激励
ランドルの町も無事に元通りとなり、一息ついたリンはどこか気が抜けていた。
「おはよう〜」
学園に到着し、教室のドアを開ける。すると、待ち構えていたエマとカナタがすかさずリンの元へ詰め寄ってきた。ライラの姿はまだ見当たらない。
「おはようリン!」
「リンに飛行魔法を教えた人は、一体誰なんだい?」
は、忘れてた……
「兄さんに聞いてみたんだけど、飛行魔法を教えられるなんて、よっぽど凄い人なんじゃないかって言っててさ?」
カナタがメガネを直しながら迫ってくる。
「私もね、気になって調べてみたんだけど。そもそも飛行魔法が使えるのって魔力量が多いとか、正確なコントロールごないと駄目みたいなの……」
「リンの知り合いって……?」
「っていうか、リンって魔力量少なくなかったっけ?」
逃げ場を塞ぐように二人が同時に迫ってくる。背後は壁で、もう後戻りも逃げられない。
「え、えっとぉ……」
ど、どうしよう!? うまい言い訳考えとくの忘れてた……!
絶体絶命のピンチに陥るリン。救いの予鈴は——まだ鳴りそうにない。
「皆さん、おはようございます! 今日はなんと、特別なお客様が来てくれましたよ!」
担任のレイモンド先生が、予鈴よりも早く興奮気味に教室へ飛び込んできた。全員の視線が教卓へと集まる。
直後、一人の男性が優雅な足取りで教室へと足を踏み入れた。
そのあまりに圧倒的な存在感に、静まり返る教室。艶やかな漆黒の髪、裾を揺らす上質な漆黒のローブ、そして前を見据える神秘的な薄紫色の瞳——。
「……レッ!?」
そこに立っていたのは、他でもないレイ・シャルンだった。リンは咄嗟に漏れそうになった名前を、両手で固く口を押さえて必死に呑み込んだ。
そこに立っていたのは、他でもないレイ・シャルンだった。リンは咄嗟に漏れそうになった名前を、両手で固く口を押さえて必死に呑み込んだ。
レイってば……堂々と見学に来たってこと?
「本日は、日々励んでいる皆さんを激励に参りました。いつも魔法の勉強、よく頑張っていらっしゃいますね。ぜひ将来は立派な魔導士を目指して——」
レイが朗らかにスピーチを続けているが、リンの頭の中は『なぜレイがここにいるのか』ということで一杯だった。
「ありがとうございます! 私も、まさかあのレイ様に直接お会いできるなんて感激で胸がいっぱいです!」
レイモンド先生は頬を真っ赤に染めて興奮している。いや、むしろこの教室の中で興奮していないのはリン一人だけだ。リンだけが、顔を青くしてレイを凝視している。
「では、皆さんの今後の健闘を祈っています。またいつかお会いしましょう」
リンの殺気立った視線に気づいているのかいないのか、レイは爽やかな笑顔を残し、颯爽と教室をあとにした。リンは肩の力を抜き、深々と大きなため息をついた。
レイの想定外の登場のおかげで、その後エマやカナタから追及されることはなくなった。しかし——
「レイ様、信じられないくらい格好よかった……!」
「私、生で見たの初めて……!」
教室中(先生含む)で、レイのファンが爆発的に増えてしまっていた。
在学中に、私とレイの関係がバレないように気をつけて行動しないと……!
リンは心に固く誓ったのだった。
◇
マドカは王都から離れ、上空から眼下に広がる森を見つめていた。
おそらく、あの森だ……
例の魔法使いの隠れ家の一つ。それが、ここにあるという情報がもたらされたのだ。
音もなく地上へ降り立つと、気配を完全に消して森の奥へと足を踏み入れた。やがて樹木の隙間から、一軒の山小屋が見えてくる。
窓から覗くと、そこにはふくよかな女性と、まだ幼さの残る男の子がいた。
魔法使いはいないようだ……。あの人達は人質だな。幸い衰弱している様子はない。
その時、遠くからこちらへ近づいてくる足音が聞こえた。マドカは素早く身を翻し、山小屋からそっと距離を取る。
姿を現したのは、例の魔法使いだった。後ろからもう一人——少年を伴い、山小屋の中へと消えていった。
読んでいただき、ありがとうございます。
面白ければ星5、つまらなければ星1
ついでにブックマークもいただけると嬉しいです。




