ると、足元が青白く光り、風が起こった。次の瞬間リンの前にいたのは、猫のクロだった。
「レイがクロになった!」
久しぶりの猫のクロに、リンはテンションが上がって撫でまわす。
「かわいい~」
「ちょっと撫ですぎだ」
手を離して後ずさるリン。
「クロからレイの声が……」
クロは机に飛び乗ると得意気に話す。
「そう! 猫に戻れるし、なんと話せるんだ」
リンはちょっとテンションが下がる。
「それ猫じゃない」
◇
レイ、リン、マーサ、マドカの四人は応接室で向かい合っている。人に戻ったレイが話し出す。
「私に呪いをかけたのは、魔法学園時代の私の同級生だった」
村を襲い、何処かに消えたあの魔法使いを思い浮かべる。
「とても優秀な方でしたが、レイ様には叶わず。嫉妬心からか嫌がらせを、しょっちゅうしていました」
レイの弟子のマドカが説明する。彼も優秀な魔導士である。長い金髪を一つに縛り、緑の瞳をしている。
マドカはレイを一年間も探していたそうだ。レイは猫ライフを満喫していたというのに、気の毒なことである。
「あの男は今どこに?」
マーサが不安な顔で訊ねる。
「村の周辺にはおりませんでした。あの魔法使いは指名手配されています。彼は危険人物です。一刻も早く見つけなければ」
マドカが悔しそうに顔を歪める。
「次は確実に捕まえたい……」
レイとマドカの瞳がキラリと光った。
◇
リンは屋敷を探索していた。
レイは忙しいらしく、従者のマドカとどこかへ行ってしまったし、マーサは部屋でゆっくりするらしい。
お屋敷は広い。部屋が幾つもあって迷いそうだ。しかし、好奇心旺盛なリンは色々と見ておきたい。ウロウロしていたら中庭に出た。
「ここも素敵……」
ベンチがあるので休憩させてもらおう。ベンチに腰掛けると膝に何か乗ってきた。
「クロ! どうして?」
「ちょっと休憩しようと思ってね。窓の外を見たらリンがいたから。書類仕事は懲り懲りだよ……」
そう言うと膝の上で丸くなる。
ネコやり慣れてる……
リンはクロを撫でる。無意識である。
「喉渇いたな。リンもお茶にするかい?」
「いいの?」
「マドカ! 用意お願いできる?」
クロが話すと、上から声がした。
「レイ様そんな所に! お茶ですか、分かりました」
あっという間にお茶の準備が整う。サンドイッチやケーキ、何やら見たことのない、おしゃれなお菓子達……
リンはその景色に感動していた。うっとりお菓子を見つめ、いい香りを吸い込む。
「嬉しそうで良かった。好きなだけ食べていいからね?」
レイはクロになったまま、リンの膝の上で話している。
「クロ、レイに戻らないの? 一緒にお菓子食べよう」
リンが言うと、クロは膝から降り人に戻る。すらっとした長身美男子が現れる。
「そうだった。リンの膝枕、気持ち良くて忘れてた」
レイがさらっと口にする。
「レイ、恥ずかしいから言わないで」
リンは一気に体温が上がった。
「ごめんね」
全く悪いと思っていないであろう謝罪をし、微笑む。
「レイ様が楽しそうだ……」
マドカはそんなレイを珍しそうに見ている。リンとレイ、マドカでお茶をするのは優雅な時間であった。
その夜、
「リン、入ってもいい?」
「どうぞ」
読んでいた本を閉じる。
「話があるんだ」
そこにはレイが立っていた。
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