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魔導士は猫になりたい  作者: 紙絵


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20/30

風邪

 学園から帰ったリンは、真っ直ぐにレイの執務室へと直行した。扉を叩くと、中から短く返事があった。

「リン様、お帰りなさい。どうされましたか?」

 顔を出したマドカ。やはり——

「マドカ様、これ私が作った風邪薬です。よかったら使ってください」

 リンがおずおずと差し出したのは、オレンジ色の小さな薬瓶。マドカは驚いて目を丸くした。

「流石です。よく気がつかれました」

「マドカ様、隠そうとしていても体調が悪いのは分かります。お声も少し荒れている気がしましたから」

「ありがとうございます。レイ様はまったく気付いてくださらなかったですが」

「いいえ、レイもきっと分かっていると思いますよ」

 微笑むリンに、マドカは不思議そうな顔を向けた。

 

「帰ったぞ。マドカ、これを使え」

 不意に窓からふわりと入ってきたレイが、マドカに紙包みを差し出した。

「レイ様! またそんな所から……一体どこへ行ってらしたのですか?」

 包みを受け取り中を見てマドカが止まった。中には瓶や紙に包まれた、薬らしき物が入っていた。

 包みを受け取り、中を確かめたマドカの手が止まった。そこには薬草の瓶や紙に包まれた、希少な薬らしきものがぎっしりと詰まっていたのだ。

「無理をさせてすまなかったな。マドカ、今日はもう休んでくれ」

 レイはいつも通りの無表情でマドカを見つめる。

「レイ様まで……」

「ん?」

 レイは扉の陰から、二人を眺めてニコニコと笑っているリンに気づいた。

「リン、何を笑っているんだ?」

「ううん、なんでもない」

「レイ様、リン様……ありがとうございます! こんな風邪など、すぐに治してまいります!」

 マドカは感動に目を潤ませながら、深々と一礼して執務室を出て行った。

 

 ソファに腰掛けるレイとリン。

「そうか、リンも風邪薬を作ってくれたんだね。リンは優しいね」

「レイこそ、すごく優しいよ」

 思わぬ返答に、レイはパチクリと目を丸くした。

「……リンが私を褒めてくれるなんて」

「そ、そんなに驚かなくても……」

 気恥ずかしさのあまり、リンは俯いてしまう。

「茶化したわけじゃないよ。……すごく嬉しい」

 レイは柔らかく微笑むと、そっとリンの頭を撫で始めた。耳まで真っ赤にしていくリンの反応を、レイはどこか楽しんでいるようだ。

「レ、レイ……私、猫じゃないんだから……!」

「そうだね」

 口では頷きつつも、レイがその手を止める気配はまったくなかった。


 ◇


 早朝の魔法の特訓は、すっかり二人の日課となっていた。

「リンはやっぱり筋がいいよ。素晴らしい才能だ」

 レイが汗ひとつかかずに爽やかに褒める。

「ありが……とう……」

 対するリンは、肩で息をして絶え絶えである。


 なんであんなに魔法を連発して使ってるのに、レイは全然疲れていないんだろう?


「私だけ、毎回息が上がってるのはなぜ……」

 ぼそっと呟いた言葉を聞いたレイ。

「それはね。私は節約してるんだよ」

「節約?」

「リンは魔力が絶大だから気にしなくても足りるけど、魔力も体力と同じで使えば減るでしょ? だから、必要最小限で最大の効果が出るように、的確に使うんだ」

「なるほど……。頭でわかっても、実際にやるのは難しいね」

「訓練あるのみだよ。——じゃあ、もう一回やってみようか」

「は、はい」

 普段はリンに甘いレイだが、特訓中だけは「優しい口調のまま容赦なく厳しい」スパルタ教官へと変貌するのだ。

 レイが手のひらを開くと、無数の光の弾がリンに向かって一斉に放たれた。リンは集中力を研ぎ澄まし、防御魔法でそれらをことごとく弾いていく。無駄な魔力を使わぬよう、光がぶつかるピンポイントにだけ最小限の盾を展開する——高い集中力と精密なコントロールを要求されるこの訓練は、リンにとってかなりの重労働だった。


 今のリンが何も考えずに相手に攻撃したら、威力が凄まじすぎて周辺を巻き込んでしまう恐れが多いにある。逆に、コントロールすることさえ覚えてしまえば、リンに叶う魔法使いはほぼいないだろう。


 レイの意図と期待を感じ取りながら、リンは深く息を吐き、再び鋭い眼差しで集中を高めていくのだった。

読んでいただき、ありがとうございます。

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