呪いの解き方
今日から呪いの魔術について勉強する。
リンはヒーラーとして、回復魔法の授業を受けていた。呪いの解き方を知る前に、ある程度呪いの魔術について勉強するのだ。
マーサは「私のこの左手は気にしないでください」と言って、何も言ってくれない。しかし、マーサの左手は禁書の呪いの魔術によって動かないのだと、リンは考えていた。
何度か教会へ行こうと誘ったが、マーサは頑なに行ってくれないのだ。自分にとっての戒めなのだと言っていた。それなら私が力づくでも治してみせると、逆にリンのやる気を出してしまったわけだが……。
呪いの魔術は、禁書にもなるほど取り扱いが注意されている。授業は学園ではなく教会で行われる。その理由は、万が一、呪いの魔術を誤って身に受けた場合、対処できる者が教会にしかいないからである。
学園近くの教会に集められるヒーラー達。この授業の講師はシスターである。大らかな丸メガネの女性が話し始めた。
「私はパームと言います。皆さん、呪いの魔術をご存知ですか?」
とても高い声である。
「とても危険な魔法であり、それを受けた者、使う者共にリスクが生じるものなのです。危険な魔法という事を理解した上で、呪いの解き方を勉強しましょう」
「使う者……?」
思わず声が出てしまった。
「はいそうです。それについてお話しますね」
パームは話し始めた。
「東洋には『人を呪わば穴二つ』ということわざがありますが、その通り、人に悪い事をしたらその報いが自分にも及びます。呪いの魔術を使った者は、だんだん心を無くし、何も感じなくなります。生きる屍のような……今まで見た事はありませんが、最後は人ではなくなると言われています」
唾を飲み込むリン。
人ではなくなる……それは一体どんな姿なのだろう?
「呪いを受けた人は、その魔術、かけた人物によって程度が変わりますが、解き方は同じです」
一息ついて、パームはもう一度口を開く。
「祈るのです。それだけ、と思うかもしれませんが、ヒーラーが心を込めて祈ることは効果があるのです。魔力量は関係ありません。信じる力が重要です。では、皆さん祈ってみましょう」
生徒達はパームの見様見真似で祈りだす。
「祈る方の事を思って、その人に幸せが訪れるようにと、願いながら祈るのです」
リンはマーサの左手を思い出す。火傷のような跡、動かない手……マーサの幸せを願って祈る。まだ治せなくても、いつかは治せるはず。そう信じてリンは祈った。
◇
教会にて授業を受けること数日、リンは祈る事が習慣になってきた。そして純粋に『幸せ』だけを思いながら祈る事が出来るようになってきたのだ。
「皆さん祈りの姿勢が身に付いてきましたね。良い兆候です」
パームは満足気に頷く。
「それでは、実技です。実際の呪いの魔術を解いてみます」
生徒達はざわつき始める。実際に呪いの魔術を受けた人を助けるのは、とてもハードルが高い。禁忌とされている魔法であり、受けた人など見た事がないのが普通だ。
「皆さん、前へ来てください」
パームが生徒を集める。皆、怖々席を立ち前へと向かう。
「こちらです」
机の上に広げられている本を指し示すパーム。そこには禁書と思われる本が数冊……禍々しい気配を漂わせている。
「シスターパーム、これは禁書では?」
一人の生徒が手を挙げ質問する。
「ええ。この禁書には呪いの魔術が記されています。私達シスターは、禁書を定期的に祈って浄化しているのです。そうしないと、魔術の影響か呪いが強いのか? 記載されている、呪いの魔術の効果が肥大していくのです」
皆、まじまじと禁書を見る。信じられないが、魔法の効果が変わるとは驚きである。
「では皆さん、一人一冊席に持って行って下さい。中は見ないように。祈りの効果は、あなた方なら見て分かるはずです」
リンも皆と同じく、禁書を机に置くと祈り始めたが、人でない本に、幸せを願って祈るのはとても難しい。周りを見渡すと、現シスターの何人かは慣れているのか、戸惑いもなく祈っているようだ。目を閉じ、祈る事に集中するリン。
徐々に集中していくと、周りの音が聞こえなくなっていき、しばらくすると色々な考えも頭から消えていく。
「皆さん、目を開けてください」
パームの声が聞こえて、皆目を開ける。と、禁書を見て驚いた。先程の禍々しさがなくなっている。先程とは別の本のようだ。
「祈りの効果がこれで分かりましたね?」
リンは、遂にマーサの左手を元に戻す時が来たと、密かに震えた。きっと、これが正解だと直感的にそう思った。
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