第95話:【連携禁止】危険だから三人を離す? 断る
金色の通路に足を踏み入れた途端、表示が出た。
【危険区域への侵入を確認】
いきなり怒られた。
「知ってる」
【安全区画へお戻りください】
「戻らない」
【強く推奨します】
「強く断る」
「玲司、施設と喧嘩しないで」
操が横から言う。
「向こうから話しかけてくるんだ」
「会話成立してねえけどな」
海斗の言う通りだった。振り返ると、開いた壁の向こうにセバスとルナがいる。
「セバス」
「はい、救助者殿」
「ここを頼めるか」
俺たちが入ったあとで、この道まで閉じられたら面倒だ。姉貴を連れて戻る時に、帰り道が必要になる。
「承知いたしました」
セバスは迷わず一礼した。
「帰還経路はこちらで維持いたします」
「ルナも頼む」
「にゃ。姫様連れて戻ってくるにゃ」
「ああ」
それで十分だった。前を向く。ここから先は、三人で行く。
「変身するぞ」
「この中で?」
「この先、もっと面倒になる」
「まあ、そうよね」
操が小さく息を吐き、海斗も肩を回した。
「どうせまた言わされるんだろ」
「諦めろ」
「お前が言うな!」
三人の足元に光が走った。黒銀、赤、氷青。光が全身を包み込んでいく。
〝闇を裂き、希望への道を切り拓く――黒銀の勇者!〟
「始まった」
〝黒瀬レイ――ブラックシルバー!〟
「止められないの?」
「無理」
〝炎をまとい、仲間の明日を守り抜く――紅き盟友!〟
「毎回思うけど盟友って恥ずかしいんだよ!」
〝白鳥海斗――シャインレッド!〟
〝凍てつく刃に想いを宿し、愛しき英雄の隣に立つ――氷雪の姫君!〟
操の眉間に皺が寄った。
「玲司」
「俺に言うな」
〝五月雨操――アイスプリンセス!〟
そこから先も、腕が勝手に動き、身体が勝手に並び、いつもの長い口上が続いていく。
〝――トリプル見参ッ!!〟
三人同時に決めポーズが完成した。
「……」
「……」
「……」
【危険行動を確認】
「こいつだけ冷静だな」
「腹立つわね」
「行くぞ」
「切り替え早っ!」
走り出す。金色の通路は、王室避難宮よりも明らかに古かった。白い壁に継ぎ目のない床。その中を、無数の金色の線が奥へ流れている。俺たちが進むたびに、その線が赤く変わった。
【高危険度装備を確認】
【安全確保のため武装解除を推奨します】
「断る」
操が即答する。
【刃物は負傷の原因となります】
「便利なのよ」
【火炎能力は火傷の原因となります】
「便利なんだよ!」
海斗も言い返した。
【身体能力の過度な強化は――】
「俺だけ説明長そうだから無視するぞ」
「正解」
その時、前方の床が光った。
「止まれ!」
三人同時に足を止める。半歩先に、金色の円が浮かんでいた。
【危険区域からの強制退避を実施します】
「転移だ」
円が一気に広がる。
「操!」
「分かってる!」
氷が走り、床の金色の線を覆った。転移陣の広がりが鈍る。
「海斗、後ろ!」
「来てる!」
振り返らなくても分かる。背後から、巨大な白い壁が迫っていた。海斗が両腕を広げると赤い結界が展開し、ドンッと通路全体が揺れた。
「重っ!」
「保護用の壁だろ!」
「保護の圧じゃねえ!」
「三秒頼む!」
「五秒持たせる!」
十分だ。凍りついた転移陣の奥を見る。魔力は消えていない。一本だけ、床ではなく右の壁へ流れていた。
「操。右の壁、下から二つ目」
「これ?」
「ああ」
剣が走る。斬ったのは壁ではなく、その手前を走る金色の術式だった。氷が食いつき、光が止まる。
【退避機構の異常を確認】
「今!」
三人で駆け抜けた直後、転移陣が光を取り戻し、背後に金色の柱が立った。
「危なっ!」
「止まるな!」
次の区画へ飛び込むと、扉が閉まった。その瞬間、ゴンッと左右の壁が動いた。
「玲司!」
操との間に、白い隔壁が落ちた。
「操、そのまま前!」
「分かった!」
「え!?」
海斗が俺を見る。
「助けに行かなくていいのか!?」
「必要ない」
壁の向こうで、キィン――と氷が弾ける音がした。次の瞬間、隔壁の可動部が凍りついて途中で止まり、その下を操が滑り込んでくる。
「二秒」
「早いな」
「誰に言ってるの?」
「はいはい! 信頼してるのは分かったから進もうぜ!」
海斗が後ろから押してきた。走り出す。
【複数人での危険区域進行を確認】
【集団事故防止のため分散誘導を開始します】
「今度は何だ!」
海斗の声と同時に、前方の壁が割れた。一つだった通路が、左、中央、右の三つになる。それぞれに表示が浮かんだ。
【安全経路】
【安全経路】
【安全経路】
「全部安全って書いてあるぞ」
「怪しいわね」
「罠だな」
【罠ではありません】
三人とも黙った。
「聞いてた?」
「聞いてるわね」
「余計怪しいだろ!」
床を見る。三本の通路に流れる魔力は同じじゃない。左と右は入口側へ戻る流れで、中央だけが奥へ続いている。ただし、中央の表示だけは違っていた。
【中央経路:非推奨】
「そこだ」
「真ん中?」
「ああ」
【危険です】
「分かりやすくて助かる」
中央へ走る。
【左右の安全経路をご利用ください】
「嫌だ」
【中央経路では安全を保証できません】
「さっきから、それが一番信用できる案内だな」
「褒められてないけどね」
三人で中央を抜けると、天井、床、左右の壁と、全部が一斉に光った。
「玲司!」
「ああ!」
【分散誘導失敗】
【代替処理へ移行】
【個別保護を開始します】
嫌な言葉だ。四方から透明な壁が出て、一人ずつ箱に閉じ込めようとしてくる。
「海斗!」
「後ろは任せろ!」
言い終わる前に、赤い光が広がっていた。海斗の結界が三人分の空間をまとめて包み、外側から透明な壁がギギギギと押してくる。
「個別保護って言ってんのに、まとめるな!」
【対象間の距離を確保してください】
「嫌だね!」
海斗が歯を食いしばった。
「高校の頃から三人で動いてんだ! 今さら離すな!」
「海斗」
「何だ!」
「ちょっと格好いいぞ」
「今言うな!」
「前、開けるわよ!」
操が飛び出した。氷青の軌跡が走り、剣が透明な壁の接合部を捉える。一閃、凍結。さらに一閃。壁そのものは壊さず、動く部分だけを止めていく。
「開いた!」
「進め!」
操が前、俺が中央、海斗が後ろ。走り抜けた。
【個別保護に失敗】
【対象の連携行動を危険要因として認定】
「連携まで危険扱いされたぞ!」
「実際、こいつから見れば危険なんだろうな」
「突破され続けてるものね」
【連携行動を停止してください】
「断る」
三人の声が揃った。そのまま走る。
◇ ◇ ◇
何区画抜けたか、途中から数えるのをやめた。閉じる扉、動く床、安全区画へ戻そうとする転移陣、足を止めようとする保護壁。操が前を止め、海斗が後ろを支え、俺が流れを読んで、一つずつ突破していく。誰か一人が強いから進めるんじゃない。三人だから進める。それが、今では普通になっていた。
「玲司!」
操の声が飛んだ。前方から、壁が三枚連続で落ちてくる。
「そのまま行け!」
「了解!」
操は止まらない。一枚目は可動部を凍結させて、残った隙間へ滑り込む。二枚目は片側の可動部に氷を噛ませ、落下の速度を崩して隔壁を斜めに止めた。三枚目。
「玲司!」
「見えてる!」
操の横を抜け、壁の根元、魔力の集中点へ拳を叩き込む。術式だけが揺らぎ、壁が停止した。
「どう?」
「完璧」
「当然」
「お二人さん!」
後ろから海斗の声が飛ぶ。
「イチャつくなら、これどうにかしてくれ!」
振り返ると、また白いクッション壁が通路いっぱいに迫っていた。
「まだそれ使うのか!」
「向こうのお気に入りみたいね」
「海斗、右へ逃がせ!」
「了解!」
赤い結界が斜めに展開され、クッション壁はそれにぶつかって、横の安全区画へ滑り込んだ。ぼふん。
「保護装置を保護区画に入れたぞ」
「ややこしい!」
止まらずに走る。通信に雑音が混じった。
『……瀬さん……聞こえ……』
「御影さん?」
『……接続……奥……強い反応……』
そこで途切れた。ここまで深く入ると、外との通信も厳しいらしい。
「玲司」
「ああ。もう近い」
「分かるのか?」
海斗が訊く。
「魔力の流れが一本に集まってる」
通路の先に、巨大な円形の区画が見えた。三人で飛び込む。広い空間だった。壁一面を金色の線が走り、中央には白い柱が立っていて、その先に扉が一つある。
「あれか?」
「たぶんな」
近づこうとした瞬間。
【最終退避処理へ移行します】
「最終?」
床全部が光った。まずい。
「海斗!」
「分かってる!」
赤い結界が足元に広がる。だが転移陣は、結界の外側から広がっていく。前、後ろ、左右と、逃げ場を削るように。
【対象三名を安全区画へ強制移送します】
「玲司!」
「十秒!」
「長え!」
「持たせろ!」
「無茶言うな!」
「お前ならできる!」
「そういう信頼の使い方嫌いだぞ!」
文句を言いながら、海斗は笑っていた。赤い結界が一枚、二枚、三枚と何層にも重なり、転移の光を外側へ押し返す。俺は中央の柱へ走った。
【危険行動です】
「知ってる!」
【停止してください】
「断る!」
柱に手を触れると、魔力が流れ込んできた。多い。複雑だ。全部読む必要はない。探すのは一つ、姉貴が飛ばされた時と同じ流れだけ。
「玲司!」
操の声が飛ぶ。
「前も閉じる!」
扉が降り始めていた。
「操!」
「止める!」
俺は振り返らない。任せる。背後で氷が爆ぜ、巨大な扉の左右の可動部が一気に白く染まった。ガガガガ――と音が響いて、閉鎖が止まる。
「玲司! 早く!」
「あと少し!」
「こっちも少ししかねえ!」
海斗の結界に亀裂が走り、転移光が迫ってくる。柱の中には無数の流れがあった。安全区画、外部施設、王室避難宮。その全部よりさらに奥に、一本だけ強い流れがある。姉貴の転移痕と同じ魔力だ。
「見つけた!」
流れを掴む。柱を壊すんでも、接続先を変えるんでもない。既にある、奥へ続く経路を、開かせる。
【保護対象への接近を検知】
「そこだ!」
【接近を許可できません】
「操!」
「いつでも!」
「海斗!」
「早くしろ!」
「三秒!」
「さっきから三秒好きだな、お前!」
柱に魔力を叩き込む。
【経路閉鎖】
流れを押さえる。
【強制退避】
「海斗!」
「まだ持つ!」
【侵入防止】
「操!」
「閉じさせない!」
三人の声が重なり、金色の光が激しく明滅した。
【処理競合】
【保護経路の維持を優先】
「――開け!」
ドンッ!
柱の向こうで、巨大な扉が左右へ動いた。その先に白い通路が伸びている。今までよりずっと強い魔力を感じた。
「玲司!」
「行くぞ!」
三人同時に走る。操が扉の下を抜け、俺も続いた。
「海斗!」
「今行く!」
最後に海斗が結界を解除すると、転移光が一気に押し寄せた。
「うおおおっ!?」
「海斗!」
俺は腕を伸ばした。だが、その前に操が俺の横を抜け、海斗の腕を掴んだ。
「何してるの!」
「お前、力強っ!」
「玲司!」
「ああ!」
俺も海斗の反対側の腕を掴み、三人で扉の向こうへ転がり込んだ。直後、バンッと扉が閉じる。
「……」
「……」
「……」
床に倒れたまま、数秒が過ぎた。
「今の」
海斗が息を切らしながら言う。
「オレ、ヒロインみたいじゃなかった?」
「ない」
操が即答した。
「助けられ方がな」
「玲司まで!」
「立て。まだ終わってない」
「お前だけ切り替え早すぎだろ!」
立ち上がって前を見る。さっきまでの金色とは違う、白い通路が静かに続いていた。その奥から、はっきりと同じ魔力が流れてくる。忘れるわけがない。姉貴を王室避難宮から連れ去った、あの転移の反応だ。
「玲司?」
操が俺を見る。
「ああ」
間違いない。
「この先だ」
目の前に文字が浮かんだ。
【警告】
【最優先保護対象への接近を確認】
【これ以上の接近を制限します】
海斗が立ち上がる。
「最優先保護対象って」
「姉貴だろうな」
「じゃあ正解ね」
操が剣を構え、俺も拳を握る。三人が並んだ。前衛、中央、後衛。ここまで来ても、位置は変わらない。
【保護対象との接触は許可されていません】
「知らないな」
【引き返してください】
「断る」
【保護対象の安全を最優先します】
俺は一歩、前へ出た。
「奇遇だな」
俺たちも、姉貴を助けに来た。ただし。
「本人が帰りたいって言ってるなら」
拳を構える。
「帰すけどな」
通路の奥で、最後の隔壁が動き始めた。
お読みいただきありがとうございます!
毎日7:10と19:40の2話更新です。
続きもお楽しみに!




