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魔導士は猫になりたい  作者: 紙絵


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12/30

星と妖精

 夜の七時、薄暗い中ランプを持って生徒達が学園へと入っていく。

 今日は天体観測だ。星を見て、未来のことを占う授業である。もちろん星は夜にならないと見えないので、夜に学園集合という事になる。普段の時間と違うだけなのに、わくわくしてしまうのは何故だろう。


「リンこんばんは」

「カナタ、こんばんは」

 課題授業の後から、カナタとの距離が縮まった気がするリンである。

「今日晴れてよかったね!」

「そうだね! これなら星もよく見えそう」

 屋上に集合する。涼しい風が吹いている。ランプに照らされて、皆の顔がオレンジ色に見える。

 星読みの先生が授業を始める中、リンは魔法使いの弟子の事を考えていた。


 この学園にその弟子がいるのは何故だろう? 魔法を学びに来ているわけではないだろうし、多分、何かを探りに潜入している。きっと勉強も、魔法も出来る優秀な者であろう。

 リンのクラスで一番成績がいいのは……ライラ・スタイナー。でも、ライラは最年少での入学という事で注目されている。潜入している者が目立つような事をするだろうか……それに、ライラは女の子である。情報では弟子は男のはずだ。


「リン、星の説明聞いてた?」

 エマが話しかけてきた。

「う、うんー? 少しだけ」

 正直考えに夢中で、全然聞いていなかった。

「あの星が金星、あっちが木星、星の並びや見え方で未来を占うんだって! ほら、教科書と磁石出して」

 空を見ながら教科書と照らし合わせる。

 二人で楽しく星を見ていると、夜の森に人影が消えていくのが見えた。


 今のは……レイモンド先生?

「あ。私ちょっとトイレ」

「うん? 分かった」


 リンは急いで森へ走った。弟子には先生もありうる、という選択肢を忘れていた。まさかレイモンド先生が……何処へ行くのだろう?


 後を追いかけると、どんどん森へ入っていく。湖の畔で、レイモンド先生が立ち止まるのが分かった。リンは気付かれないように、そっと木に隠れる。


「おいで、怖くないよ」

 レイモンド先生は何かに語りかけている。

 優しい小さな光が次々と現れる。それは一つ一つは小さいが、集まってぼうっと幻想的に光っていた。

 光は先生の周りを飛び、湖の上を舞う。蛍のようなそれは、妖精だ。深い森の中や、綺麗な水辺に現れる。


 レイモンド先生は妖精の生態を研究していたんだっけ……そう言えばこの前、授業でも言っていた気がする。怪しいと思って付いてきた自分を、恥ずかしく思いながらリンはそっと森から戻ろうとして……小枝を踏みつけてしまった。

 バキッ!

 暗い森に響く音。これは確実にバレた。

「誰かそこにいるのか?」

 レイモンド先生が声をかけた。妖精達も動きを止める。

「ごめんなさい。先生が森に行くのが見えて、興味本位でついてきてしまいました……」

 リンは正直に進み出た。

「リン・グラムさん、君も妖精に興味が?」

 ん?

「え、えぇ! 実は初めて見ました」

「そうなのかい! こちらへおいで、今日は新月だからね。妖精の光が綺麗に見えるんだよ!」

 レイモンド先生は、生徒が妖精に興味を持った事が嬉しいらしく、とても好意的にリンの尾行を受け止めてくれた。

 良かった……

 ほっと息をつき、妖精の光を目で追う。

「妖精はね、とてもおしゃべりなんだ。でも早口すぎて、人間にはうまく聞き取れない」

「へぇ……」

「妖精はね。気に入らない人間には姿を見せないんだ。グラムさんは気に入られたんだね」

「それは嬉しいです」

 しばらくレイモンド先生の妖精談義を聞いていたが、そろそろ戻らないとまずい。

「レイモンド先生、私天体観測に戻らないと……」

「おお! そうか、悪いな引き止めて! また妖精について質問があったら気軽に聞いてくれ」

 森を抜けると、校舎の方からボヤッと光が見えた気がした。

 あそこにも妖精が?

 気になったが、早く戻らないと怒られる。リンは屋上へ走った。


「リン遅かったじゃん。何してたの?」

 屋上へ戻ると、エマがコソッと話しかけて来た。

「えへへ、ごめん」

「もう、ライラもいなくなっちゃったし、カナタは向こうで星に夢中だし、つまんなかったんだから」

 ライラもいない?


「ライラどこ行ったのかな?」

「知らなーい」

 エマは興味がなさそうである。


 ◇


「ただいま」

「おかえり、リン」

 お屋敷に帰るとレイが出迎えてくれた。何故か猫姿である。

「天体観測はどうだった?」

「うん、星って奥深いなぁって」

 浅い感想しか出てこない。

「そういえば、レイモンド先生が妖精と湖で話してて綺麗だったよ」

 レイがじっとリンを見つめる。

「……リン、湖って森の奥だよね? もしかして、行ったの?」

 黒猫の声音が少し冷ややかになる。

「あ、えっと、森に行く先生が見えたから、魔法使いの弟子かもって思って……」

「追いかけたんだ? リン、そんな危険な事もう絶対しないでね」

 普段温厚な人が怒るのは、なぜこうも迫力があるのだろう? 姿は猫なのに。

「ううっ、ごめんなさい」

「リン、もうすぐ夏休みだよね? 休み中、私と特訓しようか」

「え? レイと特訓?」

 レイは口元だけで笑った。


 ◇


 天体観測の最中、少年は校舎の中にいた。

 外では生徒の声が聞こえる。人気のない校舎の中に足音が響く。柱の影に人がいるのが確認できた。

「どうしてあなたがここに?」

「ふっ、お前に会いにきたのにその言い草はないだろう?」

 フードを被ったその男はニヤッと笑う。

「見つかったらどうするのですか?」

「その時は……そうだな」

 何か物騒な事を考えてニヤついている。少年は口を開いた。

「で、要件は?」

「ふん。お前は毎回単刀直入だな。まぁいい」

 フードの男は少年を見据える。その目が月明かりで光った。

「魔導士の弟子は見つけたか?」

「いえ、まだ……」

「と思って、俺が直々に様子を見にきたんだが、しかし、見た所どうもピンと事ない」

「そうですか」

 少しほっとした表情をした少年を、フードの男は見逃さなかった。

「お前は先に禁書を奪え」

「分かりました……」

「なんだ?」

「いえ、その……母さんと弟は」

「生きてるよ」

 少年がほっと息を吐く。フードの男がニヤッと笑う。

「まだな」

「!」

「では」

 フードの男は何処かに去っていった。少年はその場でしばし立ちすくむ。その拳は強く握られていた。

読んでいただき、ありがとうございます。

面白ければ星5、つまらなければ星1

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