本当の姿
「クロが人になった……」
リンは驚きで動けない。祖母は目を丸くしている。クロだった男が口を開く。
「呪いが解けたみたいだね。あいつは私がどうにかしよう」
とても優しげな口調である。リンは目が離せなかった。
クロが手を振ると空から雨粒が降ってきて、瞬く間に村を燃やしていた炎が小さくなっていった。これぞ、魔法だ。
「火事が……」「おお!」「火が消えたぞー!」
村人達は感嘆の声をあげる。
魔法使いはそんなクロを見て不敵に笑った。
「見つけたぞ! 今度こそお前を亡き者にしてやる!」
魔法使いは手を上げ、上空に多くの火の玉を出現させた。それを村人達へ投げつける。
クロが手を振ると、美しい魔法陣が空中に現れる。それは火の玉を通さない。
「すごい!」「これが防御魔法」「なんて戦いだ」
村人も固唾を飲んで見守っている。
「やるな。じゃあ、これはどうだ?」
魔法使いは叫ぶと、クロに狙いを定めた。両手を上げ、大きい火の玉を作り出す。
「熱っ!」
上空からの熱が伝わってくる。
こんな巨大な火の玉を一瞬で作り出すなんて……
リンは驚愕した。あれが直撃したら、怪我どころじゃ済まないだろう。魔法使いはクロめがけて、その火の玉を投げつけてきた。
「行けえ!」
「わー!」「きゃー!」
悲鳴が飛び交う中、クロが手を振ると、突風が巻き起こった。
「ひゃあ!」
すごい突風に飛ばされそうになり、リンはしゃがみ込む。その風は、火の玉とぶつかり合い、火の玉を吹き飛ばした。空高く上がった火の玉は、けたたましい爆音と光を放ち上空で爆発した。
「ふん。相殺させたか」
魔法使いが空を睨む。
爆発の余波、火の粉が地上に降り注ぐ。クロは防御魔法でそれを防ぐが、防御魔法が届かない位置に小さな子どもがうずくまっている。
「危ない!」
それに気付いたリンは、子どもを守ろうと覆い被さった。クロは目を見開き、急いでそこへ防御魔法を出現させた。
「リン大丈夫か!」
クロが駆け寄ってくる。
「だ、大丈夫……あなたも怪我はない?」
頷く子ども。
「良かった」
微笑むリンに、クロはハッとさせられた。間一髪で火の粉は消え二人は無事だった。
「よそ見してていいのか?」
魔法使いが不敵に笑う。次の攻撃を仕掛けようとした時、遠くから大勢の人の声がしているのに気が付いた。
「楽しいなあ。しかし、暴れすぎたか……」
「騎士団だ!」「助けてくれー!」「ここだー」
騒ぎを聞きつけた騎士団が到着したようだ。
「この続きはまた後日」
「待て!」
魔法使いが手を上げ、小さな火の玉を投げつける。
「!」
クロは手を上げ、防御魔法を再び出現させた。その間に魔法使いは姿を消していた。
「助かった!」「村の火事も消えた!」「ありがとうございます!」「猫に変身してたの?」「魔導士様すごい」
歓喜する村人達。皆、クロに感謝していく。騎士団も合流し村へ戻って行く。
「まさか、人間だったなんて……」
マーサは驚きで口が開いたままだ。ふらついている。
「マーサ大丈夫!?」
地面に座り込んでしまった。
「お、驚いて……腰が抜けてしまいました」
「二人とも大丈夫かい?」
ローブを着た男の黒髪が揺れる。クロと同じ、涼しげな紫の瞳がこちらを真剣に見ている。
「大丈夫です!」「大丈夫!」
リンとマーサが同時に答える。
「立てますか? 家まで戻りましょう」
「ありがとうございます」
クロに手を借りてマーサは立ち上がり、並んで家へ戻る。途中、リンは混乱する頭を抱えて横を歩くクロを見上げる。
「あのー、あなたはクロなの?」
「そうだよ。リン」
クロはにっこり笑う。真剣な表情が、子どものように可愛い顔に変わる。
「猫はのんびりできてよかったし、もう猫のままでもいいかと思ってたんだけど……久しぶりに人に戻ったら、こっちのほうがいいな」
クロは猫のように頭を掻いた。そして、自分の拳を開いたり、握ったりしている。指が自在に動くのを確認しているようだ。
「驚かせてごめん」
そう言うとリンの頭を撫でた。リンの心臓が脈打った。
「いつもと逆だね?」
クロが嬉しそうに微笑む。
そうだ、いつも私がクロを撫でてた! それどころじゃない。一緒に寝てたし、キスだって……! 私はなんて事を……!
猫に対してしていた事だ。だが、それが人だったと知った今、リンは顔どころか、耳まで真っ赤になった。
「かわいいな、リンは。いつも見上げてたけど、見下ろすと更に……」
クロが上からリンをじっと見ている。綺麗な瞳はクロと同じだ。我に帰るリン。
「なっ……そんな事! かわいいのはクロだったのに」
こんなに大きくなったクロは、流石にかわいくない。いや、かっこいいけども!
リンはクロを見上げるのだった。
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