禁忌呪文の被害
シャルン王国の外れの町、ランドル。その上空に現れたのは、例の魔法使いであった。
「ここに実験台になってもらおう」
リンとレイを乗せた馬車が家路につく頃、その事件は起こった。
ランドルの町の一部が、一瞬にして石になったのだ。上空に現れた魔法使いが何かの呪文を唱えると、彼を中心とした半径一キロほどの範囲に異変が起きた。
「これは凄い! しかし、こちらの魔力が尽きそうだ……」
魔法使いは地上へと降り立つ。そこには灰色に染まった町が広がっていた。空を飛んでいた鳥が、ゴトッと音を立てて落ちてくる。
「石になった!」
鳥を見た魔法使いの男は、肩を揺らして笑った。噴水の水まで石になって動かない。そして、もちろん人々も。一瞬で石化したためか、苦しんだり驚いたりした顔すら浮かべていない。今にも話し出し、動き出しそうな姿のままだ。
「まるで銅像だな……まぁまぁと言ったところか」
困惑した表情が見られないのは、少しつまらない。
魔法使いは残りの魔力を使い、再び飛び立っていった。
◇
事件発生の翌日。魔導士としてレイとマドカ、そしてヒーラーとしてリンも一緒にランドルの町へやって来た。
初めて飛行魔法を使ったリンは、無事に地上へ着地できてほっと息をついた。
「うまくできたね、リン」
「教えてくれてありがとう、レイ、マドカ様。コントロールはまだ難しいけれど……」
降り立った三人に駆け寄ってきたのは、この町の町長だ。
「魔導士様! 来ていただきありがとうございます。こちらです」
町長に案内され、三人は町の奥へと向かう。
「これは……」
レイはまじまじと石になった町を観察する。
「呪いでしょうか?」
リンが心配そうに人々を見つめる。
「おそらく。空を飛ぶ魔法使いが目撃されています。奪われた禁書の魔法によるものでしょう……」
マドカが報告する。彼の体調は、リンとレイが作った薬のおかげですっかり万全だった。
「私、やってみます」
リンは深呼吸をすると、静かに祈りを捧げ始めた。すると、町全体が温かな光の粒に包まれていく。石になっていた木々が、少しずつ元の色を取り戻していく。緑に戻った葉が一枚、風に舞って飛んでいった。
「これは……すごい……!」
町長が感動し、呟く。
「リン、そこまでにしよう」
レイが制止に入った。リンがそっと目を開けると、光の粒がしだいに消えていく。
「レイ……」
「町の一部が石になっているんだ。このままじゃリンの体力が尽きてしまう。一度、大聖堂のシスターたちにも相談しよう」
「私、もう少し……」
「そうだね。でも今日はここまでだ。祈りが効果的だと分かったんだ。すごい収穫だよ」
「ありがとうございます、シスター様!」
町長が感極まった様子でお礼を言う。リンは慌てて手を振った。
「と、とんでもありません! 私はまだ勉強中でして……」
「何を言われますか! 非常に温かいお力でした。きっとこの町は元に戻ると、私は確信いたしました」
町長の晴れやかな笑顔を見て、リンも自然と笑みがこぼれる。
「はい、絶対に元に戻してみせます!」
リンは強く心に誓ったのだった。
◇
三人は一旦、王都へと戻った。途中、マドカは屋敷とは別の方向へ向かう。
「レイ様、リン様、私はランドルについての報告に行って参ります!」
「あぁ、頼むよ」
「よろしくお願いします!」
屋敷の敷地内へと到着した二人。
「リン、大丈夫かい?」
「大丈夫だよ。ありがとう」
そう口では言いながらも、慣れない飛行魔法と広範囲への祈りを使ったリンは、足元が少しふらついていた。そんなリンを、レイが優しく支える。
「ほら、行くよ?」
レイはリンの手をしっかりと握り、歩き出すのだった。
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