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魔導士は猫になりたい  作者: 紙絵


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13/39

隣町デリウト

 学園では、マドカが先生達の身辺を探っており、先生の中に弟子はいないと結論付けた。

 あの課外授業での馬小屋の小火は、やはり火元がわからなかった。自然発生は考えにくい事から、人為的なものだということだ。


 ◇


「おはよーライラ」

「おはよう」

 リンは教室にいたライラに挨拶する。


 そういえば……

「ライラ昨日天体観測の合間にどこに行ってたの?」

 リンは俯いたままこちらを見ない。

「……別に。リンに関係ない」

「まぁ、そうなんだけど」

 リンはライラの隣に座った。鞄から教科書を出していると、視線を感じた。ライラがじっと見ている。

「どうかした?」

「なんで隣に座ったの? 今リンに酷い事言ったのに」

 理解できないものを見るような目だ。

「だって友達だから。酷い事言われたとは思ってないよ? 言えないことだって、皆あるだろうし」


 私も魔導士のレイと一緒に住んでいる事は言えないし、そもそも実は死んだことになってる姫だって事も言えないし……

 

 ライラは目を丸くしている。

「と、友達」

「違うの?」

「ううん、そう、だね」

 俯くライラは少し頬が赤い。照れているようである。リンは、そんなライラを妹のように感じて微笑ましくなった。


 事件は突然起きるものだ。

 

 その夜、隣町が炎に包まれた。

 一報が入ったのは真夜中。マドカの緊迫した声が聞こえる。

「それは……分かりました! すぐに向かいます」

 電話を切ったマドカはレイの部屋へと向かう。ドアをノックする前に、扉が内側から開いた。そこにはすでに準備の整ったレイが立っていた。

「レイ様!」

「マドカ、何かあったのか?」

「はい。隣町のデリウトが魔法使いに襲われていて、至急応援に来てほしいと!」

「わかった。行くぞ」


 リンはレイがそっとベットから抜け出したのに一瞬気が付いたが、眠気に負けてまどろんでいた。


 何か聞こえる……レイ?


 二人の話し声に起きると、バタバタと歩く音がする。ドアをそっと開けると、丁度レイとマドカが通り過ぎる所だった。

 リンに気が付いたレイが立ち止まる。


「リン、起こしちゃった?」

「何かあったの?」

「うん。例の魔法使いが現れたんだ。行ってくる」

「レイ様、急ぎましょう」

 マドカが声をかける。

「あぁ」

 リンの頭をポンとして、レイは歩き出す。

「私も行く!」

 リンは、二人を追いかける。

「リン、危険だ」

「お願い!」

 二人は顔を合わせ、マドカが頷く。レイはため息をつきつつ、口を開いた。

「分かった。時間がないから、詳細は移動しながら話す」

「うん!」

 リンはパジャマ姿のまま馬車へと乗り込んだ。

「町に被害が出ているらしい。リンには怪我人の処置をお願いする。が、その格好で外には出せないな、これを着て」

 レイは自分の上着を渡す。

 リンは黙って頷くと、袖を通した。ジャケットはだいぶ大きかったが、ないよりはましであろう。


 隣町デリウトは火の海だった。家々の火が周辺の林に燃えうつっている。家が倒壊し、煙が立ち込める。ほとんどの人は非難したと聞いたが、消火が追いついていないようだ。


 レイは手を頭上へかかげた。手を開くと大きな水の玉が出現する。水の玉は空高く舞い上がり、飛散する。雨のように町へ水を降らすと、燃えていた炎がだんだん小さくなっていく。

 リンの村でレイが使った魔術である。

 マドカが両手を前へ突き出し、魔術を唱えると風が巻き起こった。その風を使い、煙を空へと散らしていく。

 二人のコンビネーションに釘付けになっていると、微かに助けを呼ぶ声が聞こえた。


「レイ! あの家の中に人がいる!」

 

 レイが走り出し、慎重にドアを開ける。その家は傾いていて、いつ倒れてもおかしくない。

「レイ!」

「リンはそこにいて」

 すっと中に入る。マドカも他の救助者を探して走り回っている。待つ時間が長く感じ、もどかしい。その時、ミシミシっと家が軋む音が大きく響いた。

「あっ」

 柱が歪んだと思った途端、屋根から壁から崩れていく。リンはその場から動けなかった。


 まだ中にレイが……


「レイ!」

 大きく叫ぶリン。


 倒壊した家の残骸、ボンっという音と共に人影が飛び出した。

「びっくりした……」

 一人の少年を脇に抱えて、レイが立っていた。全身に防御魔法を使ったようである。

「リン、この子足に怪我してるんだ。みてあげて?」

「レイ……よかった」

 リンは少年へ回復魔法を施す。少年の強くつぶられた瞼がゆっくり開いた。

「あ、ありがとうございます」

「いえ」

 リンは少年を見ると微笑んだ。


「リン様、こちらにも怪我人がおります!」

 マドカの声が聞こえる。

「はい!」

 リンは立ち上がると、瓦礫がまみれの道を走る。それを見ていたレイも、少年を騎士団へ預けると周りを警戒する。

 例の魔法使いが潜んでいる気配はない。


「逃げたか……」


 目的も何もわからない。ただ壊すことを楽しんでいるのだ。レイは息を吐くと、救助活動へと戻った。


 一晩中、回復魔法を使っていたリンは馬車の中で眠っていた。

 騎士団が異変を察知したのが早かったのと、レイ達の活躍もあり、幸いにも怪我人だけで済んだ。この規模の攻撃を受けて、死者が出なかったのは不幸中の幸いである。

 レイはリンを膝枕しながら、優しい表情で見下ろす。

「おやすみ、リン」

 優しく頭を撫でるのであった。

読んでいただき、ありがとうございます。

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