隣町デリウト
学園では、マドカが先生達の身辺を探っており、先生の中に弟子はいないと結論付けた。
あの課外授業での馬小屋の小火は、やはり火元がわからなかった。自然発生は考えにくい事から、人為的なものだということだ。
◇
「おはよーライラ」
「おはよう」
リンは教室にいたライラに挨拶する。
そういえば……
「ライラ昨日天体観測の合間にどこに行ってたの?」
リンは俯いたままこちらを見ない。
「……別に。リンに関係ない」
「まぁ、そうなんだけど」
リンはライラの隣に座った。鞄から教科書を出していると、視線を感じた。ライラがじっと見ている。
「どうかした?」
「なんで隣に座ったの? 今リンに酷い事言ったのに」
理解できないものを見るような目だ。
「だって友達だから。酷い事言われたとは思ってないよ? 言えないことだって、皆あるだろうし」
私も魔導士のレイと一緒に住んでいる事は言えないし、そもそも実は死んだことになってる姫だって事も言えないし……
ライラは目を丸くしている。
「と、友達」
「違うの?」
「ううん、そう、だね」
俯くライラは少し頬が赤い。照れているようである。リンは、そんなライラを妹のように感じて微笑ましくなった。
事件は突然起きるものだ。
その夜、隣町が炎に包まれた。
一報が入ったのは真夜中。マドカの緊迫した声が聞こえる。
「それは……分かりました! すぐに向かいます」
電話を切ったマドカはレイの部屋へと向かう。ドアをノックする前に、扉が内側から開いた。そこにはすでに準備の整ったレイが立っていた。
「レイ様!」
「マドカ、何かあったのか?」
「はい。隣町のデリウトが魔法使いに襲われていて、至急応援に来てほしいと!」
「わかった。行くぞ」
リンはレイがそっとベットから抜け出したのに一瞬気が付いたが、眠気に負けてまどろんでいた。
何か聞こえる……レイ?
二人の話し声に起きると、バタバタと歩く音がする。ドアをそっと開けると、丁度レイとマドカが通り過ぎる所だった。
リンに気が付いたレイが立ち止まる。
「リン、起こしちゃった?」
「何かあったの?」
「うん。例の魔法使いが現れたんだ。行ってくる」
「レイ様、急ぎましょう」
マドカが声をかける。
「あぁ」
リンの頭をポンとして、レイは歩き出す。
「私も行く!」
リンは、二人を追いかける。
「リン、危険だ」
「お願い!」
二人は顔を合わせ、マドカが頷く。レイはため息をつきつつ、口を開いた。
「分かった。時間がないから、詳細は移動しながら話す」
「うん!」
リンはパジャマ姿のまま馬車へと乗り込んだ。
「町に被害が出ているらしい。リンには怪我人の処置をお願いする。が、その格好で外には出せないな、これを着て」
レイは自分の上着を渡す。
リンは黙って頷くと、袖を通した。ジャケットはだいぶ大きかったが、ないよりはましであろう。
隣町デリウトは火の海だった。家々の火が周辺の林に燃えうつっている。家が倒壊し、煙が立ち込める。ほとんどの人は非難したと聞いたが、消火が追いついていないようだ。
レイは手を頭上へかかげた。手を開くと大きな水の玉が出現する。水の玉は空高く舞い上がり、飛散する。雨のように町へ水を降らすと、燃えていた炎がだんだん小さくなっていく。
リンの村でレイが使った魔術である。
マドカが両手を前へ突き出し、魔術を唱えると風が巻き起こった。その風を使い、煙を空へと散らしていく。
二人のコンビネーションに釘付けになっていると、微かに助けを呼ぶ声が聞こえた。
「レイ! あの家の中に人がいる!」
レイが走り出し、慎重にドアを開ける。その家は傾いていて、いつ倒れてもおかしくない。
「レイ!」
「リンはそこにいて」
すっと中に入る。マドカも他の救助者を探して走り回っている。待つ時間が長く感じ、もどかしい。その時、ミシミシっと家が軋む音が大きく響いた。
「あっ」
柱が歪んだと思った途端、屋根から壁から崩れていく。リンはその場から動けなかった。
まだ中にレイが……
「レイ!」
大きく叫ぶリン。
倒壊した家の残骸、ボンっという音と共に人影が飛び出した。
「びっくりした……」
一人の少年を脇に抱えて、レイが立っていた。全身に防御魔法を使ったようである。
「リン、この子足に怪我してるんだ。みてあげて?」
「レイ……よかった」
リンは少年へ回復魔法を施す。少年の強くつぶられた瞼がゆっくり開いた。
「あ、ありがとうございます」
「いえ」
リンは少年を見ると微笑んだ。
「リン様、こちらにも怪我人がおります!」
マドカの声が聞こえる。
「はい!」
リンは立ち上がると、瓦礫がまみれの道を走る。それを見ていたレイも、少年を騎士団へ預けると周りを警戒する。
例の魔法使いが潜んでいる気配はない。
「逃げたか……」
目的も何もわからない。ただ壊すことを楽しんでいるのだ。レイは息を吐くと、救助活動へと戻った。
一晩中、回復魔法を使っていたリンは馬車の中で眠っていた。
騎士団が異変を察知したのが早かったのと、レイ達の活躍もあり、幸いにも怪我人だけで済んだ。この規模の攻撃を受けて、死者が出なかったのは不幸中の幸いである。
レイはリンを膝枕しながら、優しい表情で見下ろす。
「おやすみ、リン」
優しく頭を撫でるのであった。
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