悩み
「はぁ」
「殿下、ため息は何回目ですか?」
「ユーリ……そんな何度もため息ついてたかな?」
こんな夜更けにもかかわらず、ロンは執務の最中だった。普段なら単調な事務仕事であっても、ため息をつくようなことはない。実に真面目な働きぶりなのだが……。
「エマ殿のことですか?」
従者のユーリが耳打ちする。ロンより一回り年上のユーリは、少々面白がっている節があった。
「……なぜそう思う?」
ロンは座ったまま、隣に立つユーリを軽く睨みつける。
「あの日以来、殿下が時折、年相応の表情を見せられますので」
「それもどう言う意味だ」
「殿下にも青年らしいところがあると分かって、安心したという話ですよ」
「……はぁ、疲れた。今日はもう休む」
「かしこまりました」
「ユーリも下がっていいぞ」
「はい。おやすみなさいませ、殿下」
従者が礼をする。ロンは夜風にあたりに、テラスへと出た。空には綺麗な三日月が浮かんでいる。
綺麗な月だ……エマ殿も見ているだろうか?
まだエマ殿と会ってから一週間しか経っていない。しかし、ふとした瞬間に彼女の事が頭によぎるのだ。
僕はまさか……本気で彼女を?
自分で自分が信じられないロンは、頭を抱えた。しかし、背筋を伸ばし上を向く。
そんなはずはない! 確かにエマ殿は笑顔が可愛いし、魔法の勉強に一生懸命な所とか、とても尊敬できるし、魅力的だが……!
「——また会ってみよう。そうしたら何か分かるかもしれない……」
テラスで何かブツブツ呟きながら右往左往している殿下をそっと見守りながら、ユーリは自室へと戻ったのだった。
◇
夕方、自室で勉強中だったエマは、自分の手を見つめていた。
紅茶をこぼして軽い火傷をしたその手は、もう何ともない。お医者様には「完璧な応急処置だった」と褒められたほどだ。
ロン殿下が、私の手を優しく包んでくれた……
あのときの温もりと、至近距離で見つめ合ってしまった瞬間を思い出して顔が熱くなる。
コンコン!
「エマ様、お手紙です」
「はい!」
従者から手紙を受け取り、裏返したエマの心臓が跳ね上がった。
押されていたのは——王家の紋章が入った封蝋。ロン殿下からの手紙だった。
〈エマ殿
先日のお茶会、とても有意義な時間をありがとう。
その後、怪我の具合はいかがだろうか?
私の配慮が足りず怪我をさせてしまい、申し訳なかった。
もしよかったら、また一緒にお茶でもいかがだろうか。エマ殿の学園の話など聞かせてほしい。
差し支えなければ、君の都合の良い日を教えてもらえると嬉しい。
ロンより〉
「お、お誘いだぁ……」
エマは目を潤ませて手紙を読み終えた。そして、ウキウキしながら次の予定を確認するのだった。
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