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魔導士は猫になりたい  作者: 紙絵


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3/30

猫の事情

 家に戻ると、クロは二人に事情を話した。


「私は魔導士だ。名前はレイ。一年前に呪いによって猫にされてしまってね。その時、拾ってくれたのがリンだ。本当にありがとう。あのままだったら私は死んでいたよ」

 クロもとい、レイが頭を下げる。

「お礼を言うのは私の方です。村と私達を守ってくれてありがとう」

 リンとマーサが頭を下げる。

「なぜ急に人に戻れたの?」

 リンが質問する。

「おそらく、リンの力だと思う」

「私?」

 回復魔法は使えるが、呪いを解いた事はない。呪いを解けるのは、教会にいるヒーラーの中でも上級のシスターくらいである。

「リンとスキンシップをする度に、だんだん力が戻っていく感覚がしていた」

「だって猫だったから……!」


 穴があったら入りたい!


 リンは恥ずかしくて顔を手で隠した。マーサは恐縮している。

「クロが魔導士様だったとは……!」

「魔導士って、都でお仕事している?」

 リンは話題を変えたいと、マーサに訊ねる。

「政のあれこれを決めたり、暦を管理したり、怪物を倒したり、国の偉い人達のことです!」


 魔導士は国家資格だ。魔法使いの中の優秀な者が魔導士になる事ができる。


「本当にお世話になりました。私は一度自宅に戻ろうかと思いますが、改めてお礼させていただきます」

 レイは深々とお辞儀をした。とても紳士的である。

「そっかクロ……じゃなかった、レイの家はどこなの?」

「リン様! 魔導士様にそんな口調は……!」

 そんなこと言われても、さっきまで猫だったのに、急に無理である。

「マーサ大丈夫ですよ、私は気にしません。自宅は王都にあって、ここには術で飛ばされたようです。どの辺かは分かっています」

「今まで帰らなかったのはなんで?」

 リンは不思議に思った。多分、そんなすごい魔導士ならば猫の姿でも帰れるはずだ。

「いや、怪我が治ったら出て行こうと思っていたんだが、居心地が良くてね……気付いたら一年経っていた」

 レイは頭をかいている。やはり猫みたいな仕草である。

「という事で、明日ここを発ちます」


 ◇


 リンは布団に入りクロを呼ぼうとして、はっとする。

 もうあの猫はいないのだ。少し寂しいが仕方ない。一人で寝ようとすると、ノックの音がした。

「どうぞ?」

「リン、一緒に寝よう?」

 部屋着姿のレイが入ってきた。胸元がはだけていて、無駄に色気を纏っている。

「え!」

 固まるリンに、気にしないレイ。

「お婆様に大きめの服を借りたんだけど、丈がどうしても短くてね。どうしたの? いつもと一緒だよ。ほら布団入って」

 手を引っ張られて布団に入れられる。

「おやすみ」

 レイはそう言うとリンをぎゅっとする。あまりの事に固まって動けないリン。

「お……おやすみ」

 そいえばクロはマイペースだった。しかし、次第にその温もりに癒されて、いつの間にか眠ってしまったリンだった。


 ◇


 翌朝目を覚ますと、レイはいなくなっていた。荷物も何も持たずに行ったようだ。ここから都まではかなり時間がかかるのに、大丈夫なのだろうか? と、心配になる。

 

「夕飯何にしよかねえ?」

「そうだなぁ、私買い物行ってくるね。クロ行くよ……あ」

 クロはいないのに、中々適応するのは大変だ。

「癖だねえ。どこ行くのも付いてきてたから」

 マーサもしみじみ思う。クロを拾ってから、今まで一緒に暮らしてきた日々はもう日常になっていた。少ししんみりしながら町へと向かうリン。

 

 クロ何してるのかな?

 もう王都に着いたかなあ?

 

 それからも、事あるごとに頭に浮かんでしまう。

 クロがいなくなってから二日後。外で洗濯をしていると近くの桜の木にカラスがとまった。


「リン聞こえる?」

「は! カラスが話している!」

「そう、これは私の遣いだよ。聞こえているようで良かった」

 カラスからレイの優しい声がする。

「今夜、迎えに行くからよろしくね」

「むかえ?」

 それだけ言うと、カラスはどこかに行ってしまった。

「マーサ! カラスが!」

 リンは急いでマーサの元へと走った。

「リン様、どうかしましたか?」

 不思議そうなマーサに、息を切らせながら今起きた出来事を話す。

「迎えに来るって、どう言う事だろう?」

「まあまあ。それは嬉しい事です!」

 マーサはとても喜んでいる。何故か持っている服の中で、一番のドレスを着せられ、化粧までされた。


 その夜、馬車が現れた。

 こんな田舎の村では見たことのない、豪華な装飾の馬車である。蹄の音を響かせて走る馬車に、村人も集まってきた。

 そして、それは静かに家の前に停まった。従者が馬車のドアを開けると、

「リン、迎えにきたよ」

 馬車から降りてきたレイは正装姿だ。眩しいくらい様になっている。

 観衆からため息がもれる。

「すごい……レイ王子様みたい」

 リンも思わず感想が口から出てしまった。

「はは、ありがとう。リンもかわいいよ」

 リンの手を取るレイ。

「お婆様、お迎えにきました。お婆様もご一緒に来てください」

「わ、私もですか?」

 マーサがこれでもかという程、目を見開いている。

「私の命の恩人です。ぜひ我が家で、ゆっくりと過ごして下さい。嫌になったらもちろん戻っていただいても構いません」


 リンとマーサはみんなに見送られて、都へと旅立ったのであった。

読んでいただき、ありがとうございます。

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