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魔導士は猫になりたい  作者: 紙絵


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24/30

マーサの左手

 日曜日、リンは緊張していた。緊張からなのか、いつもより一時間も早く目が覚めてしまった。窓を開けると、早朝の清々しい風が入ってきた。

 いよいよ今日、マーサの左手を元に戻すのだ。祈りを捧げて、呪いを解くのだ。

 

 これでもダメだったら……

 

 嫌な想像を頭から追い出す。朝日が、街を光に包んでいく。

 きっと大丈夫だ! 頭を切り替え、やる気を出すリン。

 

「はーー、ふーー」

 深呼吸をして、マーサの部屋のドアを叩く。

「はい」

「リンだけど、マーサ開けていい?」

「どうぞ」

 内側からドアが開く。

「おはようございますリン様。いい天気ですね」

「うん。あの……」

 言い淀むリンに、微笑むマーサ。

「左手ですね? 宜しく頼みます」

 二人でソファへ座る。いつになく緊張しているリンを不思議そうに見るマーサ。

「リン様、今日は調子が悪いのですか?」

「いいえ。少し集中力が必要で、緊張しているだけ……。始めるわ」

 リンは目を瞑り、息を吐く。雑念を追い出し、ただ幸せを祈る。集中し始めると周りの音が聞こえなくなってくる。


 しばらくして、鳥の声、風の音が段々と聞こえてきた。目をうっすら開けると、マーサの顔が見えた。

「リン様……」

「終わったわ。左手は……」

 マーサの左手はうっすら光を纏っている。マーサの目は見開かれており、震えていた。

「こんな事が、感覚がある」

 光がおさまると、左手にあったアザが薄くなっているのが分かった。

「リン様! 左手の感覚があります! こんな事、すごいです!」

 マーサは興奮して立ち上がった。

「……良かった」

 リンはそう言うのが精一杯だった。

 遠くからマーサが何か言っている声が聞こえる。どうしたのだろう、私は……意識が遠くなる。


 気がつくとベットに寝ていた。

「リン様、気が付きましたか」

 マーサがほっとした顔でこちらを覗いている。

「あれ? 私……」

 ぼんやりした頭が次第にはっきりしてくる。

「マーサ! 左手は!」

「リン様、起き上がらずそのままで」

 起きあがろうとしたリンは、再び枕に頭を付ける。

「リン様、ありがとうございます。左手の感覚が戻りました。ずっと何も感じなかったのです。それなのに……私なんぞを思って、勉強して下さったリン様は本当に凄いです。感謝してもしきれません」

 マーサは涙を浮かべて深々礼をする。

「よかった……私はまだ半人前だから、徐々に取り戻していきましょうね」

「はい」

 

 その時、リンのベットに黒猫が飛び乗った。

「リン、気が付いたようだね」

 声はレイである。

「レイ?」

「マーサの左手に効果のある魔法を見つけるなんて、流石だね」

「ありがとう」

「マーサも少し休むといい」

 レイがチラッとマーサを見る。マーサは少し驚いた表情をした。

「今は興奮しているから平気かもしれないけど、祈りをするのも、受けるのも力を使うことだよ」

「マーサ大丈夫?」

 リンは心配そうにマーサを見る。

「ありがとうございます。レイ様は鋭いですね……失礼ながら、休ませていただきます」

 マーサは従者に連れられて、リンの部屋から出て行った。やはり、痩せ我慢をしていたようだ。

「レイ、知らなかった。こんなに力を使うのね……禁書に祈った時は平気だったのに」

 リンは天井を見て言った。

「リンは無理するんだから。もう少しおやすみ」

 リンはリラックスして目を閉じたのであった。


 ◇


 マーサの左手は感覚が戻り、アザが薄くなった。まだ元通りになるには時間がかかるが、何の効果もなかった今までからは大きな進歩である。

 

 治る兆しを見つけて、リンはホッとしていた。祈りが届かなかったらもう打つ手がなかったのだ。


 本当は毎週、祈りを捧げたかったのだが、毎回力を使い果たすのはマーサもレイも許さなかった。

 

「急がなくていいのです。リン様が寝込むようなら、マーサは今のままで充分なのですから!」

 マーサは優しく、リンを心配しているのがとても伝わってきた。

「祈る対象が物と人、呪いの程度、それぞれで使う力も変わってくるんだ。禁書が初級だとしたら、マーサの左手は上級。まだ勉強を始めて間もないリンが、寝込むのも分かるだろう?」

 紫の瞳をリンから全く逸らさず、淡々と諭すレイは怖い。

 

 二人の説得により、二、三週間に一度ずつ。祈りを捧げていく事になった。二回目で指先が、三回目で指全体が、四回目でアザが消えた。

 

「リン、頑張ってるね」

「うん。だんだん祈ることが自然に出来るようになってきたの」

 嬉しそうなリンに、レイも微笑むのであった。

読んでいただき、ありがとうございます。

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