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魔導士は猫になりたい  作者: 紙絵


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22/30

デート?

 翌朝、教室に入るとエマが机に突っ伏していた。

 普段の元気さはどこへ行ったのか、リンたちは顔を見合わせる。

「エマ、どうしたの?」

「体調でも悪いの……?」

「救護室、一緒に行く?」

 顔を上げたエマはみんなの顔を交互に見つめ、何か言おうと口を開き掛けたが、結局また重そうに閉じてしまった。

「大丈夫……ちょっと疲れちゃってただから」

「そう……?」

 授業中も明らかに「心ここにあらず」な様子のエマを見て、リンは気が気でなかった。昨夜、レイから聞いた話をふと思い出したからだ。


 〜〜


「王太子様の妃選びの舞踏会があってね、エマ殿も出席するようだよ」

「え! 舞踏会かぁ。レイと出会った時以来行ってないなぁ。あれ、王太子様って……」

「王太子様は私の弟だよ。そのうち紹介するね」

 ニッコリ微笑むレイ。

「レイと同じ名字だなとは思ってたけど、そうだったんだね。でも私、正体がバレないかな?」

「リンの正体が万が一バレたとしても、それを他人に漏らすような男じゃないから大丈夫だよ」


 〜〜


 休み時間、リンはそっとエマの隣に移動し、耳元で密かに囁いた。

「エマ……もしかして、昨日の舞踏会で何かあったの?」

エマの肩が跳ね上がり、素早くリンを見返す。

「な、なんでそれを……!?」

「あはは、ちょっと噂で……」

「噂……? そっか」

 エマはリンと廊下に出る。周囲に人がいないことを注意深く確かめると、リンの耳元に口を寄せた。

「実はね、舞踏会で知り合った方と、今度の休みに会う事になってるの」

「えっ……!」

 エマは王太子のことを伏せているが、リンはすべてを知っている。

「ええ。まさか私に興味を持つとは思わなかったから、もうずっと緊張しっぱなしで……考えるだけで疲れちゃって……」

 エマは深く息を吐いた。

「せめて二人きりじゃなきゃいいのに。このままだと緊張でもたない……そうだ!」

 急にガタッと立ち上がったエマが、パッと目を輝かせてリンを凝視する。

「リン、お願い! 一緒に来て!」

「はい!?」

「『友達を同伴したい』ってお願いすればいいのよ! ね、お願い!」

 

 王太子様とのデートについて行くなんて、絶対に嫌!

 

「お願い! 友達でしょ?」

 エマが子犬のような目をしてリンに迫る。

「でもでも、私なんかがいたら邪魔でしょ!」

 必死に抵抗するリン。両手を顔の前でぶんぶん振る。

「お父様に確認したらいいかしら。リン、次の休み絶対空けといてね!」

「いや、ちょっと待って! 私行くなんて言ってな……」

 リンの必死の抵抗も虚しく、エマは全く耳を貸さない。そこへ無情にも予鈴のベルが響き渡った。

「あ、授業が始まるわ。行きましょう!」

「あ、あの……」

 エマに強引に押し切られ、立ち尽くすリン。呆然としたまま教室へとと連れて行かれるのだった。


 ◇


「――というわけでレイ、エマと王太子様が……。でも、私が一緒に行ったら正体がバレちゃうかもしれないし……」

 屋敷に戻り、学校での一連の出来事をレイに伝えるリン。

「……なるほど。分かった!」

 静かに話を聞いていたレイは、意を決したように立ち上がった。

「私も行こう」

「はい?」

 

 なんだか話が噛み合っていないような……

 

「ロンに話を通してくるよ」

 言うや否や、レイは窓からふわりと飛び立っていった。

「ロンって……王太子様のお名前!? そうじゃなくてー!」

 

 リンの叫びも虚しく、しばらくして意気揚々と戻ってきたレイは「私も護衛として同行することになった」と嬉しそうに告げたのだった。


 ◇


 約束の日当日。リンはお城の巨大な門の前に立っていた。

「お城……久しぶりすぎてすごく緊張する。私……本当にバレないかな?」

「大丈夫だよ。髪色も違うし、十年前の小さな少女と今のリンじゃ誰も気づかないさ」

 リンの足元で、黒猫に変身したレイが優雅に伸びをする。

「そ、そうだよね……」

「あ、リン、エマ殿が来たよ」

 到着した馬車から、綺麗にドレスアップしたエマが降りてきた。

「リン! 来てくれて本当にありがとう」

「今回だけだからね!」

 釘を刺すリンに、エマは「分かってるって!」と笑い、その手を取ってお城の中へと足を踏み入れた。足元をそっと付いてくる黒猫の存在には、まったく気づいていないようだ。


 従者に案内された豪華な応接室には、二人の青年が並んで立ち、窓の外を眺めていた。

「やぁ、エマ殿。よく来てくれたね」

 黒髪の凛々しい青年——王太子ロンが柔らかく微笑む。

「お招きいただき、誠にありがとうございます」

エマが完璧な淑女の礼を執り、リンもそれに倣った。

「そんなにかしこまらなくていいよ」

「殿下、こちらは私の友人のリン・グラムと申します」

「初めまして、リン・グラムと申します。お目にかかれて光栄に存じます」

 

 よかった、噛まずに言えた……!

 

 密かに胸を撫で下ろすリン。

「初めまして、ロン・シャルンだ。そして、こちらは私の友人の——」

「……え!?」

 もう一人の金髪の青年の顔を見て、リンは思わず口を押さえた。

「初めまして、マドカ・ノーンと申します」

 そこに立っていたのは、なんとレイの従者であるマドカだった。


 一同が中庭へ移動した際、マドカがそっとリンに歩み寄り、耳打ちをしてきた。

「リン様、秘密にしていて申し訳ありません。殿下から『内密に』と強く頼まれていたもので……」

「本当に驚きました……」

「レイ様にも秘密にしていたので、後でどう怒られるか……」

 マドカがちらりと後ろを振り返ると、そこには目が怪しく光る黒猫が佇んでいた。


 あれ? これってエマ以外、全員身内なんじゃ?


 とんでもない事実に気がつき、リンは思わず可笑しくなってしまう。

「殿下とは魔法学校時代の友人なんです。「妃候補と会うからついて来てくれ」と頼まれまして、くれぐれも秘密にするようにと……殿下は絶対、面白がっていらっしゃいます」

 肩を落とすマドカに、リンはクスクスと笑いを漏らした。

「でも、知っているお顔がいて安心しました」

「私もいるぞ?」

 気付くと足元にいた黒猫がボソッと喋った。

「レイ! 猫の姿で喋っちゃダメ!」

 一方ロンは、コソコソ話している二人プラス一匹を横目で見守りつつ、エマに優しく語りかけていた。

「エマ殿は普段は何を?」

「魔法の勉強をしております。将来は魔導士になりたいのです」

「そうでしたか。私は魔導士にどうも縁があるらしい」

 ロンはどこか愛おしそうに目を細めた。

「殿下は、どうして私を誘ってくださったのですか?」

「そうだな。君が舞踏会で、私にも私の立場にもまったく興味が無さそうだったからだよ」

「興味がないことが理由になのですか?」

「あぁ。他の令嬢とは違う君が気になってね」

「はぁ。殿下は変わってらっしゃいますね?」

 屈託なく笑うエマ。ロンはその弾けたような笑顔を、眩しそうに見つめていた。


「なんだかあの二人……いい雰囲気ですね」

 マドカがこそっと話しかける。

「そうですね」

 頭を寄せ合い話すリンとマドカ。——次の瞬間、その間にぬっと黒猫が割り込んできた。

「ちょっと、レイ様」

「レイ!」

「二人とも距離が近い。もう少し離れなさい」

「ふふ、レイ様はリン様のことになると、本当に周りが見えなくなるんですから」

「マドカ、人に戻ってもいいか?」

「ダメですよ! エマ殿が驚きます!」

「そうか……」

 耳を落としてシュンとする黒猫だった。


 ◇


 エマが無事に帰路に就いた後、リンたちは城の奥深くに通された。


「リン殿、あなたには直接お礼が言いたかったんだ。兄さんを救ってくれて、本当にありがとう」

「そんな……! 私の方こそ、皆様には大変お世話になっております」

「ロン。リンは私の命の恩人であり、私の大切な人だ」

 猫の口からさらりと放たれた言葉に、リンは真っ赤になる。

「レイ! な、何を言っているの……!?」

「リン殿、どうかこんな兄ですが、よろしく頼みますね」

「は、はいっ!」

 王太子から頭を下げられ、リンは直立不動で叫ぶように返事をした。

「ふふ、リン。そんなに緊張しなくていいんだよ」

 光に包まれ、黒猫から人の姿になったレイが、リンの肩に手を置き寄り添うと顔を覗き込む。

「だって……王太子様だよ?」

「王太子の前に、私の弟だよ?」

「まぁ、そうだけど……」

「緊張してるリンもすごく可愛いけどね」

「も、もう……! からかわないで!」

 楽しそうにリンを見つめるレイ。その仲睦まじい様子を、ロンは温かい目で見つめていた。

 

「本当に仲が良いんだね」

「ええ。レイ様はリン様のことになると、まるで余裕がなくなりますから」

「兄さんのあんな人間らしい姿、初めて見たよ」

「私も最初は目を疑いました」


 レイとリンが先に部屋を辞したあと、二人きりになったロンとマドカは肩の力を抜き、学生時代の口調に戻った。

「で、ロン。エマ殿との感触はどうなんだ?」

「うん。エマ殿が全くその気が無いからね。長期戦で行くよ」

「君が女性に相手にされないなんて、生まれて初めてじゃないか?」

 学生時代のロンのモテぶりを知るマドカは、面白そうにニヤリと笑う。学生時代のロンは、それはそれはモテていたし、おそらく生まれた時からチヤホヤされているであろう。

「面白いよ」

 そう言うとロンは口元に笑みを浮かべた。

「まぁ、頑張って」

 友人に呆れ交じりのエールを送り、マドカも城をあとにしたのだった。

読んでいただき、ありがとうございます。

面白ければ星5、つまらなければ星1

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