課外授業
今日は課外授業の日。リンは動物病院へ行く事になっている。
ヒーラーは傷を治したり、痛みを緩和したりする。因みに、病気を瞬く間に治したり、死者を蘇らせたりはできない。
「皆様、私について来てくださいね」
引率するのは、回復魔法の教師であるサリーだ。彼女は修道院でシスターもしている。この授業の生徒達は同じく、シスターが多い。
学園からさほど遠くない動物病院に着くと、早速実践授業開始である。
大きいこの病院は、その分患者も多い。相手が動物でも清潔に保っていられるのは、スタッフが働き者だからである。
リン達は、待合室で待機している患者の相手を任された。
症状の確認を病院スタッフと共に行い、必要なら症状を楽にする魔法を施す。
「本日はどうされましたか?」
「足を怪我してしまって……」
飼い主の紳士は心配そうに籠の中を見ている。
「様子を見てもいいでしょうか?」
「はい。お願いします」
籠の中には子犬が丸くなって震えていた。子犬からしたら、病院は怖いだろうし、怪我をした足も痛いだろう。籠から外に出すが、やはり元気がない。
「この怪我ならすぐ治りますよ。リンさん、回復魔法してあげて」
「はい」
病院スタッフに指示され、リンが手を子犬に添えると、柔らかな光が子犬を包んだ。
不安そうにしていた子犬は痛みが消えたのに気付き、嬉しそうに尻尾を振って立ち上がった。
「おお!」
飼い主も嬉しそうである。
「ありがとうございます」
「念のため、あとで先生の診察も受けましょうね」
スタッフがフォローを入れつつ、リンに向かって微笑んだ。
「リンさん、初めてにしては上々ね!」
病院スタッフに褒められて、リンは頬を赤らめた。
「ありがとうございます! 頑張ります!」
「じゃあ、次は一人でやってみましょうか。症状を訊いて、必要だったら回復魔法を使ってみてね。その後報告お願い」
「分かりました!」
リンは籠を持った、眼鏡のおばあさんに話しかける。
「本日はどうされまし……ええ!」
「リンさん? どうかした?」
リンの大きな声に、スタッフの女性がこちらを見た。
「あ、いえいえ! 何でもないです!」
リンは慌てふためく。
「そう。何かあったら教えてね」
「は、はーい……」
冷や汗を流すリンを、おばあさんが眼鏡の奥からチラリと見つめる。
「リン様、しっかりやっていただかないと困りますよ?」
「マーサ何でここにいるの……!」
リンは声のトーンを極限まで落として囁いた。
「それは、レイ様にお願いされたからよ」
籠にかかっている布の隙間から頭を出した黒猫は、綺麗な紫の瞳でリンを見ている。
「レイ、ダメでしょ! マドカ様は知ってるの?」
「そんなの秘密に決まってるじゃないか」
黒猫は全く悪びれる様子はない。
「リンの様子を見に来たんだよ。マーサも誘ったら、意気投合したんだ」
何やら楽しそうである。
「もう! バレたら困るから、早く帰ってね!」
「リンが私を猫扱いしてくれたら帰るよ」
レイがじっとリンを見る。
「はぁ」
リンは諦めると、黒猫を抱き上げ、頭を撫でた。沢山。ちょっと強めに。
「かわいい猫ですねーー。もう大丈夫です!」
そして籠に、撫で回されてボサボサになったレイを入れると、布をかぶせた。
「お大事に〜〜」
リンは笑顔で手をふり、その場を離れた。予期せぬ扱いに目を丸くするマーサ。
勝手についてきたレイが悪いのだから気にしないことにした。
◇
その後も患者の対応をしつつ、初めての課外授業は無事に終了した。すっかり夕方になり、静まり返った学園へ戻ると、教室にカナタがぽつんと残っていた。
「カナタ、どうしたの? まだ帰らないの?」
「今帰るとこだよ。ちょっと課外授業で怪我しちゃって、手当てをしてもらってたら遅くなっちゃったんだ」
「怪我!?」
「うん。腕に火傷をね。でも、もう何ともないよ」
見せてくれた左腕は本人の言う通り、怪我をした形跡は消えていた。
「カナタの方は、どんな授業だったの?」
リンは心配そうにカナタの隣に座った。
「騎士のパトロールに同行したんだ。そしたらそこで火事があって……小火だったから、消化の練習をしてみないかって言われて、ライラと一緒に建物に入ったんだ」
現場は馬小屋だった。馬も避難しており、カナタは水の魔法で消化を任された。
火の手に向かって水の魔法をぶつけようとした時……
「急に強い風が吹いて、火の粉がこっちに飛んできたんだ。その時は無我夢中で、熱さなんて我慢して消し止めたんだけど、後になってじわじわ痛くなってきてさ。……情けないよね」
カナタは力なく苦笑した。
「火、怖かったでしょ? でも水の魔法で対処できたなんて、カナタ凄いよ!」
言いながら、リンは過去の火事の出来事を思い出していた。
あの時、私は何もできなかった。
「でも、一緒にいたライラは、防御魔法で自分の身を守っていたんだ。防御魔法なんて僕まだ使えないから……余計に落ち込んじゃって」
「そんなの、これから覚えればいいだけだよ。カナタは頭いいんだから、すぐできるようになるよ!」
リンはいつも勉強を教えてくれるカナタを、尊敬している。それに——
「出来ない事を、出来るように学ぶのが学園でしょ?」
リンが胸を張って言い切ると、カナタの表情がふっと和らいだ。
「……うん。ありがとうリン」
「どういたしまして!」
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