仕返し
課外授業のレポートをまとめ、さて寝るかと言う時、ノックの音がした。
「どうぞ」
リンが声をかけると、黒猫姿のレイがトボトボ入ってきてベットに飛び乗った。
「リン、今日は邪魔してごめん」
思わぬ言葉に、リンは一瞬言葉を失った。
「え、うん。わかればいいの。私もボサボサにしてごめん」
リンもレイの隣に腰掛ける。風が吹き、レイが人に戻った。
「じゃあ仲直りのハグしていい?」
「え? ハグ?」
答える前に、レイがリンをぎゅっとする。そして頭を撫でる。
ん? これはもしや……
「リンもいっぱい撫でてあげる」
「ちょっとレイ! いいってば」
嫌がるリンのことはお構いなしで、撫で回されてボサボサのリン。
「クク、リンの髪の毛すごい」
レイが涙目で笑っている。
「もぉー!」
リンもレイの髪をボサボサにしようと頑張るが、背の高さと力の強さで全く歯が立たない。
「ごめんね。ちょっとからかっただけだよ」
ようやく笑いが収まったレイが謝る。
「あと、報告があってね」
「報告?」
まだ息が上がっているリンがレイを睨む。
「回復魔法を選択している生徒の中には、魔法使いの弟子はいない」
「……そっか」
ほっとするリン。人を癒す行いをする者の中に、悪い弟子がいなかったことは嬉しい。
「私が様子を見に行ったのも、確認したかったからね。まぁ、リンの様子を見たかったのも本当だけど」
レイがリンの手を握る。
「じゃあ寝ようか」
「わっ!」
リンをぎゅっと守るように包むと、横になる。
「おやすみ」
「……おやすみ」
この魔術士は、なぜそんなに私に懐いているのだろう?
抵抗しても無駄だと分かったリンは、そのまま眠りについた。
◇
魔法使いの弟子探しは、思ったより進まなかった。男であり、今年学園へ入った者(職員含む)は、そんなに多いわけではないのだが、決定打がなく、裏を探っても辿りつかない。
レイとマドカとリンは、レイの部屋で意見を出し合っていた。
「弟子の身元をはじめから作るのは大変です。やはり何か弱みを握って従わせているのでは?」
マドカが指摘する。
「それはない話ではないな」
レイも同意する。
「そもそも女ってことは……?」
リンも質問をぶつけるが、
「いや、男だと言う情報は間違いない」
この情報をもたらした者は、余程優秀らしい。
「今年入学した男性の素性は一通り調べましたが、怪しいと感じる者はいなく……」
「そうか。リンは誰か怪しい者に心当たりはない?」
レイは優しい声で対応する。
「……怪しいかは分からないけど、この前の課外授業で小火騒ぎがあって、私の友達が怪我をしたの」
「あぁ、カナタ・バーグですね」
マドカがすかさず答える。
「はい。馬小屋で小火って聞いたんですけど、なんで普段火を使わない、馬小屋なんかで火が上がったんだろうって不思議で……」
考え込むリン。
「それは私共も不審に思っておりましたが、身元の確認を優先していました。原因も詳しく調べてみましょう」
マドカが頷く。
「すごいねリンは」
レイが微笑む。相変わらずリンに甘いレイである。
「引き続き、学園での弟子探し、宜しくお願いします」
マドカがリンへ礼をした。
「はい!」
リンは返事を返した。
◇
日曜日、リンはマーサの部屋にいた。
「マーサ、左手を出して」
リンとマーサはソファに腰掛け、向かい合う。魔法学園で、ヒーラーとしての腕を磨いているリンは、新しい回復魔法を覚えると、日曜日にマーサの元へと向かうのが日課になっている。
「いくよ?」
リンはマーサの手を優しく握る。温かい光に包まれ、そして消えた。
「どう?」
「残念ながら、変わった様子はありませんね」
優しく微笑むマーサ。
「そう……これもダメか」
項垂れるリンに、マーサは優しく声をかける。
「リン様の優しさを感じるだけで、私は幸せな気持ちになっておりますよ」
「まだまだ勉強不足って事だね」
リンは鼻息荒く立ち上がる。
この魔法も効かないなら、やっぱり怪我や精神の問題じゃないのかも……明日の授業で、他の可能性について先生に聞いてみよう。
リンは忙しく思考を始めた。
「リン様、ありがとうございます」
「お礼を言うのは成功してからに」
リンはマーサを見て微笑んだ。
レイのお屋敷に来てから、有名な医者にマーサの左手を見てもらったが「動くようになるのは難しい」との診断を受けている。マーサ本人はとっくに諦めているが、リンは何とかしたいと思っている。
なぜならマーサは左利きであり、絵を描くことが得意だった。リンはもう一度、マーサの描く絵が見たいのだ。
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