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魔導士は猫になりたい  作者: 紙絵


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直情径行(ちょくじょうけいこう)

 例の魔法使いは、奪った禁書『禁忌呪文』を読んでいた。口元がニヤついて止まらない。

「どの呪文を使ってみよう?」

 そう呟いてページをめくる手を止めると、穴が開くほどじっとその呪文を眺めた。


 これにしよう。王都は邪魔が入る。少し遠くで試そう!

 

 魔法使いは立ち上がると、そのまま空中へ舞い上がった。

 

 

 今日は日曜日だ。リンはマーサの左手の治療を行い、部屋で休んでいた。

 だんだん良くなっていく、マーサの左手が嬉しくてたまらない。それによって自分の体力が削られることなど、何とも思っていなかった。

 コンコン。

 開いたドアの前にはレイが立っていた。休みの日のレイはローブ姿ではなく、シャツにズボンのラフな格好をしている。何を着ていても様になる。

「リン、一緒に買い物へ行かないかい?」

「買い物?」

「マドカがまだ風邪っぽくてね。自分が行くと言っているけれど、無理はさせない方がいいから」

「私、行きたい!」

「決まりだね」

 

 二人は馬車に乗り込む。

「どこまで行くの?」

「港町までだよ。そこまで遠くはないけれど、リンもまだ体力が回復していないだろう?」

 すべてお見通しである。寝込むほどではなくなってきたが、祈りを捧げた後はやはりどうしても疲れるのだ。

「リンは、この生活に慣れたかい?」

「うん。とても居心地がよくて……いずれ出て行くときのことを考えると、躊躇しちゃいそう」

 その言葉を聞いた瞬間、レイが固まった。リンは不思議そうに首を傾げる。

「レイ? どうしたの?」

「どうしたの、じゃない! リン、君は出ていくつもりだったのかい!?」

 珍しく取り乱すレイ。リンは目を丸くして彼を見つめた。

「それは……いつまでもお世話になるのは悪いなって。マーサもそう言ってたよ?」

「リンはそうか……はっきり言わないと分からないのか。伝えているつもりだったのに……」

 項垂れながら何やらブツブツと呟いていたレイが、意を決したように居住まいを正した。リンも雰囲気に気圧されて緊張してくる。見つめ合うこと、数秒。

 

「私はリンが好きだ。結婚してほしい」

 

「……えっ!?」

 リンの顔がみるみるうちに真っ赤になる。まるで時間が止まったかのように固まってしまった。

「そんなに驚いて……やっぱり分かっていなかったんだね、リン」

 レイは少し肩を落とした。

「そもそも元々婚約者同士だったんだから、その先は結婚に決まっているだろう?」

「だってだって、あんな子どもの頃の約束で……私、身分も誤魔化してるのに……レイが、私を好き!?」

「だいぶ混乱しているね。返事はまた今度でいいよ」

 レイは優しく微笑むと、いつものようにリンの頭を撫でた。

「出ていくなんて、もう考えないでね?」

 にこやかに笑うレイだが、どこか逃がさないというような迫力がある。リンは、金魚のように口をパクパクさせることしかできない。

 そうこうしているうちに馬車が停まった。目的地に着いたようだ。

 

 そうだ、買い物に来たんだった……!


 すっかり目的を忘れていたリン。レイが馬車を降り、リンにすっと手を差し出す。

「あ、ありがとう……」

「リンはかわいいな」

「へ!?」

「ほら、行くよ」

 エスコートした手を離さないまま歩き出すレイ。リンは心臓が爆発しそうだった。終始、挙動不審なままレイに引き回され、何とか買い物を済ませたのであった。

 馬車に戻ったリンは、自分達が何を買ったのか全く覚えていなかった。

「リン、ちょっと待っていてね」

 一人馬車に残されたリンは、小さく息を吐く。


 私、なんて鈍感なんだろう。レイはずっと私に気持ちを伝えてくれていたのに……

 

 落ち込んで自己嫌悪に陥っていると、レイが戻ってきた。

「お待たせ。リン、大丈夫?」

「うん、大丈夫……」

 顔を上げると、そこには色鮮やかな大きな花束を抱えたレイが立っていた。

「わぁ……キレイ……」

 思わず見惚れてしまう。

「リンへのプレゼント」

「私に? ありがとう!」

 花束はリンが腕いっぱいに抱えるほどの大きさだった。色とりどりの花々は、見ているだけで心が明るくなっていく。

「やっと笑ったね」

「え!」

「困惑させてすまなかった。大事なことは、ちゃんと口に出さないと伝わらないよね。これからはもっとストレートに行くよ」

 レイが謎の決意を固めてしまったのだった。

読んでいただき、ありがとうございます。

面白ければ星5、つまらなければ星1

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