学園祭 前編
月のない夜、魔法使いからの手紙を受け取った。
『——を連れてこい』
手紙を睨みつける少年。
一瞬炎が上がり、その手紙は灰になっていた。
◇
魔法学園は学園祭の季節である。様々な生徒がいるこの学園の学園祭は、王都の街の人も訪れる賑やかなお祭りだ。
「ヒーラーのグループは何をするの?」
カナタがリンに訊ねる。
「栄養ドリンクを売る予定」
リンが楽し気に答える。授業中もドリンク作りに余念がないヒーラーのクラスである。ドリンクを色とりどりにしたくて、様々な色のドリンクを作っている最中なのだ。
「カナタはどう? 主人公大変?」
「まぁね。こんなにセリフ覚えるのかって、正直ちょっと嫌になってる所……」
「あはは……大変そうだね」
学園祭では演劇をするのが通例で、クラスや学年関係なく行う。今回は演劇に出演したい生徒が多く、くじ引きも行われた。
「でも、憧れの『魔導士様役』に選ばれたからには、僕、頑張るよ!」
カナタが瞳を輝かせている。リンはそんな姿を見て苦笑いする。そう、演目は『伝説の魔導士』なのである。
この前、激励にやって来たレイを見た影響が色濃く出ているといえる。レイのファンを公言する、エマとカナタは出演を希望していたのだ。
カナタは、レイ役をくじ引きで引き上げた強運な者であり、エマはというと……
「カナタいた! 休憩終わりだよー! 次は戦いのシーンなんだから」
総合監督のエマが、カナタを探しに来た。その手には台本が握られている。
「わかったよ! じゃあね、リン」
「二人共、頑張って!」
リンは二人に手を振った。
◇
学園祭当日、魔法学園は沢山の人で賑わっていた。リンは屋台でドリンクを売っていた。
「まぁ、綺麗な色……一つください」
「ありがとうございます!」
皆、カラフルな飲み物に足を止めて行く。売り上げは好調だ。
「そろそろ交代の時間だわ。リンもお疲れ様」
「うん、お疲れ様〜」
屋台当番は交代制だ。リンはお祭りを楽しもうと歩き出す。
演劇見に行かなきゃ! その後は、エマ達とまわって……
「リン、頑張ってたね?」
リンは後ろから肩を叩かれ、振り返る。そこにはライラが立っていた。
「ライラ! 今日来れたんだね!」
ライラは一昨日から学園を休んでいた。親戚の家に行く用事があると言っていたが、
「うん。思ったより予定が早まったから……」
「じゃあ一緒に回ろう!」
リンはライラの手を取って歩き出す。ライラは少し驚いた顔でこちらを見た。
「人多くてはぐれたらいけないから。演劇始まっちゃうよ! 早く行こ!」
「……うん」
二人は連れ立って小走りで会場へ向かった。
演劇の会場は敷地内の教会で行われる。教会は既に大勢の人で賑わっていた。リンとライラはギリギリ席に座れたが、後から来た人達は立ち見である。
「カナタ大丈夫かな……?」
ライラは心配そうである。
「きっと大丈夫だよ! あんなに練習してたんだから……!」
リンが大きく頷く。ふと、知った顔を見た気がした。会場の前の方の席、帽子を目深に被っている黒髪……ロン殿下!?
なんでこんな所に殿下が? 隣に座っているのは……マドカ!?
「!」
危うく名前を呼びそうになった。幸いライラはステージを心配そうに見ていて、リンの挙動不審さに気付いていない。
……あの二人がいるってことは、もしかして——
リンは回りをよく見る。
「これより、『伝説の魔導士』始まります!」
アナウンスがかかる。会場が暗転する直前、リンは見つけた。
「いた……」
その呟きは、会場の拍手にかき消される。実際の伝説の魔導士は、階上の欄干の上に黒猫姿で寝そべっていた。
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